その5
「……我が国の偉大なる歴史、『勇ましきルフトの血』もいよいよ大詰めでございます。さぁ、来賓の皆さま、どうぞご起立ください。我が国のさらなる繁栄を願い、本日は素晴らしい歌姫を招いております。ティア様でございます!」
建国記念日の式典、喜劇『勇ましきルフトの血』も、とうとうクライマックスを迎えていました。初代ルフト王が、ルゥフェイたちを退治し、最後に勇ましい国歌を歌うのです。そしてその歌い手は、もちろんティアでした。
「おぉっ、あれが歌姫様か! なんと神々しい!」
「お美しいすがただけじゃない、あのかたの歌声を聞けば、ルゥフェイすらも恐れをなして逃げ出すだろう!」
「建国記念の式典にふさわしいおかたじゃ!」
口々にティアをほめたたえる群衆のうしろで、ラフは興味深げに舞台のティアを見つめていました。口のはしをわずかにゆがめ、気づかれないようにゆっくりととなりに視線を移しました。
――さぁ、どっちを選択するかな――
『あぁ、ルフトよ、我らが王よ! 悲しみを燃やしつくし、喜びを与えたまえ! 涙を消し去る、勇ましい血よ!』
ティアのよくひびく澄んだ声が、勇ましい歌を歌いあげます。勝利を祝い、喜びをたたえる歌です。……しかし、それを聴いた人々の反応は違いました。
「……涙だ、涙が、あふれて、止まらない……?」
ぽたり、ぽたりと、あちこちで涙が見られ、そして歓声が上がったのです。喜びをたたえ、高らかに笑い合う人々の目からは、次から次へと涙がこぼれて止まらないのです。そしてその温かな涙は、目から落ち、地面へ吸いこまれる前に、スッ、スッと、消えてしまうのです。歓声はどよめきに、そしてとまどいへと変わりました。
「なぜだ、これほどまでに勇ましい歌を聴いているというのに!」
「歌姫様が、歌姫様の勇ましさが、我らの心をふるわせているのだ!」
「これほどまでに強く、美しい歌姫様がいるなんて……!」
涙を流す人々は、どうしたらいいのかわからず、ただただティアの歌に聴き入るだけでした。涙を止めようとしても、とめどなくあふれ、そしてぬぐうこともできません。あまりに歌が勇ましく、ティアが神々しく見えたので、誰も止めることができなかったのです。喜び、建国を祝う式典は、温かな涙につつまれて終わりました。国民たちも、それに王族や大臣、兵士たちすら、そのあまりに感情を揺さぶる歌声に、しばしのあいだぼうぜんとしていたため、誰も気づいたものはいませんでした。歌姫の、ティアのすがたが消えていることに。そしてラフのすがたも見えなくなっていたことに――
次話のその6が最終話となります。その6は本日1/10の20時台に投稿する予定です。