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2,課題任務

 


 暗殺計画を耳にするとは思わなかった。


 しかも暗殺の標的が、この私とは。暗殺なんて、重要な人物だけが標的にされると思っていたけども、実は『嫌われ者』もなるのだ。


 それを聞いたのは、とある平日の昼休み。


 食堂が混んでいたので(模擬戦のため騎士団が一中隊、駐屯しているため)、私はサンドイッチ片手に中庭付近を歩いていた。

 すると、私が属すパーティの面々5人が、車座になって話しているのを発見。こちらはまだ気づかれていなかったので、茂みに潜む。ここは匍匐前進して去ろうかな。


 というわけで計画したわけではないけども、盗み聞くことになった。


「あの女──エセ聖女のことだが、ここで何とかしないと、おれたちの成績に響くぞ」

「親父の話じゃ、士官学校での課題任務の成績が、卒業後の出世にもかかわってくるというからな」

「それどころか、卒業まで危ういでしょ。確か卒業試験って、クソ難しいクエスト形式って聞いたけど?」

「ほかのところは、6人がフル活動できるってのに、うちのところだけは5人だからな。一人はお荷物だし」

「なんで退学してくんないんだろ。いい加減、腹が立つんだが」

「もうさ、死んでくれてよくない? それが、アタシたちのためでしょ。あの女も、それくらいは役にたってくれなきゃ。あいつがいなくなったら、新しいパーティメンバーがまわされるか、最悪はクラス全体で再編成でしょ。パーティ6人制は絶対なわけだから」

「なんだよ、あいつを階段から突き落とすか? バレたら退学じゃすまないかもしれんぞ」

「まあ平民出の生徒が死んだくらいで治安警察の沙汰にはしないだろうがな、身分の違いってもんがあるんだ。だが確かに、退学処分はくらうかもな」

「放校されたなんて聞いたら、親父がキレるぞ」

「アントンとこのお父さん、王国軍の少佐だったわね」

「なあ。確実に事故として処理されればいいんだろ。なら次の、課題任務でさ」

「任務中の事故で死んだことにするか。それなら学校内で階段から突き落とすよりかは確実か」

「おれたちみたいに貴族の出でもないから、たいした調査もされず、『任務中の死亡』ってことになるだろ」

「じゃ、それでいくかー」

「賛成~」


 えーー。そんな殺さなくてもいいのに。殺されるほうの身にもなっていただきたいものだ。


 匍匐前進で退散しておく。

 まぁ気持ちは分からなくはないけども。


 しかし困った。士官学校の生徒として死んだ場合どうなるんだろ? かつて有事のとき、一定の優秀な生徒は、下士官への指揮権が付与されると聞いたことがある。まぁその有事というのは、敵軍に帝都内まで攻め込まれたときだそうだけども。だけどこれは超有事だものね。


 通常は、卒業してはじめて士官候補生として、軍内での地位を得られるわけで、そこで死ねば弔慰金が出ると思うけども。

 いまはまだ、厳密にはただの生徒だからなぁ。それでも給料の返還くらいは免除してもらいたいものだけど、このロゴスというところは、血も涙もないから。いや、ほんと。私が死んだら、我が家が死ぬ。ここは何としても、生き延びないと。


 とにかく、次の課題任務に出ないようにしないと。


 そこで、次の課題任務の当日。私は仮病で授業を休んだ。ひとまず、これで一時的には逃れられたけども。


 自室で寝ていると、廊下が騒がしい。やがてパーティ仲間たちが勝手に入ってきて、さも親切そうな様子で言ってきた。


「ライラ。君が授業を休んだと聞き、おれたちは先生を説得したんだ。ライラが、課題任務に参加できるように。先生は、おれたちの仲間意識に感動されていたぞ」


 いやいや、病欠しているのに課題任務にだけは出たがる人が、どこにいるの。しかし、こうなると強制的に連れていかれるようだ。そこまでしてこの人たちは、本日、私を殺したいらしい。


 誰かー、助けてー。


 今回の課題任務は、近隣の森林内に出現したという魔獣の駆除。


 魔獣というのは、〈滅び谷〉から漏れ出るマナによって成長する。つまり〈滅び谷〉が遠く彼方のこの一帯では、マナ量も少なく、魔獣もたいして成長しない。大きさも、せいぜ小鹿程度。

 つまり士官学校の生徒が課題任務として仕留めるには、ちょうど良い強さというわけだね。

 そして私が、魔獣との勇敢なる戦いのもと死亡、という話にもっていくのにも。


「困ったなぁ、実に困ったなぁ」


 と私が嘆いていると。

 パーティリーダーが背中を押してきて、


「おいライラ。そっちの茂みから、何か気配がする。ちょっと行ってみてきてくれ」


「えーと。とりあえず、何が潜んでいるか確かめるため、矢とか撃ってみては? 〔アーチャー〕の方は??? または火炎弾とか、〔メイジ〕の方は???」


「いいから、行けって!」


 ついに私は、単身で茂みに行く。そこには──魔獣ではなく、ウサギがいた。良かったぁ。


 背後から悲鳴、というか絶叫がしまくるので振り返ると、小山のように大きい魔獣が、私のパーティ仲間を喰らっているところだった。頭から、がぶりと食らいつき、引きちぎる。頭部なしの死体が、私の足元へと放り捨てられた。


「うわぁ。なんか、すごいことになっているよ…………………うーむ。腹が、かゆい」


 いや、これは腹部の魔導紋が、熱をもっているのかな?



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