表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/215

7,一人軍隊。

 


 ユリシアと〈王の右手〉の交渉は、ぼそぼそと続いていた。


 ドラゴは、二人の王国親衛隊ロイヤルガードを見ながら、挑発的に笑いかけている。

 私は廊下をちらっと見て、そこにやはり二人の王国親衛隊ロイヤルガードが、ボコボコにされて倒れているのが見えた。

 とりあえず生きてはいるようで、そこはホッとしたけどもねぇ。


 私は瞑目した。人生とは、流れるがままである。河の流れをゆく木の葉のごとし、である。うむ。


 ハッとして目を開けると、ユリシアがこちらを見ていた。


「お姉さま、話はつきましたわ。お姉さまはこれからも、この貧相な、失礼、脆弱な、失礼、雑魚な士官学校に在籍し続けることができます。それが、お姉さまの望みですものね? お姉さまでしたら、すぐにでもこの世界に宣戦布告できるのですが──」


 どこからツッコめばいいのやら。とりあえず、『世界に宣戦布告』の点を、否定しておくことからはじめよう。


「そんなことは、しないよー」


「承知しております。わたくし、お姉さまの妹として、そして生涯参謀として、理解していますのよ。お姉さまの望みが、なんなのかを。ひとまず、この士官学校を最優秀で卒業するといたしましょう」


「オーケー」


〈王の右手〉ことコルドー侯爵が言った。


「ライラくん。これからは、君は一人でパーティを組んでもらうよ。おそらく君は、卒業後も、そのような形式になるのだろうが。一人軍隊といったところか。君には、どうやら死霊使い(ネクロマンサー)として、唯一無二の死霊軍があるようだ」


「はぁ」


 え、死霊軍なんているの? 初耳なんだけども?


「ところで、中庭にいる死竜アンデッド・ドラゴンを、元の場所に戻してくれるかな? 死竜アンデッド・ドラゴンを召喚せねばならぬほどの敵は、()()()()()いないのだから」


「ですが、私が呼んだわけではありませんので」


「いいえ、お姉さまが呼んだのですわ。お姉さまは死霊使い(ネクロマンサー)として、〔四つの災厄〕を召喚することができますの。死竜アンデッド・ドラゴンは、〔四つの災厄〕の中では最弱ではありますが──それでも、都市を亡ぼすくらいならば、十分すぎる単体戦力です」


「だから呼んでないって」


「お姉さま、命の危険を感じましたわね?」


「うーん、王国親衛隊の人に首チョンパされそうかも、とは」


「お姉さまは命の危機を感じたことで、無意識に死竜アンデッド・ドラゴンを呼び出したのでしょう。ですので、お姉さまはただ、『帰れ』と命じるだけで良いのですわ」


「そうなの? ふーん、簡単だね。帰れ」


 窓の外で、またも落雷が轟いた。この世のものとも思えぬ咆哮が遠くへと消えていく。今回、コルドー侯爵自身が窓の外を見やり、さすがにホッとした様子でうなずいた。


「死の竜は、消えたようだ」


 ユリシアがうなずく。


「冥界に戻ったのですわ。お姉さまが望めば、いつでも呼び出せますのよ。残りの〔四つの災厄〕も、すぐに呼び出せるようになりますのよ」


「いや、とくに呼びたくないんだけども」


 コルドー侯爵が咳払いし、


「ではライラくん。これからも当校の生徒として、学業に励み、優秀な士官に育ってくれたまえ。新たな特殊パーティ編成については、私から君の担任に言っておこう。では退室してよろし──」


 ここで、廊下からアンバーが駆けこんできて、息を切らしながら言った。


「閣下、申し訳ございません。ロード辺境伯のアンバーです。どうか、この私もライラ=オブリビオンのパーティに加えさせていただきたく願います」


 コルドー侯爵が面白そうに、私を見やった。


「ライラくん、どうかね?」


 私はアンバーを見やった。

 アンバーが、こくこくとうなずいている。どうも私についていけば、父親を認めさせることができると思っているらしい。

 つまり辺境伯にとって『一番目の子』は、このアンバー。実は、アンバーも幼いころは、自分が次なるロード辺境伯と育てられた。ところが弟が生まれことにより、家督は男子たる弟が継ぐことになった。

 あげく危うく政略結婚させられそうになったアンバーは、士官学校に入学することで難を逃れたのだとか。


 しかし平均的な生徒のままでは、卒業と同時に、父親に呼び戻され、結局、どこぞの貴族のバカ(自分も貴族の出であることは、ここは棚に上げているようで)と結婚させられる。飛びぬけた成績を残す必要があり、そのためには私についていくのが正解、と思い込んでいるようで。


 うーむ。正直、私が進む道は、なんか地獄の匂いがしているのだけども。まぁアンバーが、それを望むならば、アンバーの賭けにまで文句を言うつもりはないよ。


「閣下、アンバーをパーティに加えてください」


「うむ、そうしよう。では、君たちは今日からパートナーだ。二人して、課題任務などにもあたってくれたまえ」


 アンバーがハグしてきた。


「頑張ろうね、ライラ!」


「そういえばアンバーって、私のことを殺そうとしていたよね?」


「過去は過去。あたしたちはまだ若い。未来は、光り輝いているわよ!!!」


 まぁ、いっか。


よろしかったらブックマーク登録、下の評価、お願いしますー!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