いや、聞こえてるだろ!
誤字報告、有難う御座います!
それは突然だった。
朝起きたら、世界が変わっていた…、いや、違うな。
コレは本当に現実なのか、と。
そんな思いを抱くようになっていた。
うまく言えないけど、俺が今まで現実と思ってたのは、実は夢の中の出来事だったんじゃないか。
あやふやだが、そんな感じだ。
(ダメだな、上手く説明できそうにない)
俺の名前は、佐治 譲
短い茶髪、中肉中背、帰宅部。
趣味は…特に無し。
両親と妹の4人家族。
何処にでもいる普通の高校2年生だ。
…うん、コレに関しては間違えは無いな。
無いはずだが、俺、茶髪だったっけ?
校則大丈夫、なんだよな?
んんん、やっぱ何か変だ。
んーと…。
昨日はいつも通り妹と学校に行って。
クラスで親友と話し込み。
そいつの幼馴染や女友達とのやり取りを甘酸っぱく見つめ。
帰宅後、パラメーターが低い理系の勉強をし。
ストレスを下げるために早めに寝た。
そう、いつも通りなんだ。
なのに、なんだろうなこの違和感。
「おはようー」
「おはよう、譲」
「おはよう、今日は早いのね」
まぁ、朝から難しい事考えても仕方が無い。
俺は家族の待つ1Fへと下り、両親へのあいさつの後、椅子へと座った。
あー、カリカリに焼けたベーコンが香ばしい。
「ふぁー、おはよう。って、お兄ちゃん、今日は早いね」
少しすると、パジャマ姿の妹が下りて来る。
名前は、佐治 美恋
今はまとめて居ないが、普段は俺と同じ茶色い髪を、ポニーテールにしている。
俺より一歳下で、同じ学校。
俺と同じ帰宅部ではあるが、無趣味の俺とは異なり、ボクシング鑑賞が趣味だ。
「こらっ、美恋!ちゃんと目を開けなさい!」
「ごめんー、昨日はちょっと夜更かししちゃったの」
寝ぼけ眼でパンを齧る妹。
その横には、いつも通り妹の3サイズと、電話番号。
あと、親友への好感度が数値化されて表示された。
(ウェストが1上がってる。あとは、アイツと接点がほぼ無いし、好感度は変化無…いや、いやいやいや!ちょっと待て!)
なんだこの違和感。
何故、俺はそんなものが見えるんだ?
いや…、見えて当たり前、なはず?
昨日までも見えてたもんな。
…なのに、何故こうも気になるんだ?
「なぁ、美恋」
「んぁー?なぁにお兄ちゃん」
「お前、俺や自分の横に数字が見えるか?電話番号とかさ」
俺の問いに妹は一瞬動きを止め、怪訝そうな目を向け始める。
いや、妹だけじゃなく、両親までも何言ってるんだコイツ、な顔だ。
「お兄ちゃん寝ぼけてる?そんなの見えるわけないじゃん」
「お前もどうせ遅くまでゲームしてたんだろう」
「兄妹揃って情けないわねぇ、ほら、まずは顔洗ってきなさい」
そう、見えるはずないんだよ。
なのに、俺には見えている。
それは当たり前の事で、そして、必要な事なんだ。
…あー、だめだ。
やっぱ寝ぼけてるのかな。
その後、学校の準備をし、制服に着替え、妹と共に家を出る。
青い空と朝日がすっげー目に痛いな。
だけど、良い天気だな。
目指すは徒歩15分ほど先にある、私立メガリアル高等学校だ。
…高校名がすっげーダサい気がする。
その事に心の中で言及しようとするも、それどころでは無くなった。
(やっぱ、見えてるよなぁ)
道行く女性の横に、妹と同じ様にスリーサイズ、電話番号、親友への好感度の数値が見えるのだ。
そう、女性だけだ。
男性には、なにも浮かんでいない。
と言うか、髪の色が青とか紫とか緑とか、すっごくカラフルだな。
(…いやいやいや、ってか、なんで親友への好感度が見えるんだよ)
これは明らかに異常事態だ。
異常事態なんだが、それが普通で当たり前の事だとどっかで思ってしまう。
