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異世界魔女の世話係  作者: こと
第一章:お世話係と叡智の国
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イミテーション

pixivに投稿済みのものをまとめてこっちにも投稿しました。次回からはpixivと同時更新になります

 翌朝。

 大量の魔法陣を朝まで用意していたためにぐっすりなユキノを置いて、訪れたのは隣の…百鬼夜行の皆さまが宿泊している部屋の前。

 この街で、何かしらが動いている。

 連れ去られたというミライの妹の事、昨日ユキノが感知した異質な魔力。

 嫌な予感は強まる一方ではあるものの、自分にできることなんて極僅かである。

 そんな極僅かのうちの一つ。

 『百鬼夜行とできるだけ仲良くしていざという時は助けてもう』

 まだ何が起こるかもわかっていないし、大したことでは無いのかもしれない。故に今は魔力の事は伏せたまま。

 ミライ達にも『妹を探す』という目的があるのだし、あまり邪魔もできない上にこちらも魔女という素性はできるだけ隠したい。

 そんなわけでとりあえずは当初の目的であった買い物を口実に誰かと一日過ごしてみようと思ったのだ。

 「……寝てたりしないよね…」

 この身体になってから、意識せずとも早寝早起きになってしまっている。

 身体に引っ張られているのか、魔女がそもそもそういう生き物なのかはわからないが、今もまだ宿の前に人通りは少なく、昨日は賑やかだった街の喧騒も寝息を立てているかのように静まり返っている。

 「……」

 もうちょっと後の方がよかったかもしれない。

 ノックしようと手を上げたまま、数舜、思考を巡らせる。

 ちょうどその時、向こう側から扉が開いた。

 当然自分が開けたわけではないし、自分と同じく早起きの誰かが部屋の外に出てきたのだが…

 「…!?」

 「あ、えと…」

 扉から姿を現したのは、緩くウェーブの掛かったダークブロンドの髪と、明るい茶色の瞳をした少女。

 名前は確かベルと言ったはずだ。

 ヒメカやミライ、ムラサメとはそれなりに言葉を交わしたが、この子とは喋っていないどころか、ずっと隠れていたためにまともに顔も合わせていなかった。

 「お、おはようございます…?」

 故にどう接すればいいのかわからず、挨拶も少し疑問形になってしまった。

 対するベルはと言えば、扉を開けたままの姿勢で固まって、驚いたように目を丸くしている。

 ……もしかして覚えていないのだろうか。関りの薄さもあるために仕方ないのかもしれないが。

 「ぉ…ぁ……」

 と、隣の部屋に引き返すという選択肢が現実味を帯び始めたあたりで、ベルの思考回路が復活したらしく、小さな声と共にゆっくりその身を扉の陰に隠す。

 こちらよりも少し背の高いはずのベルだが、縮こまったその姿は自分よりも小さく見えてしまう。

 「ょぅ……」

 その声はあまりにも小さくて、まだ皆が寝静まっている早朝の廊下ですら上手く聞き取れなかったが、ギリギリわかった範囲では「おはよう」と言ってくれたようだ。

 「ございます…」

 まだ挨拶の途中だったらしい。「おはようございます」が正解だった。

 「……」

 「……」

 しかしお互い挨拶を交わし終えれば、それ以上に会話が発展することはなく、再び謎の膠着状態が生じてしまう。

 こちらとしては百鬼夜行の誰かと一緒に行動を共にできればそれでよかったのだが、ベルが相手となると少し難しいところがあるだろう。

 他の三人ならともかく、彼女のことはよくわからないし、そもそも人が苦手な性格らしい、会話もままならないのは現在進行形で学んだ。

 「ぁ、あの…」

 しかし意外にもベルの方から声が掛けられる。

 相変らず扉に身を隠したまま、少しだけ顔を覗かせて片目でこちらの様子を伺っている。目が合うと逸らされた。

 「ど、どう…したの…?」

 「えと…その、買い物に行きたいんですけど、よかったら誰か一緒に行かないかなって…思って…その…知らない街ですし…不安で…」

 あまりにも自信なさげなベルの様子に、こちらまでつられて尻すぼみになってしまう。あれ?自分ちゃんと喋れてる?言ってること変じゃない?

