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13,真祖。

 

 地面が裂けて、まず巨大な(さそり)型の魔獣がはい出てきた。この巨大(さそり)には、なぜか馬車がくっ付いてた。つまり馬車の馬がないバージョン。

 馬のかわりに、この巨大蠍が車を引いているようだ。


「こんなところにも、邪神の眷属が!」


 私の隣に身軽に着地したユリシアが訂正を入れる。


「いえ、お姉さま。蠍族は、闇の眷属に忠誠を誓い、かれこれ1万年という話ですわ。すなわち、お姉さまのために使役できる魔獣ということですのよ」


「うーむ。まぎらわしいぞ」


 とにかく足もくじいたことだし、この蠍族の馬車に乗り込んだ。これで市街地まですいすい行ける。そして市街地では、なるほどサイクロプスだ。身の丈は20メートルほど、ひとつ眼をぎらつかせながら、いまも市民を食いちぎっている。


 しかしここの市民は、ボガ子爵が護るべき領民のはず。しかしボガ子爵の私設騎士団の姿がない。職務怠慢か。

 とにかくサイクロプス退治だ! 

 まぁ、私がすることはとくにいなんだけども。というか、逆に近くにいたら邪魔っぽいし。


 リスダンが剣技を披露。サイクロプスのアキレス腱を切り裂く。倒れこむサイクロプスの頭部に飛びついたドラゴが、特殊技スキル《覇炎拳》を発動。マナと火炎をまとった拳が、サイクロプスの眼球を破壊。

 その砕けた眼球から、ドラゴが頭蓋骨内へと入り込み、破壊の限りをつくした。


 最後には雄たけびを上げながら、サイクロプスの脳みそを引きずり出して来たのであった。私はそんなドラゴを指さして、


「ユリシアちゃん。なんか、暴力的すぎる人がいる!」


「お姉さまの配下の一人ですので、あの暴力性は、そのままあるじであるお姉さまのものですのよ」


 とにかくサイクロプスを撃破できたことだし、ボガ子爵邸に戻るとしよう。

 部屋に戻ったとたん、影の中から、20代の女が現れる。妖艶な女性で、黒い衣をまとっている。にしても登場の仕方が、


「さらりと怖い」


 ユリシアは、新手の女を観察してからうなずいた。


「ふむ。吸血鬼ヴァンパイアの真祖ガリーナでしたか。ようやく馳せ参じるとは、吸血鬼の敏捷性というのも嘘のようですのね」


 ガリーナは色っぽく微笑んで、


「あーら。元はただの人間だった分際で、もう冥王ちゃんの側近づら? はっきり言って、あんたじゃぁ、力不足よん。このアタシが馳せ参じたからには、冥王ちゃん、どうか相談役として使ってね」


「はぁ」


 また新しいメンバーが増えたのかぁ。この調子で大所帯になったら、全員の名前を覚えられるかが心配だ。


 ところでガリーナという真祖、どうもユリシアとは初対面のようだけど、さっそく仲が険悪。まぁ、仲良しこよしでいけるチームではないのかもしれないけども。みんな、自己主張が激しそうだし。というか、チームプレーに特化していそうな人が、一人もいない!


 ユリシアは鼻で笑った。


「ガリーナ。いまのところ、あなたがしたことといえば、お姉さまを驚かせただけですのよ?」


「ふぅん。そうかな、元人間ちゃん。アタシは、この邸宅の地下に邪神像を祭った神殿があることを見てきたのよん。そして邪神の眷属であるサイクロプスが、こうもあっさりと市街地で市民を餌にしていた事実。このサイクロプス騒動は、かれこれ半年は続いているそうよん。さぁ、これだけの情報、あなたは集められたのかしら?」


 ユリシアは悔しそうにガリーナをにらんだ。


「あなたと違い、わたくしはお姉さまが死霊魔導に『覚醒』するまで、死んでいた身。ネクロマンサーが存在せずとも活動できる吸血鬼に、情報の量で敗北することは、まだこの時点では恥ではありませんのよ」


「はいはい、言い訳はできるよねん」


 リスダンが間にわって入った。


「いまは仲間割れをしている時ではないだろう。われらのあるじにとって、最大の利益となる行動をとるときだ。それでユリシア。ガリーナからの情報を追加したところ、この状況をどう読むのだ?」


 ユリシアはリスダンを見やり、うなずいた。


「おそらく乳母サッシャリナの誘拐の黒幕は、〈王の右手〉でしょう」


 私は小首をかげておこう。実際、小首をかしげるに相応しい、意味がわからないので。


「むむむ。なぜ、そうなるの?」


「はい証拠はありませんが。ですが、そう考えるとスッキリしますの。

 ボガ子爵は、邪神を崇拝している。その邪神に従属しているサイクロプスに、領民という餌を与えるくらいには心酔していたようです。そして王政府は、なんらかの理由で、このことを見てみぬフリをしている。

 というのも、さすがにサイクロプスが市民を食べていて、王政府に情報が入らない、ということは考えられませんので。そしてこの状況を、〈王の右手〉たるコルドー侯爵は、快く思っていないのでしょう。討伐したい。

 しかしながら、ボガ子爵を討伐するため、お姉さまは派遣できない。だからお姉さまを送り込むくらいに、妥当な理由が必要でした。それが『王太子殿下の乳母を誘拐した盗賊団の討伐』──です。実際に、本物の乳母が拉致されたかも、こうなると怪しいものですが」


「ややこしいなぁ。だけどさ、コルドー侯爵は、邪神信者のボガ子爵を止めたかったわけだよね? ということは、『いい者』ということ?」


「そう単純な話ではありませんのよ、お姉さま。少なくとも、ひとつの事実として、お姉さまが死霊使い(ネクロマンサー)と理解した上で、邪神の信者であるボガ子爵を討たせようというのです。つまり邪神に喧嘩を売らせようと。性格が良い者のすることではありませんわね」


「ふーむ」


 まぁ、サイクロプスの脳みそを、うちのドラゴ君が引きずりだしちゃったからなぁ。

 喧嘩は、がんがん売っちゃった? やだなぁ。

 しょーがないけども。


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