「お兄ちゃん、何ボーっとしてるの?まだ寝ぼけてるんじゃない?」
「ん、あぁいや大丈夫だぞ。あと美恋、お前ちょっと太ったろ」
「うぅ、やっぱり?友達とジャンボパフェ食べちゃったからなぁ」
顔を赤らめ慌てる妹見ると、心に積もる不安が消えていく気がする。
俺達は他愛もない話をしながら、校門をくぐった。
■ □ ■ □ ■ □
私立メガリアル高等学校。
緑豊かなここ、あおはる市の南部に位置する。
上から見ると、校庭を囲むようにコの字になっている一般的な学校だ。
私立なのに、これと言った特徴的なモノは…無い。
まぁ、他に有名と言えば、校舎の裏庭に立つ、樹齢200年近いと言われる桜の木、だろうな。
「うーっす」
「うっす!」
顔見知りに挨拶しながら教室に入ると、半分以上のクラスメイトがすでに登校していた。
やはりというか、女子の横には数値が浮かんでいる。
おお、皆して親友への好感度は半分以上か。
悪くないな。
「おはよう、譲」
「おう、おはよう、亜納」
自分の席に座ると、すでに登校していた隣の親友が声をかけてきた。
名前は海本 亜納
目元を覆う黒い髪…と、それだけでは陰キャな印象だが、性格は極めて明るく社交的だ。
俺と同じく帰宅部だったが、先月より生徒会に所属するようになった。
こいつとの出会いは、入学式で、それからずっと仲良くしている。
(こいつも変わったよなぁ)
最初は気は合うが冴えない奴と思っていたが、今ではどうだ。
成績は学年トップで、運動でも大活躍。
テストやイベントで、注目集めない事が無いほどだ。
否応にも、周りからの好感度が上がるのは仕方が無いのかもな。
現に、こいつと仲良く…そして恋人になろうと狙う女性とは多い。
あぁ、ちなみに俺の成績は下から数えた方が早い。
俺が目立っても仕方ないし、親友を補助するのが俺の役目だ…ん?
役目ってなんだ?
「おはよう2人とも!今日も仲が良いね!」
俺の思考を断ち切るように、明るい声が響いた。
赤く短い髪を弾ませ、親友の隣の席へと腰を下ろす。
「やぁ、奈美」
「おはよう、銀河さん」
彼女の名前は、銀河 奈美
陸上部に属している、健康的な美少女だ。
若干たれ目で、左目下のな泣きボクロがチャームポイントって奴だな。
亜納とは、幼馴染の間柄…とは言え、ずっと一緒に居たわけではないらしい。
亜納は昔はこの街に住んでいたらしく、その時のお隣さんが彼女だったと聞いた。
んで、ある日亜納の両親の都合で引っ越し。
約1年前にこっちに戻ってきて、感動の再会を果たしたってわけだ。
道理で、最初から亜納への好感度が最高値近いはずだよな。
「2人とも、今日は一緒じゃなかったのか」
亜納と銀河さんは、毎朝一緒に登校しているはずだ。
銀河さんは陸上部とは言え、成績を残す事には興味なく、朝練してないはずだからな。
だが、どうやら今日は別々みたいだな。
「今朝は生徒会の用事があったからね、僕の方が早く家を出たんだ」
「毎週月曜はそうなんだって、仕方ないよね」」
あぁ、なるほどねぇ。
優秀ゆえにこき使われてるってわけか。
さて、ならば2人の時間を邪魔してはいけない。
俺は2人に生暖かい目を向けて、会話からそっと抜け出す。
とりあえず、一時限目の予習でもしておくか。
「でも、本当は一緒に登校したかったな…」
「ごめん、奈美。何か言った?」
「う、ううん!なんでも無いよ?」
いつものように、銀河さんが恋慕たっぷりな言葉を呟く。
だが、これまたいつも通り、亜納には聞こえない様だ…って!
「いや、なんで聞こえないんだよ!」
俺の大きな声に、亜納と銀河さんが目を見開いた。
クラス全員の注目を浴びてるが、ここは言わせて貰う!
