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 低い唸り声ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥというそれは明らかに人ものでもないし、低級モンスターのものではない、ましてや獣の類でもない、それは男が目的にしている魔獣のものだった。

 それは道を進むごとに大きくなっており、目的の魔獣の存在が近いことを男たちに教えていた。

 道すがらさっきの様な人語を喋るヒトガタの怪物と、この洞窟の侵入者は皆あそこでやられたのか骸骨の怪物はいなかったが、程度の低いモンスターには事欠かなくそいつらを蹴散らしながら男たちは前に進む。そうしたことを二三時間続けいると、先程の唸り声が聞こえるようになったのだ。

 これは目的が近いな、と男は少し気を引き締める。一方彼はさっき命の危機に遭ったことから、怯えているのか足取りは重かった。

 だが彼には見過ごせない疑問もあった。

「なあ、おっさん、ここでこんなこと言うべきじゃないのは分かってる、でも見過ごせないんだ。さっきの怪物、言葉を喋ってたろ?確かにあいつは俺を殺そうとしてた。それは分かる、

でも言葉を喋り理性を持ってる存在を殺すなんて殺人と同じじゃないのか?」

「あーあつまんないこと言うなよ、お前はそんなことを言えるだけの立場と力を持ち合わせていない、守られるだけの存在のお前にそんなことを言う資格は無い、それだけだ」

「まあ確かにそうだよな、そうなんだけど」

「お前よっぽど高度な倫理的教育を受けてきたみたいだな、貴族の、それも高位の坊っちゃんなのか?あえて今まで聞かなかったが、お前どこから来て、どうしてここにいる?それ以上そんなことを言うなら、俺にもお前さんを守るべき理由がいる、故に話して貰う必要があるな、それが嫌なら黙って俺についてこい」

「分かったよ、おっさん、俺が悪かった、気持ちの良いことじゃあなかったな」

「分かればよろしい、ほら道が開けるぞ」

 そこはさっきの大広間よりも大きい大空洞とでも言うべき場所だった。そしてその奥に巨体を晒しながら座っているのは、唸り声の主、神話級の魔獣であった。

「よもや私のテリトリーにまで進んでくる人間がいようとはな、我が眷属のあやつがやられた程の腕前とは、侮れんかもしれぬ」

「おう、差し詰め大魔獣ってところか、お前の所為でここらへんの土地はやせ細り、枯れ果ててている、何か原因があると踏んだ王は、名のある狩人を派遣してきたが生存者無し、そこで俺に白羽の矢が立ったってとこだ」

「おぬしから感じる力、普通の人間ではないな、同じ人外なら何故人類を守る?奴らに守る価値があると本当に思っているのか?」

「悪いが俺は人であって人ではない、いわば半神の存在なのさ、そして力の一部は自由に行使できる、故に人である俺は人間を守る、なんの矛盾もない」

「なるほど、人類の守護者か……おもしろい、ここで我と闘い人類とおぬしらが魔獣と呼ぶ我ら、どちらが正しいか雌雄を決しようぞ」

「望むところだ!結界式二の型!」

 男がそう叫ぶと、今度は逆に彼は男の側を弾き飛ばされ、結界の中に男と魔獣を閉じ込める形となった。

「おっさん!」

「少しばかしの辛抱だ、生憎ここにはコイツしかいない、少しばかり見物してな!」

「ふん、弱者を庇う余裕があるとは、我も見くびられたものだ、ハッ!」

 魔獣の腕から火炎が迸る。それは男に向かい、コンマ0.2秒の速度で男に到達した。火柱が男の身体を覆う。だが、そこから現れたのは焼けただれた男の死体ではない。

「生ぬるい攻撃ありがとう、今の俺はその程度の魔術じゃやられねぇぞ」

「速さは十分、だが威力が足りぬか、ならばこれはどうだ!」

 魔獣、いや魔人と形容した方が良いだろう(ヒトガタで人語も喋るのだから)それは体勢を整え何かを放つ姿勢を取ったまま動かなくなった。隙だらけ姿勢だが、魔人とて馬鹿ではない、詠唱なしで結界を張っている。

