#03
あれから数日。
毎晩の様に、フェルナンドと夫人は情事を重ね、俺がそれを監視し、我慢出来ずにルーシーを呼び出すというループが繰り返されているが、仕事自体には全く進展がない。
フェルナンドの行動原理は何なのか?
俺も初仕事という気負いがあるからか、焦りが出始めていた。
ルーシーに「焦ってはダメよ」と言い含められてはいるのだが。
ただ、こうして気ばかり焦っていても、意味がないのは俺も十分分かっているので、パウル君とイザベラ夫人からのさりげない情報収集は欠かす事無く続けていた。
パウル君との話の中で、一つ気になったのは、夫人は、我が国の男爵家出身なのだが、現在では疎遠になっており、パウル君が祖父母の顔を知らないという事だ。
その男爵領は、辺境伯家からかなり距離も離れており、嫁いでから疎遠になるのも無理は無いが、当主である相手が亡くなり、子供を抱えてとなると、心配にならないのだろうか?
まあ、辺境伯家として不用意な干渉を恐れてという事もあるかもしれないが。
少しだけ釈然としない。
こういうちょっとした違和感を大事にしなくちゃな。
これはルルカの教えでもある。
掘り下げてみるか。
かといって、夫人に直球で聞いても無意味だろう。
聞き出す方法を考えよう。
◇
焦れながら数週間が過ぎ、場が動いた。
国境付近で、大規模な獣害が発生したとの事。
この世界の獣は魔獣と呼ばれ、狂暴さと被害の大きさは、前世の比ではない。当然軍が対応する事態となり、フェルナンドが辺境伯軍を率いて出動した。
よし、俺も動こう。
まずは前回流された件について夕食後にアポを取り、夫人の部屋を来訪する。
夫人は甘い果実酒を薄く割った飲物がお気に入りで、愛飲している。ルーシーに頼んでデキャンタで用意してもらい、持って行く。
当然、情報部特製の催淫剤入りだ。
お酒を勧めながら、最初は真面目な話を進めて行く。
このソファでフェルナンドと。とか考えが逸れそうになるが、いかんいかん。
まだそのフェーズじゃない。
フェルナンドにあれだけ開発されているのだ。
催淫剤で軽くトランス状態になれば、崩れるのも早いだろう。
「ですので、パウル君の長所である記憶力を伸ばす意味でも、学園一年目の教科については全て習得し、・・・・夫人?どうかされましたか?ご気分がすぐれない様ですが?」
「何でも、何でもありませんわ。ふぅ。少し飲みすぎた様です。体が熱くなって来て。少し涼みます」
夫人が窓を開けようとソファを立ち、おぼつかない足取りで窓に向かうチャンスに、俺は夫人に寄り沿いボディタッチを敢行する。
「あぶないですよ。夫人足元がふらついています。大丈夫ですか」
腰に右手を回し、左手で首筋を撫でながら、耳元で囁くと、催淫効果が一気に効いたのか、夫人のカラダから力が抜け、目は虚ろになり、俺に身を任せてくる。
俺は、ソファに夫人を横たえ、ボディタッチを繰り返しながら、大丈夫ですか?と顔を近づけると、期待通り、夫人からキスを求めて来た。
少しは記憶が残るはずなので、どうしても夫人から誘った体にする必要があるからな。
少し露骨めに戸惑った様子でキスに応じると、夫人の舌が侵入して来た。なかなかのテクニックだ。フェルナンドに鍛えられているな。
一旦唇を放し、ダメ押しで一言言っておく。
「夫人。いけないのは夫人ですよ。私も男です」
ここまで念を押しておけば、俺が被害者で確定だ。遠慮は要らない。
それからは主導権を取り、夫人の体を堪能させて頂いた。
健康的なのもいいけど、寂しげで華奢な未亡人ってそそるな。
フェルナンドはどちらかと言えば、いう事をきかせる方だが、俺は望みを叶えるスタイルなので、夫人に口を開かせる方向で、して欲しい事を全て言わせ、彼女の脳に刻み付けた。
