3,骸骨魔導士
いま頭を食べられたのは、パーティリーダー。
この事態は想定外すぎるわけだけど。
いま、こんどは〔アーチャー〕のパーティ仲間が、魔獣に踏みつけられた。口から内臓が噴き出る。
私は腹部の魔導紋をかきながら、これは大変なことになったよ、とつくづく思う。
課題任務には訓練教官がつきそうわけだけど、同時に森林内に散開するパーティは多く、この近くにはいないようだ。
そもそも、いくら貴族の一族とはいえ、士官になろうというのだから、リスク0というわけにはいかない。
それでも通常ならば、ここら一帯に現れる魔獣なんてものは、小鹿サイズのはずなのに。
あれは小山なみ──というのは大袈裟かもだけど、これは一軒家の大きさはある魔獣だよ。体長8メートルはあって、形態としては熊のようではある。ただし背中から、クリスタル状の突起物が多数。
ふむ。そのクリスタルが輝いた、かと思うと、魔獣の口から瘴気弾が放たれた。これは〔メイジ〕のパーティ仲間に直撃。「ぎゃぁぁあああ」という絶叫とともに溶けていった。
「うわぁ、これはひどい」
私を含めて6人いたパーティが、残り3人となってしまった。
私以外だと、伯爵家の嫡男エイブラムと、辺境伯の長女アンバー。アンバーが私の背後にまわり、私を魔獣へと押しやる。
「あんた、役立たずなんだから、せめてあたしのかわりに死になさいよ!」
「えー。そういうのは、よくないと思うなぁ。だいたい、どうせ全滅しそうだし?」
「ふっざけんじゃないわ! あたしはこんなところじゃ死ねないのよ! お父様にあたしの実力を認めさせるまでは──だから、あんた、どうにかしなさいよ!!」
そんなまた、こっちは白魔導も使えないのに、あんな規格外の魔獣相手にどうこうできるはずもない。
魔獣が地団太を踏むようなことをした。それだけで震動が置き、大樹が倒れる。
大樹はエイブラムの上に倒れる。命までは奪ってないようだけど、これで気絶してしまった。しかも大樹の下敷き。
「アンバー。とにかく、エイブラムを助けないと。まだ生きているようだし」
「エイブラムなんか知ったことじゃないわよ! あいつ、パーティ内では父親の爵位が一番格上だからって、いつも偉そうだったもの! ほら、逃げるわよ! あたしは、逃げる──ぎゃっ!!」
転んだらしい。私はアンバーに手を貸しつつ、エイブラムを助けようと走り出した。すると目の前に、魔獣が立っている。この巨体さで、なとんいう敏捷性。
「お父さん、お母さん、私はここで死にます。うーむ、もう少し長生きできると思ったけどなぁ」
瞬間、肌が焼けるように熱くなる。
魔導紋が燃え滾っている。
魔獣が咆哮を発する。
大地から這い出してきた、あまたの骸骨戦士たちが、そんな魔獣に群がる。
何十体もいる骸骨戦士たちが、魔獣にしがみつきながら、ひたすら長剣でメッタ刺しにしていく。
こんどは別の場所から、ローブをまとった骸骨が現れた。この骸骨は格が違うようで、空中に浮かんでいる。しかも発声した。
「われは骸骨魔導士。古よりの契約のもと、わが主である、死霊使いをお助けする。《魔炎極》!!」
蒼い炎が、骸骨魔導士より放たれる。
時間稼ぎだったらしい骸骨戦士たちが、一斉に離れる。
そして魔獣だけが、《魔炎極》という蒼い炎に呑まれた。魔獣が生きたまま燃えていき、ついには灰となった。
私は唖然としていた。少し後ろでは、アンバーも唖然としていることでしょう。骸骨魔導士がこちらに漂ってきて、なんか跪いてきた。
「わが主、あなたさまに仕えることをお許しいただきたい」
「はぁ。助けてくれて、ありがとうございます。だけど、人違いだと思いますよ。私は、ネクロマンサーじゃないですし。まぁ来るものは拒まずだけども」
「感謝いたします、わが主」
それだけ言うと、骸骨魔導士は骸骨戦士たちを引き連れて、地面の中に消えた。
私は腰を抜かしていないのを確認して、大樹の下敷きになっているエイブラムを引っ張り出す。
「アンバーも手を貸して。エイブラムを運んで、訓練教官を見つけないと。さっきの魔獣が一体だけとは限らないし、ここから避難するように言わないと、ほかにも犠牲者がでるかもだよ」
魔獣の灰の中に、クリスタルの欠片が落ちていた。魔獣の背中から突き出していたものの欠片だね。すっかり燃え尽きなかったようだ。なんとなくそのクリスタルは回収しておく。
ふと見ると、アンバーが座り込んだままだ。どうもお漏らししたらしい。私がそれに気づいたことに、アンバーも気づいた。
「あ、あああ、あんた! このことを誰かに言ったら、殺すわよ!!!」
「別に言わないけども。そんな脅さなくても、言いふらしたりしないよ。さ、行こう」
アンバーは、パーティの犠牲になった3人の死体を見やった。
「…………みんな、死んじゃったわ」
「私たちは生きているんだから。もうけものだよ、ね?」
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