「俺にはばっちり聞こえたのに、なんで銀河さんの呟きが聞こえないんだよ、亜納!」
「い、いきなり何を言ってるんだ、譲」
「何もヘチマもねーよ!銀河さん、さっきのセリフ、もう一回言って!」
「え、ええっ!?そんな、恥ずか…」
「いいから!もう一回!亜納、ちゃんと聞いとけよ?」
俺の恫喝に近い声に戸惑うも、銀河さんは意を決したように目に力を籠めた。
顔を赤らめ、瑞々しい唇を数回揺らし、開く。
「…ほ、本当は、亜納君と、一緒に登校したかったな、ぅぅ、恥ずかしいよぉ」
「な、奈美…。解った、朝ではなく放課後に変更できないか、会長にお願いしてみるよ」
今度はちゃんと聞こえたようだな。
銀河さんの言葉を聞いた亜納は、彼女と同じように顔を赤らめ、恥ずかしそうに顔を伏せる。
あー、なんだすっげー甘酸っぱい!
てか、クラス全員、生暖かい目で2人を見守ってる。
クラス内に、銀河さんのライバルが居なくて良かった。
青春だなぁ。
(かわいいなぁ、奈美。通学だけじゃなく、下校も一緒ならいいのに)
「いや、口に出せよ!」
またもや、大声を出してしまった。
っと、そこで気付く。
今、亜納は想いを口に出さなかった。
多分、心の声だ。
なのに何故、俺に聞こえたんだ?
「ど、どうしたんだ、譲?叫んだっと思ったら固まって」
っと、そうだった!
今はそんな細かい事を考えてる場合じゃ無い。
「亜納!今思った事をちゃんと言葉にして、銀河さんへ伝えるんだ」
「え、お、思った事って!?だ、だけど」
「いいから!言葉にしないと伝わらないんだよ!」
俺の言う事に思うところがあったのか、亜納は若干の間を空けて、顔を下に向けたまま、ぼそりと呟く。
「俺は、奈美と、下校も一緒に帰り、たい」
「亜納君…!う、うん!私もだよ!だけど、部活があるし」
「何も、毎日ってわけじゃないんだ!お互い、時間が合う時でもさ、一緒に帰らないか?」
「そう、だね!だったら、水曜日は?部活早く終わるから!」
どうやら俺のお節介は良いきっかけになったようである。
2人は俺の事をなど忘れ、話に花を咲かせている。
ふと教室内を見ると、皆して俺にサムズアップしてくれた。
ふむ、良い仕事をしたようだな、俺は。
…と、そこで一つ思い出した。
「2人ともごめん、確か今週の日曜日、遊園地でデートだよな?」
「デ、デートじゃないよ!?」
「そそそそうそう!た、ただ一緒に遊びに行くだけだよ!?」
2人の世界を壊した事に罪悪感を覚えるが、2人は機嫌を悪くする事もなく、俺の問いに答えてくれた。
つか、それが一般的にデートって言うんだよ。
あぁ、でもいいなぁ、この2人。
やはり、俺はこの2人を恋仲にして、あげたい。
俺は覚悟を決め、自分でも最上級の笑顔を作り、2人へとサムズアップを作り、こう言った。
「その日のデート、俺も付いていくから」
「…え?」
「…ん?」
鳩が散弾銃食らった時の顔って、こう表現するんだろうな。
■ ■ ■ ■ ■
そしてやってきました、日曜日。
今日2人がデートするのはここ、あおはる市唯一の遊園地『あおはる運命ランド』だ。
中世西洋をイメージした内観で、テーマ内を徘徊するイメージキャラクター『神酒鼠』は、酒乱の鼠と言うユニークな設定で、同市内の若者に大人気だ。
「ってなわけで、俺は極力邪魔しないようにする。けど、ツッコムからな」
俺の言葉に、亜納と銀河さんは、嫌な顔どころか喜色を浮かべた。
「うん、今日もよろしく頼むよ、譲」
「佐治君、いつも通りフォローお願いね」
さて、お邪魔虫であるはずの俺が、なぜこうも受け入れられているのか。
それは、あの日からの行動によるものだ。
亜納は、なぜか銀河さん…いや、女性からの重要な告白が聞こえない。
