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4,初代剣聖。

 


 魔獣騒ぎから、1か月が経過。

 ここまでに、わりといろいろとあった。


 まず危険な魔獣がいるところで課題任務をさせた件について。遺族を中心として抗議があった。とはいえ王国士官学校の実質的な管理者は、〈王の右手〉。

 まぁ右手があるからには左手があるわけだけども。確か〈王の右手〉が評議会のまとめ役であり、王の次に権力を持つ者。

 対して〈王の左手〉が王の後継者だったかな。

 まぁ、私には縁のない王宮の権力構造に興味はないけども、とにかく士官学校の『校長』は偉すぎて、たとえ貴族家だろうともいつまでもグチグチ言ってはいられない。

 担当の訓練教官が処刑されたとか、地下牢に入れられたという噂もあったけど、普通にぴんぴんしていたし。


 ちなみに、私は新しいパーティに加えられた。このパーティでも、私がエセ聖女であることは知られているわけだけども、もともと6人体制のところに入ったので、『邪魔しないならばいてもいいだろう』ということで。実にありがたい。


 これでひとまず、暗殺される心配はなさそう。しかし、このままエセ聖女で、卒業まで在籍できるかは心配するところだけども。

 そうそう、あの意味不明な骸骨たちについては、私とアンバーだけの秘密になった。

 まず第三者に話しても信じてもらえそうにないし、私もあんまり知られたくないような気がするので。


 ところで、あの事件以後、アンバーとは別パーティになったのに、なぜか一緒にお昼をよく食べるようになった。


「ライラ。あんたは、ただ者じゃない気がするわ。あたしは、あんたについて行くことに決めた。いつか一緒のパーティになれるといいわね!」


「まぁ、そう言うのなら、そうかもしれないね」


 何が評価されたのか知らないけども。まぁ友達ができるのはいいことだよね。


 そんなある日。

 王国近衛兵団より、〔剣聖〕の通り名を持つ〔ソードマスター〕が、剣の訓練をつけるため招かれた。どんな兵科でも、士官たるもの剣技くらいは身につけておけ、ということらしい。私は剣を三回振っただけで、手にまめができたけども。


 訓練を終えると、〔剣聖〕ことサリバンが長剣を鞘におさめ、生徒たちに言った。


「まったくだらしがない。今年の新入生には、見どころのある者が一人もいないようだ」


 私の隣にいたアンバーが、ひそひそと言う。


「〔剣聖〕とはいうけど、このアガベ大陸では100年、戦争が起きていないでしょ。つまり〔剣聖〕といっても、まともな戦場は知らないということよ」


 しかしサリバンさん、耳は良かった。

 アンバーのひそひそ声を聞きつけて、鋭い視線を向けてきたので。


「なんだと? いまのは、お前か? たしかロード辺境伯の娘だったな」


 アンバーが私の背中を押して、


「いいえ、この子です。平民の出のライラというものが言いました!」


 うーむ。これが友達のすることだろうか。


「あの、申し訳ございません。愚かなことを口走りました」


 アンバーのかわりに謝罪したところて、サリバンが私に向かって、訓練用の剣を放ってよこす。


「いいだろう。それだけでかい口を叩けるのならば、どうかこの俺に、剣の訓練をつけてもらおうか。さぁ、遠慮することはない、平民出のライラ殿よ」


 私はアンバーを見やった。アンバーは口をぱくぱくさせてから、さらなるひそひそ声で言った。


「また骸骨戦士を呼び出したら?」


 だから、あの骸骨戦士たちは、私が呼び出したわけではないというのに。しかし、まさか〔剣聖〕たるもの、士官学校の生徒が侮辱したくらいで、本気で殺したりはしないでしょう。仕方ない。アンバーのかわりに、少しばかりお尻ぺんぺんされて、この一件を早く終わりにしよう。


 私は訓練用の剣を手にとって、〔剣聖〕サリバンと向き合った。


「お願いします」


 とりあえず後ろに移動しよう。そうしようとして踵が、地面に浮き上がったところに当たり、私は尻もちをついた。

 おかげで助かった。

 私の首があった空間を、サリバンの剣が通り過ぎたのだ。まさしく神速といえる速度で、私は風圧だけを感じた。紙一重で首を刎ねられずに済んだわけだけども。えーー、本気で殺す気なの? 大人気ないなぁ。


「ほう、運がいいようだな。平民出のライラ殿」


 私は殺されそうなのだけど、誰か助けてくれないかなぁ? しかしどうも私の人気はないようで、周囲の生徒や教師たちは、助けようという意思はなく、面白がって見ていた。アンバーだけは、ちょっと罰が悪そうな顔をしている。


 サリバンが怒りの表情で言う。


「次はないぞ、平民の小娘が!」


 うーむ。変なところで、死ぬんだなぁ、私は。


 瞬間。

 刃鳴りの音が轟いた。


 おっと、まだ首はつながっている。


 私の前には、いまさっきまではいなかった男が一人、片手にはなんとただの木の棒をもち、サリバンの一撃を防いでいた。

 その男の人は、まだ尻もちをついている私を見やり、まるで見下ろしているのを詫びるように頭を下げた。


「わがあるじ、偉大なる死霊使い(ネクロマンサー)よ。このエセ剣聖なる男、どう処分いたしましょうか?」


 どうもサリバンのことを言ったらしい。いやぁ、本人を目の前にして、エセ呼ばわりは怒らせるよねぇ。


「ところで、あなたは?」


「私は、リスダンと申す者。あなた様に永久の忠誠を誓う者でもあります」


「へぇ」


 サリバンが激高する。


「リスダンだと! 初代〔剣聖〕にして、イジヤ戦役を勝利に導いた名を騙るとは、冒涜だ! 死ぬがいい!!」


 たぶん、本物なんだろうなぁ。


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