逃れられぬ運命
思ったよりこちらの作品が人気でしたので、優先して続編を上げました。
私は今、非常に、ひっじょーに不機嫌だ。
何故なら──
「という訳でぇ。ここら辺にはぁ、俺等が勝てない様な魔物はいないから安心って訳よぉ!」
先程の覗き魔がいるからだ。
あの後、宿屋を引き払って直ぐに馬車乗り場に向かったのだが……。
既に乗合馬車は、全て出発した後だった。
今日の分は、全て長距離の馬車だったらしい。隣町までの短距離の馬車は、隣町から帰って来るまではないらしい。
あいつ等とまた顔を合わせる。そう考えただけで体が震える。
仕方がないから徒歩で向かおうと思ったその時。
「あの。私は、これから隣町へ向かう商人なんですが。良ければ乗せて行きましょうか?」
と親切にしてくれる商人さんと出会ったのだ。
商人さんは、この町と隣町を行ったり来たりしている商人で、三代続く商店の店主だった。
今日商品の仕入れが終わったので隣町に出発するらしく、ここで護衛依頼を受けた人達と合流するつもりだったらしい。
後ろには、商品を積んだ馬車と大きな馬が2頭待機していた。
「お、お願いしても良いだろうかー?」
私にとっては渡りに船だったので、即了承したのだが……。
「なぁ? 嬢ちゃん、話聞いてっかー?」
まさか合流する予定の護衛が覗き魔共だったとは……。しかもあの時の二人に加えて更に二人増えてる。不幸だ……。
しかも油断しまくりで無警戒。魔物を嘗めている。魔物ではない野生動物が相手でも、人は簡単に命を落とす事があるというのに。
馬車に乗る前の顔合わせの挨拶以来、私は声を発していない。商人さんと話したくても隣にこいつ等がいるからだ。喋れば会話になる。そうするとこいつ等が間違いなく混ざってくる。私はこいつ等と会話をしたくはない。
商人さんも私の心境を察したのか、最低限の会話に留めてくれている。
それに気付かずに独り言の様にずっと喋り続けるこの男。
護衛なんかより吟遊詩人とかの方がいいんじゃないかね?
そんな苦行に商人さんと共に耐えていると、道端が荒れている所が見えて来た。
争ったであろう形跡があり、辺りには血痕が飛び散っている。人の姿は見えないが、長い灰色の毛が落ちていたので、恐らく狼等の魔物だろうという事だった。
そろそろ野営場所を決めなければならない時間だったが、止むを得ない。先に進むしかないだろう。
「もう休まねぇ? ウルフくらい何とかするし少し先で野営にしようぜ?」
「落ちていた物はウルフの物でしょうが、相手の痕跡がありません。相手が何なのか分からないまま近くで野営なんて怖くてしたくありませんね」
「だが、無理に進み疲労した状態で野営中に襲撃されても不味い。なら野営場所を早めに決めて、見張りの方に体力を使った方がいいのではないか?」
考えなしの覗き魔が馬鹿な事を言うので商人が諫める。だが、尤もらしい発言に丸め込まれてしまう。
普通逆だろうに……。そういう所をしっかりとしてなければ生きていけない筈なんだけどなー。
護衛達も動こうとしないので、直ぐ近くの見晴らしの良い場所で野営の準備をする。
焚火を3つに増やし、可能な限りこちらの人数を多く見せる。頭の良いウルフ相手では無駄かもしれないが、やらないよりは良いと思う。
「すみません。この様な事になってしまって……」
商人さんが申し訳なさそうに謝ってくる。
「仕方がないよー。あれでは、何を言っても無駄だったろうしねー。未知の危険というものを彼奴等は、理解していないのだろうよー。驕り、慢心ともいうかねー? 人が理解出来るものなんて高が知れているというにー」
仕方がないとしか言えない。あのまま諭そうとしても、覗き魔共は駄々を捏ねる子供の様に頑として動こうとしなかっただろう。
あの場には、ウルフのみの痕跡があった。相手の痕跡はなし。
つまり相手は、群れていたであろうウルフ達相手に無傷であしらう事が出来る強さを持ってる。
それが人ならいいが、もし魔物なら──
「アオォォォォォン!!!」
「「「「「「ウオォォォォォン!!」」」」」
この状況は、絶望的と言わざるを得ないだろう。
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