【閑話】女神の憂鬱と【真実】
【天界】
「ふぅ～、あの子は何をやっているのかしら？」
質素ではあるが、座り心地の良い椅子に深く腰掛けていた女神アルテミスは深いため息をついた。
ここから異世界に送ったシオン達の行動を見てため息をついたのだ。
シオンは元々、別世界で女神アルテミスと共に『邪神』と戦った【聖女】であった。戦いの最終局面にて、アルテミスをかばって死んでしまったのだ。
しかも邪神の『呪い』を受けて。
邪神の呪いは強力で、魂にも関与するものだった。効果は【不運】しかも『自分が傷付く』事に特化した不運であった。
金運などは普通でも、つまずいて転ぶだけで運悪く骨折したり、バス事故などに巻き込まれた場合はシオンだけ大怪我をしたり、死んだりする呪いであった。
アルテミスはシオンを魔力のない現代の地球へ転生させて呪いの無効化を期待したが、邪神の呪いは弱まったが継続された。すでにシオンは現代で3回も死んで転生している。
………記憶はないが。
今回は家族の『運』を上げて、幸運の家族に囲まれた状態で呪いに対抗しようとした。さらに、部下の下級女神フィーネに守らせた。
一定の効果はあったが、家族と離れるとすぐに呪いが発動して、シオンの身を危険にさせた。
そして、フィーネのうっかりでまた死なせてしまったのだ。
女神アルテミスはシオンに幸せになって貰いたかった。自分のせいで何度も人生の半ばで死なせてしまう事に心を痛めていた。
故に、今回は逆に異世界へ転生させて、自分の力を込めたスキル【豪運】を与えて邪神の呪いを『相殺』させる事を思いついたのだ。
理由をつけてフィーネも異世界へ飛ばして、5歳になるまでは守らせることにした。
そのかいあって、豪運を与えたことにより、ようやく邪神の呪いから解放されたのだった。
「はぁ～これから幸せになって欲しいのに、どうして私にも豪運の効果が現れるのかしら？私にそんな資格などないのに………」
【豪運】とは、シオンの『親しい』人物に影響を及ぼすスキルであった。
正確には、シオンが好印象を持っている人物、もしくは、シオンに好感を覚えている人物が対象である。
この異世界は女神アルテミスが最高神として崇められている世界であり、シオンは美術館にアルテミスが浮かび上がる絵を描いて神殿にしてしまった。(母親が)
そのせいで、いつも以上に神秘的に思えた信者が熱心に祈るので天界にいるアルテミスの神力が強くなったのだ。
──神の力は信仰心なのだから──
この世界の教皇がシオンを手に入れたいと思うのも無理はないのである。
女神アルテミスは無意識でもシオンが私の為に絵を描いてくれる事が嬉しく思っていた。
まさか、教会にある女神の銅像のように信仰される媒体にされるとは思っても見なかったのだが………
「………本当に目が離せないわね」
女神アルテミスは慈愛を含んだ目でシオンを見守るのだった。
