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彼は男の亡骸を抱え、洞窟を来た順から遡り、歩いていった。もう23時間歩いているだろうに、不思議と疲れは感じない。きっと男に取り憑いていた神が彼に依代を移した為だろう。
彼は力を受け継いだ、そして使命と責任も、これからそれに向き合っていかなければならない。やっと出口が見えてきた、といっても天井に大きな穴があるだけ、以前の彼なら立ち往生していただろうが、今は違う。
「力を使わせてもらう」
彼はそう言うと、瞬時に彼の身体は銀色の鎧に包まれ、人間の能力以上の跳躍をした。そして軽々と穴の向こうに飛ぶと、そこには屯し睡眠を取っている集団がいた。
彼は驚いた、今が真夜中だというのと、そんな中屯している集団がいること、そしてこんなに早くあの男以外の人間と出会えたことに。その屯しているテントの中から一人の女性が現れた。
「マスター、帰ったんですね。いつもどおり……マスター?」
女性は異変に気づいた、いつもと何かが違う。いつも自分の頭を撫でてくれるあの掌が無い、代わりに見知った姿のヒトならざるモノがある、だけどその腕が抱えているものは……。
そんなはずは無い、銀色の鎧を纏った姿はあの男しかありえないはずなのに、その腕にマスターが、男が抱えられている。考えられる可能性は一つしかない……だけど、
その可能性を頭から排する様に、女性は現実を否定した。
「マスター?そんなはず無い、マスターは……?」
「君はこの男の知り合いなのか?」
変身を解除した彼が話かける。
「アナタは誰?マスターを抱えてらっしゃいますね、助けてくれたのなら、謝礼は弾みます、どうぞこちらに……」
「違う、違うんだ、この人はもう……いない、死んだんだ……俺に全てを託して……」
「そんなの嘘!あの人がこんなところで死ぬはずない!そしてアナタなんかに、あの人は望みを託したりしない!あの人は言ってた、望みは俺の代で叶えるって!それが約束だからって!」
(そうか……あの人も……きっと力を託されたんだ、俺と同じ様に……)
「あの人は私を救ってくださった!あの人は私の生きる意味、命なの!その為にこの生涯を尽くすと誓った、なのに……あの人だけ……」
「……」
彼から言える言葉は何もなかった、ただ一晩この女性の言葉を受け止め続けた、それがあの男から力を授かった責任だとでもいうかの様に。