満足させては意味がないため、明日以降の継続をほのめかしながら、少しお預け気味で切り上げる。
毎日焦れながら夜を待たせるスタイルで、夫人の元に数日通い、毎晩少しずつ調教し続けた結果、理性を奪う事に成功した。
回を重ねて慣らした事で、催淫状態では記憶も残らないほどのトランス状態を獲得出来ている。
ようやく下準備が整った。次は情報を引き出す番だ。
ルーシーと相談して、彼女を物陰に待機させ、共同で情報収集に当たる事になった。
さて本番だ。
理性を失わせるために、一通りの前戯を済ませ、脳が焼ける直前の状態まで持って行き、刺激を加減しながら質問を織り交ぜて行く。
会話はとても言えたものではないので、割愛するが、何しろ一つ質問に答えるたびに、欲しい欲しいと要求が凄くて参った。
全て聞き出すのにはだいぶ時間が掛かったが、要約とするとこんな感じだ。
・夫人は実は男爵家の実の娘ではなく遠縁の子で、男爵家で娘と一緒に育った
・男爵家の娘が婚姻時、内密に入れ替わって嫁いで来た。入れ替わりの理由は知らないが、育てて貰った恩から、断れなかった
・嫁いでから前当主とは相思相愛で、何の問題もなかった。
・フェルナンドには前当主存命中から手を出されていた。前当主もうすうす感づいていたかもしれないが、不問だった
・フェルナンドには自分の言いなりになれば、全ては上手く行くと言われていて、体の関係の事もあり、服従している
ふむ。
夫人の入れ替わりにと、フェルナンドの意図。
糸口はこの2つに集約されるな。
それにしても、一週間近くかけて、催淫剤まで使ってこの程度の成果か。
救いは、夫人は自分から俺を誘惑したと思っているので、俺から関係を断ちさえすれば、何もなかった事に出来るという事か。
フェルナンドにばれても困るだろうし。後始末の手間と危険が無いのは助かる。
せっかくの機会だ。最後なので、俺も思う存分楽しませて頂いた。
やっぱ大人の女の人は凄い。あの表情で、あのセリフは脳が焼かれる。めちゃくちゃエロかった。
ソフィアごめん。俺は悪い人になっちゃったよ。
心の中で婚約者に懺悔を述べた。
事が終わり落ち着いたら、ひとまず、情報部には現状の情報だけは報告をしておく。
入れ替わった男爵家の本当の娘の行方と、入れ替えた目的の解明については、情報部の判断に任せよう。
◇
暫くして、獣害騒動が沈静化し、フェルナンドが辺境伯家へ戻って来た。
次の情報収集ターゲットは彼だ。
と言っても、当然夫人の様な訳いは行かない。
ひたすら地道にご機嫌を伺い、ゴマをすり、一緒に酒を飲んで気に入られるように動いた。
前世の大型受注前の接待攻勢を思い出すなー。
先輩に、返事は「はい!」か「YES!」か「喜んで!」以外はダメだと教わったのが懐かしい。
半月も掛かったが、全身全霊を込めた接待のお陰でだいぶ気に入られ、このまま彼に仕える話まで浮上するほど信頼を得られるようになった。
要因として、この屋敷にフェルナンド直属の文官が居ない事も大きかった様だ。
本来彼が居るべき辺境伯軍司令部にはもちろん副官がおり、書類仕事をする部下も多くいるのだろうが、この屋敷で人を使おうとすると、領主代行である夫人を通さねばならない。
直接差配しようと思えばもちろん出来るが、信用を置いていないのだろう。そこに俺が上手く滑り込んだというところもある。
彼の私的な書類の整理や、代筆、お金の管理など、軍に関係しない事を担当する様になった。
お陰で、隠されていた情報を収集でき、徐々に事の全貌が見えて来た。
結果から言うと、こっちが正解だった。夫人にあんな事をしなくても何とかなったな。
まあ、業務上の役得という事で。
宜しければ評価をお願い致します
励みになります