36,〈天路歴程〉。
生首が、飛んだ。
いやぁほんと。サラ・シュタンの生首が、ぴょんと飛んで、私の頸にかじりついてきたんだから。
「わぁぁ、やられたぁぁぁあ!!」
「お姉さま!!」
ユリシアが慌てて、サラ・シュタンの生首を引きはがす。すっかり頸動脈をかみ切られたので、私の頸からは、すさまじい勢いで血が噴き出しているのだった。これは速攻で失血死するよ。
気づくと、アンジェラがガムを噛みながら、両手を出して、素早く詠唱。ちなみに数多ある魔導系統の中でも、回復魔導だけが詠唱を必要している。
「《最上の回復》」
頸動脈と皮膚の破損が修復され、さらに失われた血も輸血されたらしい。ふぅ。死ぬかと思った。生首はといえば、なんとユリシアの手から逃れ、さらにサラ・シュタンの胴体が立ち上がる。ガリーナの右手から、魔杖〈マドリギ〉が奪い取られ、サラ・シュタンの手に戻った。
「首を刎ねられたのに死なないなんて。反則だい!」
私はとりあえず訴えておく。
サラ・シュタンは魔杖〈マドリギ〉を両手で持つ。
「この私は、〈天路歴程〉に選ばれた七人のひとりだ。この程度の攻撃で、命は絶たれんぞ! 私の無限再生は、貴様らの常識を超えている! そして〈天路歴程〉とは、この世で最強たちの集まりだ!」
「無限再生?…………じゃあ、もっとしつこい攻撃だったら、死ぬの??」
「は?」
私は素朴な気持ちで尋ねたのだが、それが一種の命令と解釈されたようで、一斉攻撃が開始された。
リスダンの剣技奥義《無限斬り》からはじまり。
ドラゴの必殺スキル《億千パンチ》が怒涛の攻めからの。
真祖ガリーナ、蜘蛛状態のビリーロストと続く、やたらと粘着的な連続攻撃。
ついにサラ・シュタンは、ただの肉片まで削りに削られた。転がった魔杖〈マドリギ〉を、ローレライが《水刃Ω》で破壊する。
サラ・シュタンの肉片を、ユリシアが踏みつける。そして魔鼠族のチキータが、その肉片を食べて咀嚼して飲み込んだ。ゲップする。
「えーと。誰が、そこまでしろといったのかな?」
ちなみに屍食鬼たちは、骸骨魔導士と、彼が率いる骸骨戦士たちによって駆逐され、すっかり死体が山積みとなっていた。
私は腕組みする。
「うーーーん。結局、サラ・シュタンを殺しただけで終わったの? そりゃあ、ガートン市を殲滅したのは、サラ・シュタンだったけども。どう考えても、サラ・シュタンは、なんか『奴は四天王で最弱』とか言われていそうな立ち位置だったよね」
「お姉さま、二つほど訂正しておきますのよ。
まず〈天路歴程〉なる存在は、七人で構成されているようですので、四天王ではありません。さらに『最弱』だったとは思えませんわ。
サラ・シュタンは準備さえ整えば、都市ひとつを破壊できる殲滅魔導を放つことができたのです。それに今回も、われわれ全員を相手にしておきながら、まさかお姉さまに致命傷を与えるところまでやるとは。さすがに生首になってから、あの再生能力を見せるとは思いもしませんでした。
アンジェラがいなければ、われわれは冥王を失うところでしたのよ。ですから〈天路歴程〉の『最強』とまではいいませんが、『最弱』ということはないでしょう。中くらい、というところではないでしょうか」
「うーむ。あのね、サラ・シュタンが『最弱』とか『中くらい』とかは、どうでもいいの。ところでリスダンたちは、サラ・シュタンを追跡していて、このホーソン住宅街まで来たの?」
リスダンがうなずく。
「その通りです。わが君が、一瞬とはいえ致命傷を受けてしまったのは、もとはといえば我々がサラ・シュタンを始末するのに時間をかけてしまったため。申し訳ございません」
「いやいや、すぐにアンジェラが治してくれたからいいんだけども。しかし、どうも〈天路歴程〉とやらの手がかりは、ここで途切れそうだね。ところで〈天路歴程〉が、シュタン少将たちが呼称している〈古き者たち〉なのかな?」
「お姉さま、おそらく〈古き者たち〉の組織の中でも、特別に優れた者たちが〈天路歴程〉を名乗ることができるのでしょう。それが七人いて、その一人だったサラ・シュタンを、いまわれわれが滅ぼしたのです。そして、少なくともガートン市殲滅の実行犯は、この女でした。ひとまず、お姉さまは復讐を果たしたということでよろしいかと」
「うん、そうだね。で、〈天路歴程〉は、だから四天王みたいなものだよねー」
ドラゴが何やら言いたそうなので、私は聞いた。
「ドラゴ、どうしたの?」
「姐さん。うちにも作ってはくれませんか? ぜひとも、作ってほしいんです」
「作る? 何を?」
「もちろん、死霊軍内における名誉。姐さんの四天王ですぜ!!」
面倒くさそうな案件だね、それは。




