誤算
ただならぬ殺気が仲間達から放たれた。
「シオンを殺すって?そんな事は絶対にさせない!」
「いくら前世だったとしてもシオンを殺した事は許せない!」
二人の王子、ライトとジークは剣を抜き、肉体強化の魔法を唱えた。
「悔しいけど、ジークの言う通りだわ。いくら前世でもシオンを殺したヤツは滅殺するわ!」
「気が合いますわね。婚約者候補としてクロウの仇は討たせてもらいますわよ!」
メリッサも剣を構え、スカーレットは魔力を溜めた。
そして古龍達も怒りの限界に達していた。
「一つ御礼を言っておくわ。この空間なら本気を出しても良さそうね」
『この空間魔法は把握したわ。ヤツは私を殺さない限りここから逃げられないわ』
今まで無言だった蒼さんはこの空間の分析に努めていたのだ。そして、敵に知られぬよう把握したようだ。
「あらあら♪本当にこの時代は楽しいですわね。こんなにも【壊しがい】のあるオモチャがあるなんてね~」
どこかおっとりした口調のアクアも目が笑っていなかった。
「シオン、王様と宰相さんを頼んだわ」
「うん、みんな気を付けて!」
邪神をみると、真っ黒な身体を分裂させていた。
「さて、我が分身にどれだけ持つかな?我とてこの数年遊んでいた訳ではない。クロウを通じ、力を磨き、負の感情を集めていたのだ!」
30体もの分身を作り出し、一斉に襲い掛かってきた。蒼さんは咄嗟にシオン達に結界を張ると紅さん達に続いた。
「コイツらは確かに速い!しかも、力もかなりあるぞ!」
身体強化を使っていなければ一撃で吹き飛ばされる威力があった。
「ジーク!俺たちは紅さん達とは違う!メリッサのように剣聖のスキルもない。だから──」
「わかっているよ!『いつも』通りやれば良いんだろう!」
武術の力では純粋にメリッサの方が強いだろう。ライト達は紅さんやシオンの兄達から厳しい虐待………こほんっ、しごきを受けてより強い相手の攻撃を『受け流す』力を身に着けていた。これも一重に、自分の命を守る為に身に着けたのだ。
王子達は攻撃を受け流しながら攻撃に転じた。
「ここだっ!!!!」
鋭い拳を受け流し、その後ろから首を切断した。すると、黒い人の形をした邪神の分身は溶けて消滅した。
「首を切断すれば倒せるぞっ!」
腕を切っても再生していた分身を倒した事で叫んだ。
「了解よ!」
メリッサは襲ってくる拳を切り刻んで、反撃できなくなってから首をハネた。
「えげつないな………」
「確かに。でもアレも怖いがな」
王子達は紅さん達に目をやると──
紅さん達が蹂躙していた。
邪神は焦り、どんどん分身を増やしていった。
しかし──
「なぜだ!?我が分身体は一体でもこの世界の騎士団が総出で戦わねば倒せぬほどの力があるはずなのに!?」
紅さん達はともかく人間である王子達がここまで強いとは誤算であった。
「どうした?さっきまでの勢いは?これが邪神の力とは笑わせる!」
紅さんは両手腕を龍の姿に変えて、鋭い爪で分身体を屠っていった。
「クスクスッ、本当ですわね。この程度、シオンの肩にいる小龍達で十分ですわ」
アクアは硫酸を分身体に浴びせ溶かしていた。絵面が1番ヤバイのである。
蒼さんはクールに風の刃などで的確に首を飛ばしていた。
「動きが単調過ぎるわね。これなら幾らでも狩れるわ」
明らかに邪神を挑発していた。