 「……」

 こちらの言葉を聞き届けた後、部屋の方を振り返るベル。しばらく悩んでいるような仕草を見せた後、再びこちらに片目だけを覗かせて口を開いた。

 「ゎ、わたし…以外…みんな寝てる…から…」

 やはりそうだったか、もう少し時間を空けて出直した方が―――

 「わたし…で…よければ…」

 「へ?」

 意外な申し出に、目を丸くする。

 ここまでの会話だけでも、ベルが付き合ってくれる可能性は無いだろうと思っていたから。

 「そ、その…に、二コラちゃんが…嫌じゃなかったら…だけど…」

 「い、嫌じゃないですよ、嬉しいですっ」

 自信なさげに伏せられる顔に言葉を返せば、ほんの少しだけベルの表情が明るくなった…気がした。

 「じゃ、じゃあ、今日は…わたしが…二コラちゃんと…い、一緒に居る…ね…?」

 「は、はいっ」

 「えと、じゃあ…わたし…お風呂…いくから…一緒に行こ…?」

 「はい…?」

 今ちょっと予想外に過ぎる言葉が聞こえたが、気のせいだったろうか。

 扉の陰から身体を出すベル。さっきまでは気付かなかったが、その手には着替えのようなものと、小さな瓶がいくつか握られていた。

 気のせいでは済まされなさそうだ。

 「え、えと…」

 「この宿の…大浴場…とっても綺麗って、ミライとヒメカが言ってたから…二コラちゃんも…」

 状況が飲み込めていないうちに、控えめに手が握られる。

 「そ、その…二コラちゃん…ユキノちゃんのことで…頑張ってるみたい…だから…」

 もしかして自分、この子に年下だと思われているのだろうか。

 いや実際この身体に転生してから一週間しか経っていないため生後0ヶ月なのだが。

 でも多分前世を含めたら絶対ベルよりも年上のはずだ。

 というかそれ以前にお風呂イベント多すぎやしないだろうか、自分の現状を受け入れているとはいえ一応元男ではあるのだが。そもそもユキノがセーフの時点でおかしいのだ。少しはユキノにも罪悪感を持て自分。

 「え、えと…私はー…ゆ、ユキノのご飯を用意しないといけないので…」

 「そう…?じゃあ、えっと…お出掛け、準備できたらお部屋にいく…から、ちょっとまってて」

 苦し紛れの言い訳は特段疑われることもなく、たったったっと少し足早にその場を後にするベルを見送る。

 「……急かしたかなぁ…」

 申し訳無さで胸がいっぱいだ、幸いお金はいっぱいあるらしいし、お礼に何かを買ったところで痛手にはならないだろう。

 「…あれ」

 ふと気付く。

 この国のお金について、自分は教えてもらっていただろうか?


