6,死の竜。
ユリシアと話していたところ、また来客があった。今日は人気者だね!
士官学校の教員の一人であり、なんでもコルドー侯爵が呼んでいるとかなんとか。
まだこの時代に蘇ったばかりのユリシアは「?」という感じだが、アンバーはなぜか慌てている。アンバーを慌てさせるとは、コルドー侯爵って、誰だっけ?
まぁ侯爵位なので偉いのだろうけども、爵位のランクだけが力を示しているわけではないよね。たとえ零落したって、よほど王を不愉快にさせない限りは、爵位は取られないわけだし。その反対に、異常に力をつけたからといって、ぽんと上の爵位が降ってくるわけでもないし。
アンバーがハッとした様子で、私に耳打ちした。
「バカね。〈王の右手〉でしょうが」
ほう。つまりロゴス王国の実質、王に次ぐ権力者であり、王に耳打ちできる立場の人。またこの士官学校の校長でもある人か。私に用なの? やだなぁ。
「やだなぁ」
と言ったら、アンバーに後頭部をはたかれた。
ユリシアが『この辺境伯の小娘、首をへし折ってしまいましょうか』という顔で、にらむ。
私は『うーーーむ』とうなりながら、教員の案内で、コルドー侯爵のいる校長室に向かった。といっても、普段はこの学校にいる人ではない。〈王の右手〉としての政務が忙しく、今日だって士官学校にいるはずがないのに。
つまるところ、私と会うために来たのだろうか。
うーん、やだなぁ。
ところで〈王の右手〉に対するときは、跪くのだっけ? 礼儀作法的に跪かなくていい場合、逆に失礼になるからなぁ。
そのとき、私は当たり前のことに気付いた。
士官学校の生徒が校長に対するのならば、そこは敬礼こそが確実でしょうと。
〈王の右手〉ことコルドー侯爵は、思ったより小柄だった。執務机の向こう側から、こちらを観察する。
私の左右に、王国親衛隊がいるのが、考えものだ。いつでも私の首を刎ねられる位置だもの。
「ライラくん。らくにしてくれたまえ」
「了解であります」
「ではさっそく本題に入るが、どうやら君は〔死霊使い〕のようだね。ネクロマンサーとは、私の知識が正しければ、かの冥王のことだ。紀元前、この世界を暗黒に支配していた、かの冥王。エルフの王によって討たれた、かの冥王の生まれ変わりなのか、君は?」
「閣下、身に覚えのないことであります」
うーむ。つまり、私がネクロマンサーだから、この両脇にいる王国親衛隊員が、私の首を刎ねるということかぁ。お父さん、お母さん。なぜか私の命は、いつもいつも風前の灯なんだよ。
随分近くに、雷が落ちた。それから、どうにもこの世のものとも思えぬ咆哮が、外から轟いてくる。腹の底まで冷えてくるような。
なんじゃこりゃ。
コルドー侯爵が視線を向けると、王国親衛隊の一人が窓から外を見やり、コルドー侯爵の耳元に報告する。
コルドー侯爵は、実に悠然としたまま言った。
「いま、そこの中庭に、死竜が召喚されたようだ。ちなみに以前、この人間世界にて死竜が目撃されたのは、ロゴス王国が建国する前。そこの人々を絶滅まで追い詰めたが、最後の最後で勇者の一撃を受け、冥界へ飛ばされたという話だ。ところで、君は、このことをどう思う?」
「……驚き桃の木山椒の木であります」
執務室の外が騒がしく、ドアが開いた。
ユリシアと、もう一人、見るからに格闘家という男が入ってきた。両の拳が、新しい血で汚れている。そういえば執務室の外にも、王国親衛隊が2人ほど警護についていたような。
え、〔ソードマスター〕だけがなることのできる王国親衛隊を、拳でボコったの?
私の首を刎ねる役の王国親衛隊員が動こうとしたが、そのまえにコルドー侯爵が止めた。
ユリシアが、コルドー侯爵の前に立つ。
「あなたも見たことと思いますが。いまこの外には、死竜が待機していますのよ。わたしくのお姉さま、われらが主、ライラ=オブリビオンに危害を加えたならば、ただちに死竜は飛び立ち、この一帯の人間たちを皆殺しにしますわ」
「えー」
と言ったのは、私である。
「そういう暴力的なのは感心しないなぁ」
ユリシアが溜息をついた。
「お姉さま。いまわたくしがしているのは、恐喝的交渉ですので、いまは黙っていてくださいます?」
「あい」
主と言いつつ、どうもユリシアちゃんは、私に厳しいなぁ。
視線を横に向けると、格闘家の人と目があった。この人も、アンデッドのようだ。
「あなたは?」
「俺は、ドラゴというもんです。80年前の王国格闘技大会で、対戦者全員をワンパンチで殺しまくったもんだから、処刑されちまいやした。いえ、ワンパンで殺したなかに王族がいたのがまずかったんですがね」
と言って、ドラゴはにっと笑った。
うーん。なんで私は平和主義者なのに、暴力的な人ばかり集まってくるのだろうか。
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