仕事とは、当たり前とは
('ω')三('ω')三('ω')シュババッ
「それでー? その失礼な視線と態度のちみ達は、何を聞きたいんだい?」
その一言に、私に向けられる殺気が1段階上がった。
商人さんが震えてる。このレベルの殺気だと普通の人は辛いのかー。
「──(≪スキル:我は弱き者の盾≫!)」
周囲の味方に向けられるあらゆる攻撃を引き受ける身代わりのスキル。
これで商人さんへ向けられた殺気を私が引き受ける。
商人さんも落ち着いてきた様子だ。
「ウルフの一件の話を聞きたいとのことだったがー。当事者のそこの男が全部話したのであろー? 私達が説明することなどないと思うのだよー」
冒険者の1人がもう我慢できないとばかりに怒鳴る。
「3人を見殺し、1人を重症になるまで放っておいて話すことはないだと!?」
ふん? 放っておいて?
意味が分からない。
それこそ覗き魔共は、商人さんの護衛という命懸けで守りますっていう依頼を受けてあの場にいた筈。
仕事として受けた以上、襲撃を受けた場合は命を懸けて守る。そういう契約だった筈だ。
私はただの便乗、立場は商人さんと同じ客だ。
護衛対象が増えるという事が不満ならその時点でそう言うべきだし、何なら出発前だったのでキャンセル出来た筈。
キャンセルされたなら私が乗せてってくれるお礼に護衛しても良かったんだがなー。
ウルフにやられたのは、彼等の怠慢と慢心と油断。
弓が撃てなくなるほどに周囲警戒を怠って、ウルフ相手なら余裕だと慢心し、どうせ出て来るのはウルフだけだと油断していた。
結果としてウルフではあるけど明らかに強い変異種っぽい黒ウルフの長が率いる群れに襲われ、槍使いを除いて死亡。槍使いも重症で今後冒険者は出来ないだろう。
ここまで理由を並べたけど一言で言うなら自業自得。
それを周りの奴等はどう勘違いしたのかこちらが悪いみたいに思ってる。
「護衛依頼でしょ? 仕事なんだから私達を守るのは当然。ちみ達は、仕事。商人さんと私は、客。ちみ達が死んだ原因は、ウルフなんか余裕だって調子に乗ってたちみ達のせい」
「客だろうと護衛が命掛けて戦ってるんだから協力するのが当たり前だろうが! 3人の命を無駄にしやがって!」
当たり前、か。
そんなこと言っちゃうんだ。
命を張って仕事をする冒険者が、客にも命を張らせて、しかもそれを当たり前というかー。
冒険者要らなくないかー?
「商人さん」
「な、何です?」
「私は、宿屋の一件でそこにいる冒険者には常識がないと知った。冒険者の人全てがそうだとは思わんが、その様な人を引き当てるくらいなら依頼はしないなー。商人さんもそうであれば、今後は私が護衛しても良いよー? 依頼料も安くて良いしー」
「貴方程の方が格安で護衛してくださるならこちらとしても願ったり叶ったりですが……。良いのですか?」
放置されている冒険者達の顔をちらっと見る。
各々面白い顔をしているなー。怒ってたり、不満そうだったり、思案してたり、無表情だったり。
一人だけ良く分からない変な顔してたなー。怒りと悲しみのひょっとこみたいな。
「別に構わんよー。実力不足の冒険者も、そんな冒険者に不釣り合いな依頼を斡旋するギルドも、要らないでしょ? 頼んだ仕事が出来ないのだし」
手前にいた怒った顔の冒険者が遂に剣を抜いた。
「こっちが黙ってりゃ好き放題言いやがって! ぶっ殺してや──(≪スキル:我を恐れよ≫)──ヒッ!?」
襲い掛かって来た冒険者をスキルで黙らせる。
全く理解出来ていない。もう少し物分かりがいいと思ってたんだけど。
「当たり前の事が出来ない貴方方が、他人に当たり前を要求しないでください。
お金を出す以上、きっちりと結果を出しなさい。仕事でお金を貰っているのですからそれが出来て当たり前なのでしょう? そもそもそういうものは、他人に強要したりするものではありません。
この様な事が、今回だけだとは思えません。これまでも被害を被った方々が居られた筈です。
実力不足の冒険者も、実力不足の者達に不相応な依頼を受けさせちゃうギルドも改善なさい。
でなければ、貴方方は何時か見放される時が来るでしょう」
もう言う事はない。
商人さんを連れて部屋を出た。
スキルの効果は、周囲の敵対する全てに影響する。
私達が外に出るまで、部屋の外にいた冒険者やギルドの職員も恐る恐るといった感じで私を見ていた。
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