 「ユキノ、起きてくださいユキノ」

 「んぅぅ…」

 遅くまで頑張っていたユキノの安眠を妨げるのは非常に忍びないが、それでもこの国のお金については教えてもらわないと何もできない。

 ユキノが目を覚ました時に何も収穫がありませんでしたでは話にならないのだ。

 よって、ふわふわのお布団に身を埋めた白いもこもこの身体を揺さぶること数十分ほど。

 「なにぃ…」

 ふにゃふにゃながらも、やっと言葉らしい言葉を引き出すことに成功した。

 「ごめんなさい。ベルさんとお出掛けに行くことになったんですけど、お金の事聞いてないなと思って…」

 「ん…おかね…」

 用件は手短に、寝起き頭でも理解ができるようお金の部分を強調して伝える。

 幸い効果はあったようで、布団から少しだけ顔を出したユキノが、これまた少しだけ出した手でベッドの横に設えられたテーブルの上を指差した。

 「そこ…ある…きんいろのが100ルナ…ぎんいろ…10…で、どう…が…いち……」

 とさ…

 儚い音と共にユキノの腕がシーツの上に落ちる。

 役目を果たし力尽きたユキノの表情はしかし穏やかであった。

 「おやすみなさい…」

 そっとその腕を布団の中に戻してあげて、ユキノが指差していた方を確認すれば、そこには小さな巾着袋。わかりやすくお財布である。

 中身に入っていたのは五百円玉くらいの大きさをしたメダル。金色のがだいたい…三十枚ほどだろうか、それに加えて銀色のが八枚、銅色のが…九枚ある。

 「えっと…さんぜん…はちじゅうの…きゅう…ルナっていってたっけ」

 ルナというのがおそらくこの国における通貨なのだろう、使われる貨幣が世界中で統一されていればありがたい限りだが、まぁ今は他の国の事は関係ないし後で調べることにしよう。

 はたしてこれが日本円に換算してどれくらいなのか、それがわかれば後は楽なのだが、それは市場で売り物の価格から推し量るしかないだろう。

 となればあとはお出掛けの準備である。

 寝室を後にして、ソファの背もたれに掛けていたポンチョをすっぽりと被る。

 例の不思議な鞄を肩から下げて、鏡の前で自分の姿を確認。

 昨日と同じシャツとポンチョ。ちなみにポンチョの下はこれまたガーリッシュなブラウスである。どれも魔法で綺麗にしてあるため連日着ても問題はない。

 うん、今日も可愛い二コラちゃんだ。もし学生時代にこんな子がクラスに居たならモテて仕方なかったろう。

 なんて他人事のように自画自賛をしていると、控えめなノックが部屋に響いた。

 「はーい」

 「あ、お、おまたせ…」

 扉を開けると、約束通り迎えに来てくれたベルが待っていた。

 赤いフードにワンピース姿、その姿は童話の赤ずきんちゃんのようだ。ふわふわしたダークブロンドの髪が余計にそのイメージを補強している。

 「え、えと、何が欲しいの…?」

 「えーっと…食材とか、服とか…いろいろ欲しいものがいっぱいあって…」

 一週間ユキノの館で暮らしてわかったことなのだが、あの館はとにかく物が少ない。

 いや、厳密には生活必需品が少ないのだ。魔導書だとか魔法薬の材料だとか、あと明らかに使われていないであろう食器だとかクッキーやお茶菓子などはうんざりするほどあるのだが、その他の食材や、あとお風呂に入る時の石鹸なんかも全く無い。もしかしてこの世界にその類のものは存在しないのかもしれないとすら思っていたのだが、さっきお風呂に行くと言っていたベルが小瓶をいくつか持っていたため、やっぱりシャンプーとかの類は存在しているようだ。

 魔女は老廃物を魔力に変換するから身体が汚れたりはしないとユキノは言っていたが、一週間もお湯に浸かるだけのお風呂を経験していると髪を洗った時のあの爽快感が恋しくなってくる。

