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異世界魔女の世話係  作者: こと
第一章:お世話係と叡智の国
12/16

能力

「六人でしばらく滞在したいんだが」

「六人ですか…申し訳ございません、大部屋は空いておりませんので、二部屋に分かれることになるかと思いますが…」

 馬車を降り、目の前に建っていた宿は随分と立派なものだった。

 木造の洋館、さすがにユキノの館ほどの広さは無いが、それでもあたりに見える建物達の中ではひと際大きい。

 馬車を見送った後はとりあえずミライたちについていき、エントランスで部屋を取るのを待っている状態だ。

 建物の中も高級ホテルのようで、きらびやかな装飾と清掃の行き届いた清潔感溢れる空間のおかげでここにいるだけでも心地がよい。

 時折行き交う人々の服装もまた煌びやかで、ここがこの国でも有数の宿であることは疑う余地も無い。

「あぁ、それだったら…そうだな、四人と二人に別れたい」

「かしこまりました、準備が出来ましたらご案内しますので、しばらくお待ちください」

 初めて訪れる街、まだこの世界の常識を理解しきれていない二コラとそもそも人とのコミュニケーションがままならないユキノだけでは不安がある。

 ミライもそれを察してくれたのか、どうやら部屋の人数に自分たちも含めてくれているようである。

 空を飛んでいけるとはいえ帰りはそれなりの荷物になるだろうし、一日くらい休んでいくのもアリだろう。

 ユキノの方はと言えば、馬車を降りてから完全に黙りこくっており、近くを人が通るだけでビクつく始末。こんな子を外に連れ出し買い物に付き合わせるのは酷であろうし、何よりこれだけ人が怖いのに王都まで連れてきてくれたことに申し訳なさを感じる。

 ずっと二コラの服の裾を掴んだまま離さないユキノ。その様子を見つつ次の買い出しからは一人で来ようと心に決めた。

「お待たせ、部屋は隣同士にしてもらったよ、よかったかな?」

「はい、ありがとうございます、何から何まで…」

「いいってことさ、それじゃあ部屋に行こうか」

 言って歩き出すミライの後を追いつつ、ふと違和感を覚える。

「あの…ベルさんとヒメカちゃんは…?」

 ムラサメは馬車を預けに行っているため居ないのは当然だが、ミライが部屋を取っている間、いつのまにか二人の姿がなくなっていたのだ。

 あんな小さい子供と、ユキノと同じくらい人見知りな少女二人が居なくなっているというのに、ミライの反応は至極落ち着いたものであった。

「あぁ、偵察だよ」

「偵察…?」

 もしかしてあの子達も魔術が使えるんだろうか。

「あぁ、偵察っていうか、下準備みたいなものもあるかな、ベルの能力は準備が重要だから」

 階段を昇りながら、あたりに人が居ないからだろう、特に気にすることもなく答えてくれる。

 ただその中に、ちょっと気になるワードがあった。

「能力…?魔術じゃなくてですか?」

「ん、二コラちゃん能力を知らないんだ?」

「えっと…はい」

 知ってて当然みたいな反応が返ってきたため、思わずユキノに目をやると、すごくバツが悪そうに目を逸らされた。どうやら知っていて当然の知識だったようである。

「なんで教えてくれなかったんですか…」

「だって…私達には能力無いですし…あとで教えればいいかなって…」

 小声で問い詰めれば、それ以上の小声で返ってくる弁解。人見知りを発揮しているのもあって、なんだかすごくいじめているような気分になってくる。申し訳ないのでこの件は不問としよう。

「あーでも、森の中に暮らしてるんだっけ、そういうの知らないってことも…あるか…?」

 と、ミライはミライで何とか納得しようとしてくれているようだ。ごめんなさい私達が魔女であるばかりに。

「ま、それだったら私が教えてあげるよ、ほい、この部屋とそっちの部屋を取ってあるよ。二人部屋の方が当然君達の部屋だから、はいこれ鍵」

「あ、ありがとうございます…」

「それで、君達が良ければなんだけど、三人が戻ってくるまで一緒にゆっくりしていかない?能力の説明も兼ねて」

 その提案にユキノの方を見れば、僅かに上下する頭。

「それじゃあ、よろしくお願いします。」


「さて、能力についてだけど…」

 部屋の中もまた豪勢であり、広々としたリビングに煌びやかな照明、寝室は複数でそれぞれにふかふかのベット。大きな窓からは街を行き交う人々がよく見える。

 随分と疲れた様子のユキノを寝室に休ませ、せめてものお礼にと部屋に置いてあった紅茶を淹れたところで、ミライが口を開いた。

「えっと、魔術を知っているってことは、二コラちゃんとユキノちゃんは魔術師…ってことなのかな?」

「あ、は、はい。私もユキノも魔術師で、その能力っていうのは持っていないです」

「ふむ…ちょっと珍しいね、魔女みたいだ」

 いきなり正解を言い当てられ、紅茶を吹き出しそうになってしまった。そうか、この情報だけで魔女である可能性に行きつくことができるのか。二コラ覚えた。

「ま、魔女ですか…」

「うん、まぁ魔女なんてここ数十年表には出ていないし、そもそも君達みたいな可愛い女の子が魔女だなんてあり得ないよ」

 魔女のイメージどうなってるんだろうか。私達立派に魔女なのだが。

「って違う違う、能力の話だったね」

 幸いそれ以上魔女について深堀されることもなく、話題は軌道修正。能力のレクチャーに戻ってくる。

「能力って言うのは…んー、個人個人が持つ特別な力…かな」

「ふむ…」

 まぁ、そういうのは漫画やアニメで散々見て来たし、今更理解ができないなんてこともない。大概の場合は能力のある世界に魔法は無いし魔法がある世界には能力が無かったのだが、どっちもあるっていうのはなんとも大盤振る舞いな世界である。

