8,不死者に、歩く屍に、闇の眷属に…………
月日が経つのは早いもので。
本日、めでたく士官学校に入学してから、1年が経過した。
めでたい。
退学処分にもならず、殺されることもなく、いやあ無事に、これで私も士官学校の2年生。士官学校は3年制なので、卒業まであと2年だよー。
私が、めでたいなぁ、と思っていると、ユリシアが、
「お姉さま。そんなバカづらしている場合ではありませんことよ」
なぜユリシアちゃんは、こんなに毒舌というか、愛がないのだろう。お姉さんは悲しいよ。
「あのね、ユリシアちゃん。私は感動しているんだよ、心から」
「ですがお姉さま、新入生歓迎の模擬戦中に浸られるのは、どうかと思いますのよ」
「ふむ」
ところで。
私の死霊魔導が発動してから、士官学校には何体かの〔不死者〕が移っている。それは表向きは、〔不死者〕であることを隠しているわけだけど。
たとえば、私と同室になったユリシアは、表向きは私付きのメイドということになっている。これには、あまたの不可解さがあるわけだよね。
まず私は平民の出なので、メイドとは縁がない。そもそも士官学校では、どんなに爵位の高い貴族家の出でも、使用人などをつけることはできない。
そもそもそもそも、ユリシアの態度が、メイドのメイド感がない。メイドって、私のかわりにベッドとか整えてくれるはずだよね?
またドラゴは、清掃スタッフとして『潜入』している。いや、ドラゴが清掃しているところを、私はいまだに見たことがない。
現在剣聖を軽く倒したリスダンは、ちゃっかり全生徒の剣術指南役としておさまっている。
あと呼んでもいないのに、たまに骸骨戦士を見かける。一部の生徒が目撃しており(毎回、夜に)、ちょとした『学校七不思議』を提供している。とりあえず良かったのは、あれ以来、死竜は出てきていないことくらいか。
ユリシアの説明では、これらの使い魔(と、ユリシアは言うわけだ)を、ごっちゃにしてはいけないと。
「まず、わたくし、ドラゴ、リスダンなどは、〔不死者〕という枠組みに入りますのよ。これらは、一度は死んだ人間が、新たに不死の肉体とともに復活した状態をいいます。戦闘力や脳力などは、全盛期のものが付与されますし、肉体年齢もそうですわね。つまり80歳で死んだ者も、全盛期が20代ならば、そのころの肉体年齢として復活するわけです。
ただし、生前に成長していない肉体年齢には、〔不死者〕でもなることはできません。わたくしが良い例ですわね。わたくしは、この13歳のときに毒殺されましたので、13歳で復活したわけです。一方、リスダンなどは史実によると、115歳まで生きたそうです。ですが全盛期は、やはり20代から30代ということで、そのころの肉体年齢で復活いたしました。まぁ正確な肉体年齢は不明ですが」
「〔不死者〕って、誰でもなれるの?」
「いいえ、われわれのような〔不死者〕は、特別です。不死の身体を、新たに与えられるわけですもの。よって生前、飛びぬけた能力を持ち、さらに歴史に名を残した者、いわば『英雄』格だけが、〔不死者〕になることができますの。
それ以外の、凡庸な死者が蘇らせることは、可能ですが。それは不死の肉体は与えられず、死んだときの肉体のまま蘇ります。つまり、〔歩く屍〕ですわね。よだれを垂らして、人肉をもとめて彷徨うだけの下級ですが。まぁ、数は稼げます。
アンバーなどは、これになりますわね。いまのうちに、よだれを垂らす練習でもしていれば?」
私と一緒に説明を聞いていたアンバーが、拳を振り上げて怒った。
「なんでよ!!」
ユリシアは、アンバーの抗議をスルーで続ける。
「骸骨魔導士や、彼の部下である骸骨戦士は、〔闇の眷属〕ですわね。吸血鬼や人狼なども、これに含まれます。そのうち、彼らもお姉さまに挨拶しにくることでしょう」
「え、吸血鬼とか人狼も来るの? うわぁ…………うわぁ……来るもの拒まず!」
「最後に〔四つの災厄〕ですが。死霊使い最大の戦力であります。お姉さまはすでに、死竜を呼び出しましたわね」
「〔不死者〕に〔歩く屍〕に〔闇の眷属〕に〔四つの災厄〕、覚えることが多いなぁ。でもひとつだけ、確かなことがある。アンバーは、ゾンビになると」
「だから、どうしてそうなるのよ!!!!」
で、現在。
どうしてか私は、本年の新入生全員を相手に、たった一人で模擬戦をやっていた。敵の総数は、46名。
一方、私は一人。まぁ厳密には、死霊の猛者たちがいるわけだけども。
「お姉さま。リスダンとドラゴが配置につきましたわ。まずあの二人で片付くでしょうが、念のため、骸骨魔導士の召喚準備をお願いいたします。とはいえ、骸骨たちは最終手段ですが。どうもあの骸骨というのは、手加減を知りませんので。下手すると、今年の新入生は全滅か、または全員〔歩く屍〕ということになりますわね。それはそれで、笑えそうですが」
よーし。死んでも、骸骨は出さないよ、骸骨は。
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