夢に見た世界へ
着ぐるみ怪獣無双をお楽しみください。
「ぃらっしゃっせぇー……うぇっ!」
コンビニの自動ドアを開けて入って来たのは、小さな何かのキャラクターの着ぐるみを着た人だった。肩から小さなポーチを掛けている。
(あの大きさの着ぐるみなら中身は140cmないだろ。子供か? こんな深夜に?)
深夜のコンビニは殆ど客が来ない。だからレジ周りの仕事をしながら自然と目で追ってしまう。
着ぐるみ人間は、その小さな手に持ったカゴに次々と商品を入れていく。
「あの。これお酒……」
殆ど埋まったカゴに入っていたのは、お弁当とデザート、それと大量のお菓子と、二本の小さいワインのペットボトル。
「み、身分証の提示と、顔を見せて貰っていいすか?」
「ん」
着ぐるみの手でどうやってるのか器用に財布から免許証を取り出す。
そして大きな口兼バイザーをチャックを引っ張って開けて顔を晒した。
「あっ……」
白──じゃない、銀だ。白銀。
人形の様にバランス良く整ってはいるが、人形では表現出来ない幼さと美しさと可愛らしさを掛け合わせたこの世の物とは思えないお顔。
「も、う……いい?」
おっと、いけない。
まずは、本人と免許証の顔の確認。これは問題ない。
次に年齢は……ふむ、この年の生まれだと……。
えっ、22歳!? この見た目で!? この背丈で!?
「は、はい。お会計2,739円す。はい、261円のお返しすー」
大丈夫だと言った瞬間にまた顔を隠してしまった。あぁ……。
両手に大きなビニール袋を持ってあっと言う間に行ってしまった。
天使みたいな人だったなぁ。着ぐるみだけど。
◇
「さっきの店員。変な人だったなー」
まぁ、外に着ぐるみ着て出歩いてる私の方が変か……。
でも、他人と面と向かって話そうとすると体調が悪くなるしなー。
んぐんぐ……。かぷめんは美味しいなー。
やっしんのチリトマト味は至高だなー。流石かぷめんで世界征服を企もうとしてるだけはあるなー。
「ご飯も食べたし。ゴーダイブー」
フルダイブゲームを起動する合言葉を言うと、ゲームの世界に吸い込まれる様にして意識が薄れていく。
ゲームにログインー。
あれー? アップデートが入ったー?
何時もと感じが違うぞー? 人が多いし、屋台の匂いとか凄いリアルだー。
何だか今までの町とは違う気がするけど……。まいっかー。
今日は確か……。モンスターの素材の収集を依頼されていたなー。
お金持ちの依頼者から調達難易度が高い素材の調達を頼まれてたのだー。
えーっと。メニューメニューっとー。
んんー? 出ないぞー?
じゃー、インベントリはー? お、出たー。
インベントリに大量に収納されているアイテムの中から転移石を取り出す。
転移石は、消費することで指定した場所に転移が可能となる石だ。色や透明度、大きさで性能が大きく変化する。更に特定の場所に転移場所を指定すると安価に作成できる。
今回使用した石は、依頼の素材を手に入れる為にダンジョンに行きたかったのでそのダンジョンのみに転移可能な転移石を使ったんだがー。
石は、砕けた。けど、転移出来ないかー。
うーん。
可能性としては、転移先がアップデートで大幅に、それこそ町の名前が大きく変わるとかそういうレベルで変更された。もしくは、モンスターの大群に襲われて壊滅したってなってたりすれば、転移出来ないのも頷けるー。
もう一つ。多分こっちの可能性が高い。
今いるのが別世界って可能性。
多分、転移石では世界の壁を渡れず転移出来ない。
別世界なら、妙にリアルになこの環境にも納得ー。
「これがあの、異世界、転移ー? 転生ー?」
だとしたら、これ程嬉しい事はない。
私が私でいられる場所。それがゲームの中だった。
冒険や物語が好きで沢山の本を読んだ。家には、壁一面に埋め尽くす程の本が並んでいた。
