第9話 恵の季節がここに
それは、一瞬のことだった。
雨の日に自転車で隣駅まで行こうとしたとき・・・。
尾関「ん・・・ここは・・・。」
???「目覚めたかい?」
尾関「は・・・はい・・・。」
???「まさか、病院の目の前でこけるとはね・・・。」
尾関「僕たしか・・・。」
???「あぁ、君は・・・。」
ドタバタドタバタ
ガラガラ・・・
美南「お父さんどいて!尾関大丈夫かぁ!!!」
尾関「お、美南。そんなに慌てなくても大丈夫だ。ってお父さん?」
美南「どこも痛くない?頭打ったって聞いたけど・・・。そうよ、この人は美南病院の副院長:美南正幸。私のお父さん。」
尾関「副院長?」
美南「うちはお母さんが院長だからね。」
尾関「そうなのか。でも、助けていただいてありがとうございました。」
美南「でもまさか、轢かれるとはな・・・。」
副院長「うん、恵?何か誤解をしていないか?」
美南「え?」
副院長「彼は轢かれて倒れたんじゃないぞ?」
美南「どういうこと?」
尾関「え?あ。え?」
副院長「尾関君は、飛び出してきた猫を避けようとして道路で滑ってこけて出てきた血に驚いて気絶して頭打ったんだ。」
美南「は?」
尾関「あらら・・・。」
美南「心配したんだぞ!!!」
尾関「すまん・・・。」
美南「まったくだ!!!」
美南は、泣きながら部屋を出ていった・・・。
副院長「すまないね。娘は、人が倒れたというたびにあぁなるんだ。」
美南「人が倒れるのが苦手なんですか?」
副院長「そうなんだ。あの子のおばあちゃんが倒れた時からな。」
副院長いわく、美南は幼いころとてつもないおばあちゃん子だったらしく、
おばあちゃんの家に毎日のように遊びに行っていたらしい。
あるとき、自分のためにお使いに行ったおばあちゃんが車に轢かれたらしい。
そっから、身内や友人が事故や病院が来ると泣くようになったという。
副院長「確か、6月から君のうちにお世話になるんだよね?」
尾関「はい、。」
副院長「このままじゃ、一緒に住むこともできないだろう?」
尾関「だめかもしれません。」
副院長「三階にあの子の部屋がある。仲直りしてきなさい。僕も君のお父さんとよくケンカしたよ・・・。そのたびにきちんと仲直りしてきたさ・・・。」
尾関「親父と知り合いなんですか?」
副院長「腐れ縁というやつさ・・・。」
三階に向かって美南の部屋に着いた。
尾関「美南、聞こえるか。ごめんな。」
美南「・・・。」
尾関「お父さんから話聞いたよ・・・。心配かけてすまない。」
美南「・・・。」
尾関「これから一緒に住むのに不安が増えたかもしれないな。でもな、あの時自分の判断であの猫に気づけたんだ。」
美南「・・・。」
尾関「普段なら乗りこなしてるつもりだったからさ・・・。」
美南「・・・。」
尾関「だけど、、、これからは、お前に心配をかけないように頑張るからさ。」
美南「・・・。ばか・・・。」
がちゃ。
美南「・・・。ばか・・・。」
尾関「え?」
美南は俺に抱き着いてきてこういった。
美南「心配はかけてほしい。でもやっぱり駄目なの。これ以上仲がいい人たちが苦しむのは見てられないの・・・。」
尾関「・・・。」
美南「わがままだから。恵は・・・。」
尾関「わがままでもいいんじゃないか?」
美南「だめだよ。迷惑だよ。」
尾関「いいんだよ。迷惑と心配はかけたほうが印象に残るんだ。それに、美南は9人の中ではいいほうだよ。」
美南「ほんとうに?」
尾関「ああ。だから、わがままでも意地っ張りでもいいんだよ。一緒に住む以上は家族みたいなもんだ・・・。」
美南恵という女の子は、わがままでもない。
意地っ張りでもない。
純粋な瞳を持った心の優しい女の子なのだ。
副院長「さて、イチャイチャしてる場合じゃないぞ・・・?」
???「まったくよ。これだから、新婚は・・・。」
美南「お父さん!なんでそこに?お母さんまで・・・。」
尾関「お母さん!?」
???「どうも、ここの院長:美南真子よ。」
尾関「新婚っていうのは・・・?」
院長「同棲するんでしょ?結婚するんでしょ?」
副院長「まったく、9人の妻はやめておいた方がいいぞ。養育費とか・・・。」
美南「な、な、にゃに言ってんだ!!尾関とはそんな関係でもない。」
院長「照れなくてもいいのよ。」
すっかり、美南家のリズムで話が進んでいた気がする。
でも、やっぱり、美南には泣顔よりも笑顔のほうが似合う。
そんなことを思った今日この頃。