80,護送しよー。
アンバーを使い、〈王の右手〉から直々の命令というものは──
「第三王女の護送任務だってさ。A地点からB地点へ。A地点が王宮であり、B地点がリキュール王国。なんだろ、嫁ぎにいくのかな?」
ユリシアは手元にある王族リストを確認しながら言った。
「いえ確かに国間の政略結婚は、お決まりですが。今回の第三王女には、まだそのような予定はありませんね。よって他国に何をしにいくかは不明ですが──ふむ。まだ13歳ですが。子供ですね」
えー、ユリシアちゃんがそれを言う。
とにかく命じられたからにはやりましょう。今回、護送任務をあたえられたのは、私だけらしい。つまり私と、私の死霊軍だけで護衛をしろと。まぁ下手に小隊とか与えられるより、動きやすくていいんだけども。
「これって、〈王の右手〉が刺客を雇い、第三王女を殺し、任務失敗の私を断ずる──という策略かな?」
「〈王の右手〉がそのような分かりやすい策を使うとも思いませんが」
「そうはいうけども。軍法会議は分かりやすかったじゃないかぁ」
「あれは分かりやすいというよりも便乗ものでしたが。ちなみに、仮にお姉さまの予想した策で来るのでしたら、わたくしたちの手元に渡す前に、第三王女に遅効性の毒を飲ませておくでしょう」
「ははぁ。ユリシアちゃんも生前にくらった『遅効性の毒』策だねぇ」
ユリシアは咳払いした。
「わたくしのことはいいのですわ。とにかく『遅効性の毒』策で、わたくしたちが護送を開始してから、毒殺するというわけです。こちらは、わたくしたちが護送をはじめたときはすでに毒を盛られていた、と主張しますが、証明するのは難しいですものね。念のため、アンジェラに回復魔導を用いた万能解毒薬を作らせておきましょう」
「万能解毒薬とか、地味にチートアイテム」
しかし護衛任務というからには、命でも狙われているのだろうか。その点についても、ユリシアには推測があった。
「ひとつ考えられるのは、〈王の右手〉は本当に、第三王女を無事リキュール王国に届けたい、と思っている場合です。そのためには、並みの護衛隊ではこなしきれないだろうと。よってお姉さまに白羽の矢がたった。〈王の右手〉は、手駒とならなかったお姉さまを疎んじながらも、お姉さまの有能さをいやというほど理解しているので」
「私が有能というより、ユリシアたち死霊戦士が有能なだけのことなんだけども」
「いえ、それはネクロマンサーであるお姉さまあってのことです。わたくしたち〔不死者〕はお姉さまなくしては存在できませんし。真祖のガリーナや、人魚王女のローレライ、ついには邪神のヨグまでも、お姉さまだからこそ眷属となっているのです。お姉さまの功績ですのよ」
「やだなぁー、褒め殺しには弱いぞ、私は。弱いぞ」
「本題に戻しますと、〈王の右手〉はお姉さまならば、第三王女を護れると考えた。たとえ〈王の右手〉の策をこちらが読んだとしても、お姉さまの人のよさ──ではなく、善なる心を考えれば、第三王女を害することはないだろうと」
「褒め殺しー」
とにかく命じられた任務なので、粛々と遂行しようよ。それが仕事人というものです。なんのこっちゃ。
全員をぞろぞろと連れていくわけにはいかないので、選抜した護衛隊のメンバーは──ユリシア、リスダン、ドラゴ、ローレライ、ガリーナ。
「邪神は連れていかないのですの、お姉さま?」
「ヨグちゃんはねぇ、ヨグちゃんは。いきなり人を蟲にしたりするからね。第三王女を巨大な百足とかにされたら、困るからね。百足とか、私は飼えないからね」
「妥当な判断ですわね。ですがお姉さま、ドラゴを連れていくよりは、サラマンダーをお連れしたほうがよろしいかと。戦術の幅が広がりますので」
「あのね。ここでドラゴを置いていったら、本当に拗ねるからね」
「では、このままに──」
「ところでさ〈探索迷宮〉を経由したら、安心安全ですぐに目的地へ行けるよね?」
「第三王女に〈探索迷宮〉を経由させ、無駄な手札を教えることはありません。万が一、第三王女が〈王の右手〉側に監視されていた場合、とくにです。そもそも〈探索迷宮〉の出入り口を、リキュール国までつなげられるかは未知数ですので」
「ふーん。じゃ、普通の旅でいこうか」
というわけで──護送任務の開始日。私たちは王宮にいて、第三王女──すなわちエマ王女と会っていた。
エマ王女はユリシアのもとに行くと、その手を取った。そして、どことなく舌足らずに言う。
「あなた、わたしと同じ歳なのね! お友達になりましょうね!」
ユリシアが『助けてください』という顔で見てくる。レアな反応だなぁ。
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