それが、現実になった。
「や、やったぞー! うおー!」
嬉しくてつい大きな声を出してしまった。
「あ、あれー?」
周りにいた人達が皆私を見て怯えている。
大きい声と言ってもそこまでではなかった筈。
「あっ……」
多分≪スキル:威圧の咆哮≫が発動してしまったのだろう。
このスキルは、辺りに大きな音と威圧で恐怖を抱かせるスキルだ。ゲームでは、恐怖状態という状態異常を発生させ、相手の行動開始に少しだけ遅延を発生させるというものだった。
あの程度の少し声を張り上げただけで発動してしまうのかー。
「動くな!」
おっと、考え込んでいる間に衛兵に囲まれてしまった。
「そこの変な格好の奴! お前は何者だ! 顔を見せろ!」
「私は、ただの人だよー。顔は見せられないよー。脱いだらまともにしゃべれなくなってしまうからねー」
極度の人見知りな私は、着ぐるみを脱ぐとまともに会話が出来ないのだー。
「だったら何故、こんな所で騒いでいる!」
「つい、テンションが上がってしまってなー。それに関しては、非常に申し訳ないと思っているよー」
周りに対して頭を下げて謝る。
周りに人達はほっとしたようで、顔を緩ませた。
「しょうがないなぁ。次からは、気を付けろよ」「普段飲んで騒いでる冒険者に比べれば可愛いもんだね」「よく見るとあの変な格好、意外と可愛くね?」「声はめっちゃ可愛い」「何かの魔物に似せた服なのかしら?」
「皆があぁ言ってるから罰則はないが、次はないぞ。気を付けるように」
「ほーい」
衛兵達は、愚痴を言いながら去って行く。
私も行こう。取りあえずは現状の把握からだなー。
まずはゲームの時のシステムが何処まで使えるかの確認。
インベントリは転移石を取り出したから使える。中にあるアイテムも後で調べないと。
そしてインベントリには今まで稼いできた大量のお金が入っている。この国でも使えるかどうかを確かめる。
スキルも問題なさそう。先程勝手に発動した様に使い方が変わっているだけだと思う。
戦闘関連は、今はまだいいだろう。
次に町の地理と重要施設の把握。
お金は問題なかったので歩き回って町を調べた。
宿屋や武具店、日用雑貨店、薬屋、教会、そして冒険者ギルドと商業ギルド。
ダンジョンはこの町にはない。ここから王都の方へ馬車で移動して数日程の距離にあるらしい。
ゆくゆくは、周辺の地理やこの国について調べるつもりだ。
夕暮れまで歩き回って大体わかった所で、目星を付けていた宿屋に向かう。
「いらっしゃいぃっ!?」
「宿泊をしたいのだがー?」
落ち着くまで少しかかったが、受付のおじさんは説明を始めた。
「銀貨1枚で宿泊が可能だ。食事は別で食堂で金を払って貰う。服の洗濯やお湯なんかも別料金で出せる。他に何かあればその都度聞いてくれ」
「わかった。それでお金なのだが、これは使えるだろうかー?」
「そりゃあ、この国の金だから使えるぞ? あんた、この国の生まれじゃないのか?」
「うむ。今日ここに着いたのだー。まだこの国には疎くてなー。教えてくれると助かるー」
「ここは、ルダンヌクって町だ。シルヴァヌク王国の南の方だ。ここからでかい町に行くなら馬で数日かかる。王都には更に10日ってとこか」
「ほうほう」
他にも幾つか質問をしてから部屋へと向かった。
扉を開けると寝台とテーブル、そして収納用の箱なんかが置かれてるだけのシンプルな部屋だった。
これでもこの町で一番高そうな宿だったんだけどなー。もっといい部屋もあるのかな?
人前で着ぐるみを脱ぎたくはないので、インベントリにあったパンを齧って寝た。
今複数の作品から今後書き続ける作品を選定しようとしています。この作品の続きを読みたい方は、是非ともコメント等で応援して下さい。
4/19 誤字訂正の報告により訂正致しました。ご協力ありがとうございます。