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15,子爵位を頂戴する。

 


 邪神教徒の討伐に成功。

 しかし乳母救出作戦だったのに、なんだか釈然としないなぁ。


「結局のところ、お姉さまはまだ命令を受ける最下層にいる身ですので。ここからもっと上の地位に行き、遠くまで見渡せるようになって初めて、さまざまなことに先手を打てるようになるのです。または王都陥落を」


「王都陥落はしませんー」


 だけど、下っ端で利用されるだけというのも、確かに癪なものかもしれない。ほう。平和主義の私に芽生えた、小さな闘志(?)の火よ。……明日には燃え尽きそうだぞ。


 ところで──今回は、私の死霊戦士たちが、随分と勢ぞろいしたようだ。さすがに死竜(アンデッド・ドラゴン)は登場しなかったけども。ユリシア、ドラゴ、リスダンは、このまま一緒に士官学校に戻る。

 骸骨魔導士(スケルトンメイジ)は、冥界へと戻るそうだ。へぇ、いつもは冥界にいたんだね。私は握手して、


「今回はありがと。というか、()()ありがとうだね。またよろしく」


「わが(あるじ)、いつでもお呼びくだされ。どこにいようと馳せ参じますぞ」


 つづいて吸血鬼の真祖(つまり一番偉い吸血鬼ということかぁ)、通り名〔吸血姫〕のガリーナも、自分のいた場所に戻るという。ただし冥界ではなく、キャッスルアンロックという小さな町だとか。そこは王国の中でも、辺境のほうであり、接するのはかの〈暗黒地帯〉。そのため王政府からの認識も薄く、いまはトートル男爵という、無名な貴族が領主。


「トートル男爵というのは、王国建設のころに創設されたのだけれど、300年前には相続者がいなくて、消滅してしまった爵位なのよぉ。それを、この親切なアタシが復活させてあげたというわけ」


 つまりガリーナは、勝手にトートル男爵を名乗って、キャッスルアンロックを治めているのだそうだ(厳密にはその周囲も領土だが、人が住んでいるのは、この町だけ)。


「町民には大人気なのよ、アタシ。お金とかはとらないの。血液税だけを導入しているのよん。これは毎月、町民はほんの少しだけ、献血すればいいわけ。それだけで、アタシの空腹は満たされるのねぇ」


〈暗黒地帯〉には魔獣も多くいるが、まぁ真祖が護っているのならば、その町の安全度は高いのかもしれない。にしても、『未認可』とはいえ、私の配下には領主までいるのか。


「まあとにかく、ガリーナも、これからよろしくね。どうやら、長い付き合いになりそうだよ」


「はぁい。わがあるじが、こんなに可愛い子で、アタシはうれしいわぁ」


「いやぁ、口がうまいんだから、もうっ」


 ついでに馬車を引いてくれるさそり族も冥界に戻るというので、礼を言っておく。


「またよろしくねー」


「ぱおおおおん」


 へぇ、蠍って鳴くんだね。


 その後、私は来たときと同じポニーに乗り、朝陽とともに出立。すると市街地から、ボガ子爵のもと領民、つまりはいまは──確か領主不在となった地は王に返還さるんだっけ。とにかく市民たちがやって来た。そのなかから代表者という人が前に出てきて、


「お待ちください。われわれは長らく、ボガ子爵によって苦しめられてきました。あなた様が、それから解放してくださった。どうか、新たな領主として、われらをお守りくだされ」


「あいにく、私は平民なんですよ。きっと新しい領主は、いい人になりますよ。まあ邪神を信奉している人よりは、マシになるはずです」


 士官学校への帰路は、とくに問題なく。学校に到着したときはさすがにクタクタだったけども、〈王の右手〉こと校長に報告せねば。どこまで知っているのか、どこまでが『計画通り』なのかは、疑問なところではあるけどもね。


 しかし校長室に〈王の右手〉ことコルドー侯爵の姿はなかった。まぁいないのならば、それはそれでいいんだよ。

 ところが廊下に出たところで、副校長に声をかけられる。校長が〈王の右手〉ということで陰が薄いが、この副校長は現役の少将だ。


「オブリビオン。君に〈王の右手〉閣下より勅命が発せられた。受け取りたまえ」


 王だけけでなく、〈王の右手〉も勅命は出せるのだね。するとそれは、すでに王に匹敵する権力では。王と不仲になったら、王国が二つに分かれるね。やだなぁ。

 ちなみに勅命は勅書の形で渡され、厳重に封がしてあった。私は忌まわしいアイテムを手にしてしまった気分で、自室に戻った。そこでユリシアと、今回留守番でずっと不機嫌だったアンバーに、この勅命のことを話す。


「まだ読んでないけど、なんだと思う?」


 アンバーが腕組みして、唸る。


「わざわざ勅命という形って、それはもう士官学校の領域をこえているわけよ。つまり校長としてではなく、確実に〈王の右手〉の権限で、あんたに何かをさせるか、与えたいのよ」


 ユリシアは勅書をにらみながら言った。


「ボガ子爵」


「え?」


「ボガ子爵の相続者は、実は騎士団の(おさ)でした。唯一の血縁者だったのですわ、お姉さま。リスダンが滅ぼしましたが。こうしてボガ子爵を継承する者はいなくなり、このまま消滅爵位になりそうなものですが」


「ですが?」


「〈王の右手〉権限ならば、それを好きな平民に授けることも可能でしょう。いえ、爵位が正式に与えられた時点で、その者はもう平民ではありませんが」


 勅命の内容は、まさしくユリシアの読みどおりだった。


「やだなぁ。〈王の右手〉は、私になにをさせたいんだろ。あと変な名前の子爵だぞ」


「お姉さまという、最強の手駒を育てるつもりでしょう。ひとまず、お姉さまはその軌道に乗っていて良いと思いますのよ。もちろん、最後までそのレール上にいる必要は、ありませんが」


 繰り返すけど、変な名前の子爵だぞ。

 恥ずかしいから、あんまり名乗らないでおこう。

 変な名前の──


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