それに加え、相手が喜ぶセリフを口に出さず、脳内で垂れ流すだけ。
以前であれば、それは当たり前の光景だった。
なのに、俺はそれに対し違和感を感じるようになってしまった。
それ以来、亜納の難聴言動にツッコミを入れつつ、銀河さん関係だけを是正したのだ。
そのおかげか、2人の中は極めて最高に良好だ。
故に、俺がいればお互いの仲が更に深まると信頼してくれているらしい。
「この遊園地も久々だなぁ。昔、奈美の家族と一緒に来て以来だよね」
「覚えていてくれたんだ…。ほんと、懐かしいね」
「うん、また、お互いの家族と一緒に来たいね」
「うん!…その時は、同じ苗字になってから、かな?」
「ん?奈美、今何か言った?」
「う、ううん!何でもないよ!」
「さっそくかよ!ほい銀河さん、今のもう一度!」
改めて思うが、亜納の鈍感というか難聴能力は病的だ。
真横の銀河さんの声も、全く掬えない事が多い。
だからこそ、俺が頑張らねばならぬ。
「空が、どんどん近くなってる」
「ジェットコースターって、この最初上がって行く所がドキドキするよね」
「うん」(でも、奈美が横にいるほうが、僕はドキドキするかな)
「亜納、今思った事銀河さんに伝うわああああああああああああああああああああああああ!?」
「ここのお化け屋敷、ずいぶん本格的だね」
「思ったより怖いよね。もしかして、嫌だった?」
「う、ううん、そんな事ないよ?…君と、くっついていられるから」
「奈美、今変な声しなかった?」
「はい銀河さん、もう一度ってうわ、びっくしたぁ!」
「へぇ、ここのランチおいしいなぁ」
「ちょっと高かったけどこれなら満足よね。…あ、亜納君、ほっぺにご飯粒ついてる」
「え?あっ…、取ってくれて、ありがと」
「気にしないで?…ふぅん、その料理、こんな味なんだ?」
(…え?今のってもしかして…、いや、そんな事あるわけ)
「亜納、そんな事あってるぞぉ?ちゃんととったご飯粒はどうしたか言及しような」
とまぁ、こんなわけで。
2人の会話にツッコミと修正を続けた結果。
夕方、帰路につく頃には、俺はへとへとになっていた。
だけど、今日はいい仕事したぞ、俺!
2人とも、実に楽しそうだった。
銀河さんの親愛度は、もはや天井知らずなはずだな、うん!
「…なぁ、譲」
「ん?なんだ?」
帰り道、亜納の真剣な声に、俺は立ち止まり、振り向いた。
亜納の横では、銀河さんが同じく真剣な眼差しを俺へと向けている。
「譲は、どうして僕達のために尽力してくれるんだい?」
「うん、とてもありがたいけど、君には何もメリットはないよね?」
あぁ、なんだ、そんな事か。
俺は肩をすくめ、2人へと己が気持ちを言葉へと変えた。
「2人には、ぜひくっついて幸せになって貰いたいからだよ」
俺の言葉に、2人は瞬間湯沸かし器の如く顔を真っ赤に染めた。
あー、いいなぁ、初々しいなぁ。
「メガリアル高校には伝説があるが…、もちろん知ってるよな?」
「勿論だよ、卒業式の日、裏庭の桜の木の下で告白され出来たカップルは、幸せが約束される、だよね?」
銀河さんの回答に、亜納も頷きで返す。
ん、亜納でもさすがに知ってるか。
「思ったんだが、卒業の日に告白って、すごく勿体ないと思わないか?早い内に告白してカップルになったほうが、一緒に学校生活送れて幸せだろう?」
これは、俺がふと思った事だ。
卒業式の日に告白して幸せになるのは、結構。
だが、だったらこの青春溢れる高校生活を、彼氏彼女の仲ですごしちゃいけないのか?
告白が、高校生活のゴール?
違うだろ。
恋人同士で送る高校生活だからこそ、何事にも代えがたい思い出になるんだろうが!
