100,人型、火竜型、ブチギレ型。
ロゴス王の影から、無数の屍食鬼が吐き出される。いやぁ、凄い勢いだよね。ドバドバである。
しかし屍食鬼とは、確か〈古き者たち〉に仕えていたはず。そんな異形たちを好んで影から出してくるとは、ロゴス王も趣味が悪い。しかしながら、どういう原理だろう。
一方、サラマンダーは嬉々として、美女モードから火竜モードへと変身。火竜状態でも話せるようで、私に言った。
「冥王陛下。これこそが、この私が魚娘を凌駕している理由であります!!」
魚娘って、ローレライのことかい。
刹那。サラマンダーの口(厳密には口内にある噴出口)から、火炎が噴出される。それは火炎の激流のようで、まとめて屍食鬼たちを巻き込んでは、生きたまま燃やし始めた。うーん、いいですね。リスダンが私の前に立ち、
「わが君、安全地帯までお逃げください」
だがユリシアが言う。
「いえ、ロゴス王さえも陽動かもしれません。お姉さま、少々、熱いですが、しばしこの玉座の間でお待ちください。いまサラマンダーとリスダンが、ロゴス王の首を真に取りますのです。リスダン、急ぎなさい。お姉さまは、暑いのよりは寒いほうがお好きなのですのよ」
「いや、それは限度問題だけどもね。ただ寒いほうが、着こめば対処できるよね、という──いったい何の話だい??」
この間も、サラマンダーは休まず火炎を噴き出している。この火炎は、屍食鬼のような特殊皮膚の敵さえも燃やし尽くす火力でありながら、不必要なところまでは燃え移らない。つまり王城全体を火災現場にすることなく消滅している。ただの業火ではなく、サラマンダーの操作可能な業火ということだね。
こんな場面を見ていると、やはり適材適所というものはあるのだなぁ、と思える。いまこそが、サラマンダーが輝くとき。さぁ、敵を燃やし尽くすのだー。
瞬間。
ロゴス王の影から、これまでとは異なる屍食鬼が現れる。その右腕が、これまた異様(屍食鬼自体が異形なのだから、これはまるで『頭痛が痛い』なみの重複表現である。なんの話だ)。
とにかくその右腕は、巨大な盾のようなのだ。盾が同化している。しかも盾にふさわしく、なんとサラマンダーの火炎を押し返しだす。サラマンダーがさらに火力を上げるが、ついに〈盾の屍食鬼〉が火炎地獄を吹き飛ばした。
さらに跳躍し、サラマンダーの腹に蹴りを叩きこむ。火竜状態のため、かなりの重量のあったサラマンダーが、木の葉のように吹っ飛ばされる。
そのまま壁を突き破って、城外まで飛ばされてしまった。
「あぁっ! 生き生きしていたサラマンダーが! なんということだ!」
「お姉さま。屍食鬼の中には、より強化された者たちがいると聞きます。どうやら、〈盾の屍食鬼〉は、その一体のようですわね。しかし、まさかうちの戦力の中でも『強め』のサラマンダーを撃破するとは。なかなかEASYモードとはいかないようですわね、お姉さま」
「ふーむ。やっぱりユリシアちゃんも、〈盾の屍食鬼〉って名付けた?」
ちなみに影からはさらに、左腕が剣と同化した、どう見ても〈剣の屍食鬼〉もまた現れた。盾と剣か…………とくにコメントが思いつかぬ。
リスダンが前に出る。
「わが君、ここは私にお任せください」
そしてリスダンは、〈盾の屍食鬼〉と〈剣の屍食鬼〉、二体の特異な屍食鬼を相手取って戦いだす。その戦いは拮抗しているように見えたけども、
「剣技《覇道螺旋》!!」
とたんリスダンの剣が螺旋回転し、その破壊力が増す。しかしリスダンは、繊細な斬撃で敵を斬るのを好む戦闘スタイル。思うに《覇道螺旋》のような大味の技は、好みではないはず。それでも使わざるをえなかったのは、やはり二対一という状況は、かなり厳しいのだろう。
ふと視線を転ずると、壁の大穴から、サラマンダーが戻ってきた。しかし火竜状態ではなく、美女な人間状態──いや、それとも違う? 基本は美女の姿なのだが、瞳や髪は赤く輝き、火の粉を発している。そして両手は、竜の鱗状。そこから火炎の刃が突き出している。
「サラマンダー、どうしたの?」
隣にいたユリシアが言う。
「聞いたことがあります、お姉さま。サラマンダーには、三つの形態があると。まず人間の形態、火竜の形態。そして、火竜状態の火力さえも大きく上回る、ヒト型にしてケモノ型の形態。古来より、畏怖をこめてこう呼称されてきました──〔ブチギレ形態〕と」
私は固唾をのんだ。
「〔ブチギレ形態〕…………………………………………………………まんまだ」
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