5,集う。
憤怒のサリバンが、怒りの特殊技を発動。
スキルとは、魔導を使わぬ兵科に存在し、マナを用いた特殊な戦闘技法。サリバンは得意らしき《雷鳴》を使い、これが雷をまといし刃の一撃。
しかしリスダンは、そんな必殺の技も、ただの木の棒で軽く弾く。おそらくリスダンも、何らかの特殊技を使っているのだろうけども(木の棒で切りあっているのだからね)、いやはや、戦闘力の差は歴然としている。
「私は、とくに用なしだよね」
というわけで、私は退散させていただく。とにかくせっかくつながった首だ。このまま無事にお持ち帰りしたい。寮の自室に戻り、一息ついていると、アンバーがやって来た。
「すごかったわよね、リスダンという人。あのひと、本当に初代剣聖だったら、もう500年は昔の人よ。仮に遺体が保存されていたとしても、あんなふうに滑らかな動きができるはずがないわよ。一体どういうことなの?」
「私は知らないよ。ところでリスダンとサリバンはどうしたの?」
アンバーはくすくすと笑った。
「リスダンは、エセ剣聖のサリバンを木の棒で倒したわよ。サリバンくん、肉体には怪我しなかったけど、プライドはずたずたね。仮定として、リスダンが本物ならば、同じ剣聖でもこれだけ差がある。リスダンが生きた時代は、このアガベ大陸は戦乱が満ちていたというし、各国には伝説級のつわものがゴロゴロいたのよ。その中で戦い抜いた剣聖と、この平和な時代にぬくぬく育った名前だけ剣聖では、格の差がありすぎるということよね」
うーーーーーむ。誰かアンバーに、『口は災いのもと』と教えてあげればいいのに。
「それでリスダンはどこに行ったの?」
「さぁ。サリバンを叩きのめしたら、教師の制止も聞かずに消えたわ。まぁエセとはいえ、いちおうは現在剣聖のサリバンに圧勝した男を、ここの教師が止められるはずもないわよね」
「誰か来たね」
部屋にノックがあった。ちなみに私の部屋は個室なので、これは私に用があるということだ。
アンバーが扉をあけると、13歳くらいの少女が入ってきた。エメラルドグリーンの瞳に、栗色の髪の毛が柔らかそうな、可愛らしい少女だ。しかし私は知らないぞ。
「お姉さま!」
と少女が言うと、アンバーが「ふーん」と、
「ライラの妹なの? 似てないわね」
妹ではないんだけども。
そして『妹ではない少女』は、アンバーをゴミを見るような視線で見て、
「なんですの、あなたは? お姉さまに対して、態度が生意気ですわよ。ひれ伏しなさい」
「あのね、ライラの妹ちゃん。あたしはロード辺境伯の娘よ。身分の違いというものを理解しなさい」
すると『妹ではない少女』は笑い出した。なんというか、13歳くらいなのに、その笑いには妙な凄みがある。
「わたくしに階級を語りますの、辺境伯ごときが? そもそもまだ辺境伯という爵位が廃止になっていないのも驚きですが。わたくしの名は、ユリシア=ベルイマン。わずか在籍期間3か月とはいえ、この頭脳を買われ、歴代最年少の〈王の右手〉を務めた、このわたくしですのよ」
「なんか、すごい自信だねぇ。ところで〈王の右手〉は、もっと歳がいっているよね。というか、男の人だし」
アンバーが考え込みながら、
「ユリシア=ベルイマン。その名は聞いたことがあるわよ。王アンドロスの治世下で、少女という政治的には最も脆弱な立場ながら、政略に長けていたため〈王の右手〉にまで上り詰めたという。残念ながら、毒殺されてしまったけれども。仮にユリシアが生きていて、王宮のかじ取りをしたならば、いまの時代さえも変わっていただろうと、そう評価されているわ。250年ほど前に死んだいるわけだけども」
ユリシアはスカートをつまんで、優雅にお辞儀した。
「こうして、お姉さまの死霊魔導によって蘇ったのですわ。すでに何体かの有能なる配下が、お姉さまのもとに参じているはずですが?」
アンバーが私をゆすぶってきた。
「初代剣聖リスダンや、骸骨魔導士たちのことよ! やはり、あんたはタダ者ではかったのね! 死霊魔導を使い、死んだ英雄や、髑髏種族を呼び出しては、使役することができるのよ!!」
「うーん。あんまり揺すぶられると、酔うんだけど」
「この辺境伯の小娘、わたくしのお姉さまに馴れ馴れしいですわね」
アンバーが私の肩に腕をまわして、
「あたしとライラは、親友なのよ。そこのところ、覚えていてほしいものね」
ユリシアが疑わしそうに聞いてくる。
「そうなのですの、お姉さま?」
「うーーん。親友未満の友達未満かな?」
「それは、ただの知り合いですわね」
死霊魔導ねぇ。
どうりで白魔導が使えないわけだよ。私の魔導紋は、なんと死霊魔導とかいう代物だったのだから………………
「うーん、まぁいいか」
よろしかったらブックマーク登録、下の評価をお願いいたしますー!