prologue
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布団をかぶってずいぶん経ち、闇が光にぼやけて、形を作り出したとき、ああこれは、夢なのだ、と、ぼくはなんとなく、そう思ったのだけど、今度は『夢』の意味が思い出せなかった。
これは、なんだ?
ただ、ふわふわと、見えない体がそこにあるだけ。
見たくない世界が、ここにあるだけ。
小学校。会議室。放課後。呼び出し。先生。そしてぼく。
どうやら、個人面談のようだ。好きじゃなかったな。
――しつれいします、ヨウコせんせい。
――いらっしゃい。あなたが、最初の面談ね。
あなたのこと、先生に、素直に教えてくれればいいのよ?
――はい。
好きなものは、しおと、さとうで、きらいなものは、かさとか、くるまとか……わごむ、かなあ。
――どうして?
――だって、まるいのに、いたいですもん。かたちがかわるし、とんでくる。
――丸くて痛い?
まあいいわ。
ななとくんは、なりたいもの、ない?
――ああ、おにいちゃん。ぼくはおにいちゃんになりたい。
え?
おとーとはいらない。
……おにいちゃんになりたい。
だって、そうしたら、おにいちゃんと、『おんなじ』になるでしょ?
としした、は『りゆう』になるから、いやなんだよ。
――理由ってなあに。訳のわからないことを言って、先生を困らせないで。
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先生の叫びが聞こえるか聞こえないかで、場面は一気に変わった。
ななとくんのお母さんですよね、おはようございます。
えーっと、これなんですが。
ご家庭で、なにかもんだいがありませんか。
朝の健康観察表も、ちょっと、不思議な怪我が目立つといいますか……
――はあ、もんだい、ですか、とくには。うちの子は、すこし、かわってるので。
もんだい、ありませんよ。ねぇ? なぁちゃん。
――なにもない。
――本当に?
――ないったら。ぼくは、かえる。
かえるから。