#01
前作「訳あり教師に恋をした」の続編です
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こちらも4話構成となります
「タクト、お前の最初の仕事が決まった」
俺は父上に書斎に呼ばれ、そう告げられた。
学園を卒業してから王城の見習い情報部員として、修行?という名の雑用を半年ほど勤め、大分慣れては来ていたが、最初の仕事って本番って意味だよな?
「これまでは雑用ばかりだったがな。行先はエメクル辺境伯家。そこで情報収集が今回の任務だ。お前は家庭教師として派遣される。詳細は明日、王城にて伝える」
おおお。
情報部っぽい仕事だ!
CIA的な?エージェント的な?
何かわくわくして来たぞ。
退出して良いとの事だったので、自室に戻る。
情報部の仕事は他言無用だ。
そもそも情報部の存在さえも非公開で、父上も俺も表向きは内務省の官僚扱い。
せめて許嫁のソフィアとだけは初仕事の喜びを分かち合いたかったが仕方がない。
心を落ち着けるために、最近一番のお気に入りのメイドのエルを呼び、奉仕してもらった。ふぅ、お陰で何とかスッキリした。
エルの口技はなかなかだ。
相変わらず思うけど、今世最高。恵まれた環境だ。
◇
翌日、父上に言われた通り王城に登り、指令を受ける。
上司から書類を元にレクチャを受けるが、もちろんレクチャ終了後に書類は焼却される。
学園時代にルルカに記憶力を鍛えられたのが活きてるな。
鍛えられたのは写真記憶法と言って、画像として記憶する方法だ。瞬時に書類の内容を覚えたり、人の顔を覚えたりするのに役に立つ。
元々物覚えが悪い俺には苦行だったが、他の事も含めて既にあの頃から情報部教育が始まっていたという事に気が付いたのは、つい最近だ。
レクチャによると、今回の俺のターゲットは、エメクル辺境伯家の内部情報の収集。
エメクル辺境伯家は、つい最近当主が病没して、現在は未亡人になった夫人が当主代行を務めている。
息子が一人居て、十二歳。成人になる十六歳まで四年間代行するという事だ。
ただ、亡くなった当主には弟がおり、通常の感覚であれば、その弟が代行を務めるのが一般的で、奥方が代行というのは違和感がある。
この辺が情報収集の目的だろうか?
「今回、タクトには一人息子の家庭教師として潜入してもらう。任務期間は半年の予定だ。些細な事でも構わん。得られた情報は逐次報告せよ。これが携帯型の魔道通信装置だ。一方通行だが情報の報告にはこれを使用する様に」
おおお、これが話だけ聞いていた超国家機密の携帯通信装置。要はボイスメールを送受信できる装置だ。アンテナも電力も無くどうやって?魔道の世界は良く分からんが何しろ凄い。上がるな。
貴重品で数台しか存在しないらしい。壊したら大変だ。大切に扱わなきゃ。
◇
「はじめまして。ご紹介を受け、パウル様の家庭教師として派遣されて参りました、タクトゥルトス・アカナと申します。半年間になりますが、誠心誠意ご教育させて頂きます。何卒宜しくお願い致します」
俺は、エメクル辺境伯家に赴任し、当主代行を務める未亡人のイザベラ夫人と息子のパウル君を前に挨拶を述べた。
普通の貴族子息だと、形だけ低姿勢でも態度が鼻につくのだが、そこは前世の人生経験が活きるところだ。
社畜として飛び込み営業しまくって来たからな。どこから見ても平民の家庭教師だ。
身分も偽造も完璧で、末端貴族の男爵家の傍系で、数代前に商家で成功した家の出で、頭が良くて学園に入り、今はフリーで家庭教師をしているという肩書だ。
「タクトゥルトゥス?さん?こちらこそ、宜しくお願いしますわ。パウル、貴方も来年から学園です。この半年の準備期間にしっかり教えて頂くのですよ」
わざと偽名を呼びにくく設定しておいたから、さっそく掛かってくれた。
「呼びづらい名前で申し訳ございません。私の事は、“タクト”とお呼び下さい。
パウル様、心配ございません。学園に入る前の知識としては、それほど難易度は高いものはございません。基本的なところからおさらいしながら、確実に基礎を固めて参りましょう」
名前は基本的なところなので、出来る限り同じにしておいた方がいい。タクトはまあ、それなりにメジャーな名前だしな。
俺が、大丈夫だよ、という風に微笑み掛けると、パウル君はホッとしたのか、緊張を解いて話しかけて来た。