「私達…あー…まぁいいか、私達百鬼夜行はみんな能力を持っていてね、私であれば電気を操ることができる」

 言いつつミライが手のひらを上に向けると、そこにバチバチと音を発する光球が現れた。

「…魔力を感じないですね」

「そういうことだ、能力って言うのは魔力を用いていない。魔術しか知らない二コラからすればちょっと不思議かもしんないね」

 手を握れば光球は消滅し、僅かな火花だけが余韻となって散っていく。

 その間光球から魔力を感じることは一切なく、確かに魔術しか知らない身としては不思議な感覚であった。

「ところでその百鬼夜行っていうのは…」

 能力のことは確かに興味深い話ではあったが、ユキノとの授業の中で散々唐突な追加情報をねじ込まれていた身としては、そっちの謎ワードの方が気になった。

「ヒメカを頭領とした私達旅人の集まりの事だよ、『百鬼夜行』はあの子の能力の名前から取ってるんだ。」

「ヒメカちゃんがリーダーなんですか…?」

 あんな小さい子供がムラサメやミライを従えているというのは、少し違和感を覚えるところだ。

 もしかしてお忍びで旅をしているお姫様だったりするのだろうか。

「まぁ意外だろうね。でも私たちはみんなあの子に救われあの子に忠誠を誓っている。あの子の能力はね、自分に忠誠を誓っている者しか名前を書けない巻物なんだ」

「は、はぁ…?」

 随分と変わった能力だ、ミライの『電気を操る能力』よりだいぶ複雑である。

「そしてそこに名を連ねている者はあの子から能力や魔術の強化をしてもらえる。ベルと一緒にヒメカが偵察に行っているのも、ベルの能力を強化するためだよ」

 ベルの能力はわからないが、彼女の能力に下準備が必要というのであれば、当然今も能力を使っているのだろうし、ヒメカがそのお手伝いをしているのもまた当然なのだろう。

「っていうか、いいんですか?私にそんな大事なことはなして…」

「いいよいいよ、君たちはヒメカが助けてあげてってお願いをした子達なんだから。あの子がそう言う相手に悪い人はいないさ。それに…」

 紅茶を一口飲んだ後、ニコリとミライが笑顔を向けてくる。

「もしかしたら君達も百鬼夜行に名を連ねることになるかもしれないしね…?」

「あ、あはは…」

 どうやらこれはスカウトの一環であったようだ。あの洋館を抱えている以上旅に参加するのは厳しいだろうし、笑ってごまかすくらいしかできないのだが。

「ははっ、冗談だよ」

 その割には大分目が本気だったがそれについては黙っておこう。

「さ、そろそろ三人が戻ってくるみたいだし、ユキノちゃんが大丈夫そうならみんなでご飯にしようか」

 こちらの引き攣った笑みを見事にスルーして立ち上がったミライ。その言葉に首を傾げる。

「え、なんでわかるんですか?」

「百鬼夜行のもう一つの効果だよ、名を連ねている者同士の念話。さっきの勧誘もみんなに筒抜けってわけさ」

「……」

 冷や汗を一つ。

 まったく恐ろしい能力である、絶対あの子を敵に回さないようにしないと。

「そう身構えないでよ、仲間になってくれれば嬉しいのは事実だけど、無理やりじゃあ意味ないしね」

「でも怖いんですけど…」

「ハハハ、可愛い子を怖がらせて私は悪い大人だなぁ」

 なんて言っているうちにノックの音か部屋に響く。

 ミライが扉を開ければそこにいたのはムラサメだ。

「わりぃな、コイツはナンパ癖があって」

「ねーよんなもん」

 開口一番ムラサメから出てきたのは謝罪の言葉。念話ができるというのも会話の内容が筒抜けなのもどちらも本当のことのようである。

 ミライの反論を無視してソファに腰掛ければ、刀を脇に置いて深く息を吐くムラサメ。

「こんな上等な宿は久しぶりだなァ…っと、そういえばユキノちゃんはどうした」

「あ、あの子は疲れていたみたいなので、寝室をお借りして休ませています、あとで私達の部屋に行くときに一緒に連れて行くので…」

「そうかそうか、二コラちゃんはよくできたお姉ちゃんだなぁ」

 なんてムラサメが褒めてくれるも、二コラとしては曖昧な反応を返すことしかできない。

 だってユキノは自分の妹じゃないし、なんなら自分はユキノに作られているのだから、どっちかというとユキノはお母さんである。

 …とはいえその話をすると色々と面倒だし、間違いなく魔女であることとかを話さないといけなくなるだろう。それはユキノに止めらている以上、まだ姉妹にしておいた方が都合がいいだろうか、顔も髪の色も似ているし。

「あはは…ありがとうございます」

 というわけで今は話を合わせておくことにした。ごめんなさいユキノ先生、勝手に妹にしてしまって。

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