観葉植物
もう枯れたと思っていた葉っぱが、新しい葉っぱを出していた。
植物名を聞いたはずだが忘れてしまったので、葉っぱ。どうせ、葉っぱがあれば何でも葉っぱなんだろ。って言ったら、
「じゃあ、マコは『マコ』じゃなくて『人間』って言われてもいいのかよ?」って、アイツは答えた。
それは流石に嫌だなぁと返すと、
「ちゃんと名前があるんだから、その名前で呼んでくれよ。」ってアイツは答えた。
その後で正式な植物名を聞いたはずだが忘れてしまった。こんなたわいもない会話は覚えていたのにな。
アイツがいなくなってからも、この葉っぱは俺のもとにいる。もう1ヶ月が経とうとしていた。窓際の隅っこが定位置の葉っぱは、時折思い出した時にしか水をやらないでいた。葉の色が茶色くなってきたが捨てられなかった。マメな性格ではないので、定期的に水をやるなんて出来なかった。アイツがいたらきっと、
「マコは、見ているようで見ていないことが多々ある気がする。見た目真面目っぽいのに、なんか抜けてるんだよな。」って皮肉めいてそれでいて的を得たようなことを言うだろうな。実際似たようなこと言われたし。
腐った臭いがしない限りは、まだ生きているんだろうと、葉っぱを捨てなかった。捨てられなかった。捨てたら終わってしまう気がした。アイツにここまで執着していたと自分の頭で理解が追いついたのは、いなくなってからだったんだ。
窓際の葉っぱ。カーテンが揺れて、シルエットが風とともに揺らぐ。そのシルエットに見慣れない形を見た。枯れたと思っていた茎の間から新しい茎と葉っぱが丸まって現れていた。
どこにそんな生命力が残っていたんだろうか。生命の神秘に立ち合った瞬間だ。でも、それを分かり合えるアイツがここにはいなかった。
スマホのカメラで、新しい葉っぱを撮影する。そしてLINEアプリを起動させた。
『葉っぱ、枯れたと思ったら、新しい葉っぱになった。』
小学生みたいな文章と、さっき撮った写真を送った。
数分後、既読マークがついて返事が送られてきた。
『メンドくさがりのマコの事だから枯らしちゃうと思っていた!早く長期研修終わらせて実物が見たいな!』
1ヶ月も、恋人に会えないのは辛い。