「タクトさん。宜しくお願いします。僕はあまり覚えるのも話すのも得意じゃないので、不安だったけど、タクトさんが優しそうで良かったです」
うっわ。純真。
何か後ろめたいな。
まあ、学園に入るための教育をするのは予定通りなので、本腰を入れてしっかり教える事で、後ろめたさを拭おう。そう思った。
それにしても、イザベラさん美人だな。
年齢はデータ上三十二歳だが、どう見ても二十代前半にしか見えない。ルルカと同じくらいだ。
ダークブロンドの髪を伸ばし、切れ長の目に、落ち着いていて、ミステリアスな雰囲気さえある。
思わずベッドの上を想像してしまった。
いかんいかん。今回はそういう話じゃない。乱れ方を想像するのは、一人になってから。
俺の滞在場所には、二階の客室が用意された。
使用人の方の部屋かと思っていたが、当てが外れたな。あまり接触させたくないのかもしれない。
使用人からの情報収集は別に作戦を考えよう。
パウル君の教育は、午前、午後2時間づつの合計4時間だ。
ルルカに教えてもらった中で、学園に関係する事だけなら十分に教えられるな。
その日は歓迎と称して夫人とパウル君と3人で夕食を取り、世間話を披露した。学園の事を多く聞かれたが、入学してから情報が漏れても辻褄が合わなくなるので、生徒会長話は伏せて一般的な楽しい話で済ませた。
◇
次の日からの授業は、概ね問題無く進んだ。
パウル君は、なかなかどうして優秀で、物覚えも悪くなかった。ただ世間慣れしていないのか、話すのが苦手というのは本当で、自分の意見を整理して話すという部分に時間を割く方針に切り替えた。
少しずつでも、彼が成長している姿が嬉しい。
こんな素直な生徒なら教師も悪く無いなと思った。
ひとまず軌道に乗ったので、そろそろ本来の仕事を進めて行こう。
使用人からの情報収集は、ふとしたきっかけで解決した。
来訪して数日後の夜、俺がうっかり勉強部屋に書類入れを忘れて来てしまい、念のために取りに戻った時の事だ。
勉強部屋から出て、自室に戻る途中で、メイドのルーシーさんに出くわした。この子一番かわいいから名前を最初に覚えたのだ。
無視するのも変なので、忘れ物を取りに、とルーシーさんと世話話を交わしていると、俺の目をのぞき込んで「あれ、タクト先生、お昼と目の色が違いません?」と指摘された。
ヤバい。
部屋を出る時に、変装用の赤毛のカツラは忘れずに付けたが、カラーレンズは忘れていた。というか気が付いたが、横着してしまったらこのザマだ。
「一瞬たりとも油断してはいけません」
脳裏にルルカの教えを思い出す。
ですよね。先生。
ていうか、ルーシーさん何で俺の目の色まで把握してんの?
俺はとっさに、そうですか?と笑顔でごまかしながら、話題を変え、「寝具の事で相談があるのですが、見て頂いても?」と部屋に連れ込んだ。
ルーシーさんは、俺に対して特に警戒する事もなく、部屋に入って来て、寝台の方に移動する。
寝具の具合が、と話しながら、後ろから軽く抱きしめ、こちらを向かせると、彼女は俺の腰に手を回して来た。
その気じゃーん。
顎に軽くつまみ、上を向かせるとキスを落とす。
短い時間だが、その気のルーシーを虜にするのは、今の俺には難しい事じゃなかった。
彼女の華奢な体を丁寧に蹂躙して行く。感度が良くて大変結構だ。
客間は壁が厚く、両側の部屋は使われていないため、多少の声や音は問題ない。
ルーシーが何回目かの絶頂に深く達し、俺が果てると、彼女は優しく口でお掃除をしてくれた。慣れているなー。
俺も二人の体液を生活魔法でしっかり始末する。
手応えはあった。これで何とか口止め出来そうだ。
◇
しばし休憩の後、着衣を改めたルーシーさんは、俺にこう告げた。
「ここまでは順調ですわね。タクト様。しかし、一瞬たりとも油断してはなりません。部屋を出る時は横着しては危険です。他の使用人に見つかるのではと、ハラハラしておりました。
使用人からの情報収集はわたくしの方で担当しておりますので、お気にならさらず。タクト様には夫人とパウル坊ちゃんからの情報収集をお願い致します」
っ!何!
え、こっち側の人?
同僚ですか?
部屋を去り際、彼女はこう付け加えた。
「ああ、それと。大変気持ち良かったですわ。ごちそうさまでした」
ドアが閉まると、俺はガックリ、崩れ落ちた。
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