「ふん、小細工も出来るか、だがそんなもの今の俺には通用しないぞ」

男が構えると虚空から槍のようなモノが出てきて、男の手に収まる。そして魔人に接近すると、魔人めがけて振り下ろし始めた。

「うっ」

 魔人の周囲の結界にヒビが入り始めた。だが魔人の手中にも特大の魔法力(とでも言ったほうがいいのだろうか?)が溜まりはじめている。結界が破れるのが速いか、魔人の魔術が完了するのが速いか。

 コンマの世界の闘い、そして槍が3撃放った瞬間、結界が破れる!しかしそれと同時に魔人の手からも特大の破壊力を持つであろう必殺呪文が放たれた、両者の一手はほぼ同じスピード、

ならば打った手どちらが強いか、その戦いとなった。両者の一撃がぶつかり周囲が爆ぜた、衝撃が周囲に広がる、結界のおかげで彼が感じることはないが、見ているだけでその凄まじさは伝わってくる。

「互角か……」

「どうやらその様だな……」

 二人は仁王立ちして固まっていた。両者の最強の一撃はお互いに相殺し、その威力が両者に届くことは無かった。だが、おかしいのに気づきだろうか?両者の力が本当に互角なら、余分に力を使っている方に隙生まれることに。そう男は結界を張っていた、その分魔術戦においての隙が生まれ、魔人の爪が男の身体を深々と貫いていた。

「おっさん!」

「侮ったな……手加減をしながら我に勝とうなどと、この爪ががおぬしの身体をつらぬくことは本来ありえぬ、だが我が最強呪文と相殺するほどの槍撃、そして結界の展開が、おぬしの防御力を弱らせた、故にこの戦い我の勝ちだ!」

「そうかな……?」

「なっ!?」

その瞬間、男の槍も魔人の急所を貫いていた。

「まだ余力があろうとは……」

「本当に全ての力を余すこと無く使うとはこういうことだ、自分自身さえ犠牲にして敵を倒し、仲間を守る、人間だったときの俺には出来なかったことだ、だが今の俺は違う」

「くっ」

「UUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

魔人は絶叫した。そして朽ちていく身体と同時に声も収まり始める。そしてそれと同時に結界も解除された。男は倒れ込む。その男に彼は寄り添う様に走っていった。

「おい大丈夫なのか!?」

「悪いが答えはNOだ、俺はもう駄目らしい、自分のことだからすぐに分かるよ……そこでお願いがある、お前に俺の願いを継いでほしい」

「俺の所為で、俺も所為で!」

「そんなことは無い、全ては俺の責任だ、俺が好き勝手やった責任は自分で取る、周りの人間に死なれちゃ寝覚めが悪い、ただそれだけなんだ……そしてこれは不本意ではあるんだが、もう近くにいる人間はお前しかいない以上、お前に頼むしか無いことだ」

「何を言ってる!?俺の命を助けて恩返しの機会も与えないで死んでいくつもりかよ!?」

「言ったろ、これは俺が勝手にやったことだ、お前に俺の権能を与える、こいつは人から人に乗り移り、この惑星〈ほし〉ではそういう形でしか生きられないが、持っている力は凄まじい、

この力を使い、お前には世界平和に奉仕してもらいたい」

「世界……平和……」

「勝手なことを言ってるのは分かってる、だがこれは俺の生きる意味なんだ、俺がここで死んでくなら果たせなかった望みを継いでいく人間が必要だ、それが人間の社会であり、人の強さでもある、不完全な個体故に団結し運命に立ち向かう、それが人間の強さ、もちろん拒否権はある、だがお前が良いって言うなら……」

「俺、やるよ、命を救ってもらったんだ、それぐらいの願い引き受けなきゃ、恩知らずにも程がある」

「ならばこの力、お前に授ける……扱い方も何もわからんだろうが、実地で学んでくれ、安心した、俺もあの人と同じ様に生を全う出来た……」

 彼が抱きかかえていた男の身体から力が抜ける、そして眠りにつく様に男は息を引き取った。そして次の瞬間男の身体から光が生成され、空中に浮かんだ。

「我、汝を契約者から消去、次なる契約者に、この男を選ぶ。が、もう一度確認する、我と契約するということは、巨大な力を扱うということ、そしてそれには責任が生じるということ、

我は汝に力を与える代わりに、依代となる肉体を貰う。ここに契約を結ぶか?」

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