「俺はな、2人に早く恋人同士になって貰いたいと思ってる」
「で、でも、やっぱ伝説が…」
「卒業式の日に改めて告白すればいいだろ?すでに恋人同士な人が告白しちゃいけないってのは無いはずだ」
銀河さんは、やはり伝説に拘りがあるようだ。
気持ちはわかる。
多分、少し前の俺だったら、伝説を重要視していたはずだ。
「なぁ、銀河さん。亜納は、実はすごくモテる」
「う、うん、知ってる!」
「え!?そ、そうなの?」
やはり主人公キャラ…って、主人公ってなんだよ。
また解らない観念が生じてきてるな…まぁ、今はいいか。
「お前は自覚がないから厄介なんだぞ。いいか、お前を狙ってる娘は、多いんだ」
隣のクラスで吹奏楽部所属の、古卓 芙蘭さん。
若き剣道部主将の北欧ハーフ、松憲寺 クリスさん。
生徒会会長で実は腹黒メガネの、芦屋 黒乃さん。
銀河さんの親友で他校に通ってる、留佐 智恵理さん
ギャルで流行にうるさい、来栖土 杏さん。
来年には教育実習生として赴任してくる亜納の知り合い、神辺 みいあさん。
よく街中で出会う女子大生の、五木 織香さん。
あと…俺の妹は、いいか。
俺は上記の名前を出し、とにかく亜納が今後大いにモテる可能性を一所懸命に伝えた。
「と言うわけで、ライバルが台頭しない内に銀河さんとくっつくべきだ!…まぁ、お前がハーレム目指してるんなら、俺は何も言えないが」
「そ、そんな不誠実な事できるわけないだろ!」
あぁ、怒らせちまったか。
まぁ、ハーレム言っても日本じゃ無理だがな。
と、俺は2人がどうするか、どう心構えをするかを眺めていると、亜納が思い切った行動に出た。
「奈美、好きだ…付き合って欲しい」
「え?うん。…え?はっ、え?ええええええ!?」
「…嫌、かな?」
「そんなわけない!私も、好き!ずっと前から好きだった!」
夕焼けで染まる児童公園で、今一組のカップルが誕生した。
俺は彼らを少しの間見守った後、帰路を辿る。
命短し恋せよ若人、ってね。
(すまんな、2人とも。俺の本音は、正直面倒くさいからなんだ)
今後、亜納の為に女性関係をフォローすると考えると、正直面倒さしか感じなかった。
というか、亜納が卒業式に告白されるのをフォローするための存在…俺自身、そう思えて来たんだ。
だから、その思いを消すために、2人をくっつけた。
これで、今後は俺の人生を歩む事ができる。
もちろん亜納とは仲良くするが、俺も彼女を作って、高校生活をエンジョイしたい。
何せ、昔は彼女すらいない人生…、って、なんだ?
確かに今の俺に彼女はいないが、そんな昔から見たいなこの感覚は何だ?
まぁ、とりあえず。
(俺の人生を、歩んでみるかな)
呪縛とまではいかないが、何となく体から鎖が千切れた感覚。
俺はその解放感に満足し、夕焼けを背に家族が待つ家へと急いだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■
「譲、その、明日、僕の家に来てくれないか」
「お願い、佐治君!貴方がいれば上手くいくと思うの」
「ふっざけんな!いくら俺でも他人のセックス見せられたら心が死ぬわ!」
翌週、2人が交際しだした事は学園中に広まり、常に生暖かい目を向けられる存在となった。
逆に俺は、亜納を狙ってた娘から恨み買っちゃってるっぽいけどな、HAHAHA。
んで、今こいつらなんて言ったと思う?
明日、亜納の家で初体験するから、俺に見守って欲しいんだとさ。
馬鹿か!
そんなの苦行でしかねーだろ!
「あ、その辺は大丈夫。一緒に混ざってもいいからさ」
「はぁっ!?」
「うん、その、見られながらもいいけど、その、一緒にいいよ?えと、興味あるし」
「譲には、本当お世話になったからね。あぁでも、最初は僕からだからね?」
「…はぁぁぁぁあああああぁぁぁぁ!?」
え?
この世界18禁版だったのか?
だったら、今後の展開は俺がそのまま銀河さんを寝取…。
ん?
なんだ18禁版って。
また意味が解らない概念が…。
とにかく、2人の邪魔しちゃいけない、ってか、混ざるのは忌避すべきだ。
「今日から、両親は旅行で居ないんだ。だから明日、僕の家に集合で」
「あ、あのね!ココココ、コンドームは私が、か、買うから!心配しないでね!」
「絶対に、ノゥ!」
興味はあるよ?
本当に、すっごく興味はあるよ?
だけど、今後、すっごく面倒事が起こり始めるような予感がし、俺は背中に冷たい汗を流すのであった。