 「ん…商業区で…そろうと思うから…えっと、いこっか」

 今欲しいものを何個か羅列するのを聞き届けると、ベルは小さく頷いて、手を差し出してくる。

 「…えと」

 「…?手、つながないと…迷子…」

 完全に子供扱いされている。

 やっぱりベルはこっちのことを年下だと思っているようだ、多分ヒメカちゃんに接しているのと変わらない感覚なのだろう。

 「だ、大丈夫ですよ、流石に迷子になったりは…」

 「ん、強がっちゃダメ」

 丁重にお断りしようとしたのだが、有無を言わさず手を握られてしまう。その瞳を見るに意思は強いらしい。『私が守らなきゃ』的なオーラを感じる。

 「…はい」

 諦めるしかないようだ、非常に恥ずかしいが、ベルに手を引かれながらついていくことになった。


 「…それで、商業区って言うのは?」

 ベルに引かれるまま宿を出て、ちらほらと人通りも増えてきた大通りを見渡す。

 王都をぐるりと囲む壁から伸びる道は、反対側の大きな城にそのままつながっている。

 空から見えた放射状の道の一つなのだろう、あの時は区画分けされているように見えたが、商業区というのもそのうちの一つなのだろうか。

 「うん、えっと、この道の…こっち側、向こうの大通りまでの間が…商業区だよ」

 ベルが指差したのはいま自分たちが出て来た宿の方向。この先にある別の大通りまでの区画が商業区…となるとかなり広い。商業区で揃うというのも間違いないだろう。

 「ちなみに…こっち側が…学業区…騎士学校と…魔術学校…あと、それぞれの生徒の寮があるところ」

 この短時間で慣れてくれたのか、口数が多くなってきたベルが補足で説明してくれる。

 言われてみれば確かに大通りを挟んで反対側は建物の雰囲気が少し違う。

 宿や酒場が立ち並ぶ商業区側と違って、学業区側は高さが統一された建物がずらっと並んでいる。いかにも学生寮って感じだ。

 「詳しいんですね」

 「うん、昨日…王都は一通り回ったから」

 「昨日…?」

 一日かけて回れるような広さだったろうか、確かに昨日ミライが偵察と言ってはいたが。

 「準備…」

 「あ、うん…その、私の能力の準備で、この王都の中…いろんなところ回ってたの」

 「そうなんですか…?」

 一体どんな能力なのだろうか、下準備で王都を一通り回る…ということは、何かしかけて来たとか…そういうのしか思いつかないが。

 「ん、私の能力、教えてあげるね、えと、朝ごはん食べながら」

 考察していたのがバレたのだろう、ベルが手を引きながら声を掛けてくる。

 「いいんですか…?」

 能力というのはおそらく個人が持つ武器のようなもののはず、そんな簡単に教えてもいいものなのだろうか。

 「うん、ヒメカが、信用した人だから」

 答えは明るい笑顔と共に返ってきた。

 ヒメカに忠誠を誓ったという百鬼夜行、やっぱりその言葉に偽りは無く、ただヒメカが信用しているというだけでベルもまた自分を信じてくれるという。

 こんなに純粋だと流石に心配になってくる、悪い大人に騙されたりしなければいいのだが…。

 「昨日ね、いいお店みつけたから、そこ行こ?手離さないでね」

 「あ、は、はいっ」

 手を離さないでと言われ、反射的に少し手に力がこもる。

 それを確認して微笑んだベルが目を瞑り、それに疑問を覚えるよりも早く。

 周りの景色が、変わった。

 「……はえ!?」

 いつの間にか建物と建物の間に挟まれた裏道に立っている。さっきまでいた大通りはどこに?自分の後ろにあったはずの宿屋は薄暗い路地に様変わりして、というか目の前を横断していたはずの道が縦断に変わって、いやそもそも道が変わっているのだし横とか縦とか関係ないってめちゃくちゃ混乱してるぞ自分落ち着け落ち着け

 「ふふっ、私の能力だよ」

 混乱はベルにもしっかり伝わってしまったようだ。目を白黒させながら周りをきょろきょろ見渡していると、苦笑と共に声を掛けられる。

 「あ、あぁ…今のが…」

 通りで魔力も何も感じないわけだ、魔女という生き物として産まれなおしたからなのか、この世界でずっと魔法に触れていたからなのか、不思議な現象=魔法という式が自分の中で出来上がっているせいで魔力が無いのに不思議なことが起こる能力にはすぐには慣れそうにない。

 「奇跡をもう一度、イミテーションっていう能力…、お店すぐそこだから、いこ?」

 「は、はいっ」

 再度手を引かれ、裏通りから一歩出る。

 朝ごはんを食べながら教えてくれるという事らしいし、詳しい仕組みなんかはそこで聞いてみよう。

 それにしても、イミテーションって…どこかで聞いたことがあるような…?

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