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14,平和的殺戮。

 

 仕方ないことはある。

 道に迷っている人を見つけたら、道案内してあげるものだ。邪神の信者という貴族家と遭遇したら、とりあえず──


「平和的な解決を望みます!」


 と、私は声を大にして訴えた。


 リスダン、ドラゴ、真祖のガリーナが、我先に駆け出し、迎撃に出てきたボガ子爵の騎士団を、手あたり次第に殺しだす。

 とにかく、あんまりに殺すものだから、ボガ子爵家の廊下も階段も血だまり。血の池ができて、湯気がたっている。


 私は口をあんぐりあけて、この悲惨なありさまを眺めた。


「平和的な解決は、どこいったの?」


「お姉さま。ボガ子爵の私設騎士団は、首までとっぷり邪神にはまっていたのです。地下の儀式では、きっと処女の肉でも食べていたに違いありません。そんな狂信者たちと話し合いの余地があると思いますの?」


「えーと。ないの?」


「ありませんわ。とすると、われわれが取れる平和的解決とは、なんでしょうか? それは悪にそまった狂信者たちを、一人たりとも逃さずに、地獄に送ることですのよ。すなわち、平和的殺戮!!!!一択ですわ」


「ふーーーーーん。ちょっと、そこの部屋で、平和的殺戮という新たな概念について考えてくるね。狂信者たちを、えーと、平和的殺戮したら、呼んで」


 しばし一人になる必要がある。とにかくユリシアもドラゴもリスダンも、命が軽すぎるよ。そりゃあ、ボガ子爵とその一派は、本当に邪神を崇拝していたようだし、きっと処女の肉も食べていたのだろう。その肉の焼き方について、私は問うべきなのだろうか? 問うべきではないよね。


 しばらくして、ユリシアが入ってきた。


「お姉さま、ボガ子爵を捕らえましたわ」


「うーん」


 ボガ子爵とは、ホールで会った。拘束されたボガ子爵が、私を見るなり憤怒をむぎたしにする。


「歓迎してやったというのに、なんて惨いことをしてくれる! この悪魔め!!」


「邪神崇拝は罪だからね。それにサイクロプスに、領民を食べさせるとは」


「ふんっ。領民の命は、わしのものだ。よそ者にどうこう言われる筋合いはない」


 にしても、今夜サイクロプスが現れたのは、どういうタイミングだろう。ボガ子爵は、私たちを泊めておきながら、サイクロプスが出てくるのを止めなかった。そこはコントロールできないことなのだろうか。


 深く考え込んでいたら、ユリシアに呼ばれた。

 地下室へ降りると、なんと本当に、処女(かは知らないけども)領民の人肉が吊るされている。食肉工場のようだよ。


「ユリシアちゃん。適当なことを言ったのかと思ったのに」


「邪神教徒が、異教徒──つまり邪神を崇拝しない『普通の人たち』の人肉を食すのは、有名ですのよ。しかしながら、力のない者でしたら、せいぜい闇市で買う程度でしょうが。ボガ子爵のように権力のある者となれば、このように領民などが狩られるのです」


「領主だからって、こんなにやりたい放題していいものじゃないよね」


 私が家族と暮らしていた地は、王領。つまり王の領土だったから、こういう邪悪な領主につかまることはなかったわけだけど。同じ王国でも、生まれた場所によって、随分と境遇が変わるようだ。

 吊るされた人たちのなかには、まだ年端のいかない子供がいた。すでに血抜きなどの処理をされているようだ。むごいことをするものだ。


「しかしこの地下室、なんでこんなに寒いんだろう」


「冷却の魔導がかかっているのでしょう。諸侯ならば、専属魔導士がいてもおかしくはありませんが──しかし、ボガ子爵の〔メイジ〕を狩ったという報告は、まだ受けていません。お姉さま!!」


 ふいに、私の周囲に魔法陣が展開されていく。そして全方位から、氷結の柱が伸びてくるではないか。その先端の尖がり具合ときたら。

 串刺しにされる!!


 刹那。

 骸骨魔導士スケルトンメイジが現れ、すべての氷結柱を火炎魔導で溶かす。


「あ、どうもです」


 骸骨魔導士スケルトンメイジが漂いながら、ユリシアを見下ろした。


「なんと使えぬ参謀か。わがあるじの肌に、傷がつくところであったぞ」


 ユリシアが上目遣いで、骸骨魔導士スケルトンメイジを見る。


「でしたら、あなたがもっと早く登場すれば良かったのですわよ」


「われはまだ、あるじが命の危機を感じたときのみ召喚されるのだ。さて、わがあるじよ。ご命令いただければ、敵方の〔メイジ〕を狩ってまいりましょう」


「あのー、じゃ、よろしく」


 骸骨魔導士スケルトンメイジが猛スピードで飛んでいく。

 私とユリシアも地下室を出た。再度、ボガ子爵のもとに戻る。そのとき、私は自分が何をすればいいのか分かった。あんまり気乗りしなかったけども。

 ボガ子爵の騎士団長を撃破してきたリスダンが、その生首をもって歩いてくる。


「わがあるじ、この者をどうされますか?」


「領民に対する非道は、ちょっと一線を越えたどころじゃないよ。本来ならば、王の法廷に出すべきなのだろうけども。とはいえ貴族家というのは、何かと抜け道を知っているものだし。私だって、たまには義憤にかられることもあるのだ」


 というわけで、私はリスダンから剣を受け取った。


「ボガ子爵、成敗!!」


「ぎゃぁぁあ!!」


 ボガ子爵の首へ、剣を振り下ろす。私は一閃のもと、その首を刎ねるつもりだった。邪神にそまったその首を。しかし──


「あれ、うまく切断できない、ぞ」


「お姉さまは、非力ですので。人間の首は、そう容易く刎ねられるものではありません」


「うわぁぁぁ。血が噴き出しているのに、ぜんぜん切断できないんだけど!」


 一方、絶叫するボガ子爵。


「ぐぎゃぁぁああああああぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」


「お姉さま。早く殺してさしあげないと、これは地獄の痛みですわよ。早く刎ねてあげないと」


「頑張ってるのに! 私、頑張ってるのに! 刎ねないなぁぁ!! この、この、この、この、この! この!」


 頑張ったんだよ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一太刀で終わらせては犠牲者も浮かばれますまい。 竹鋸引きよりはマシだと思ってもらいましょう。
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