見知らぬ洞穴
そこは暗い洞穴だった。そこに転がり落ちてきた男が一人。
「ここは……何処だ……?」
目の前は暗闇、何も見えない。だが風が抜ける音と、その風で流される物体の音から、完全に密閉された空間でないことは分かる。そして風の反響する音から、ここは相当に広い場所であるということも。
「おかしい……ここは何処だ……」
気づけば世界は闇、目覚めたのにまるで夜。いや、昼であってもここはこういう場所なんだ……そんな経験していないことを本能的に彼は感じ取った。
「おおようやく目覚めたかい?坊主」
声がした。何者だろう。少なくとも敵意は感じない。親しみのある優しい声音だった。
「誰です?そしてここはいったい何処なんですか?」
当然の疑問を口にした。
「ここはラクティス地方で一番の深さを誇ると言われている、洞窟の入り口に当たる洞穴だよ。」
「洞穴?やはりここは山の中なのか?ラクティス地方って?なんだ?リアル脱出ゲームでもやってるの?だとしたら凝ってるなぁ」
「何を言ってる、俺はここに潜んでいると言われている伝説の魔獣ウルンガムを討伐しに来た者だ。王の勅命でな、そしたらお前さんがここで倒れてるのを発見したから少しばかり保護ってやつをした、あいにくここは入り口だが、一度入ると出るのには苦労する、何故ここにいるのか知らないが、
お前さんの格好を見るにここから出るには俺の助けが必要だ、だが俺はここから出る気はない、故にお前には魔獣ウルンガムの討伐を手伝ってもらう」
「おいおいなんの冗談だよ……」
「何手伝うと言っても、協力してくれとは言ってない、ただ俺のそばにいればいい、死なないようにな。お前さんが迂闊な行動をしない限り俺にはお前を守り魔獣を討伐出来る自信がある」
何を言ってるのかわからなかった。だがこの男の言葉から嘘は感じられないのと、この状況がその言葉が真実だと言っている様な気がした。これは夢なんだろうか。だとしたらとても明晰な夢である。
「お前の選択肢は二つだけ、ここで野垂れ死にするのを待つか、俺と一緒に来て魔獣討伐の任を全うするか、二つに一つだ」
これが夢ならよりエキサイティングな方が面白い。彼は現実の認識というものを一度夢だと思うことで誤魔化して男の提案に乗ることにした。
「よくわからないし、事情はつかめないけど、その提案乗った。魔獣の討伐なんかゲームみたいで面白そうだし、楽しそうだ」
「そうと決まれば、まず立ちな、そして歩け、俺の後についてこい、ここから先は低級モンスターが出る、俺のそばを離れないようにしろ、みたところお前さんは戦えそうにない」
男の言うことに従うことにした彼は、洞穴の奥を男について進むことにした。