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レア龍人くんを逃しスマホも壊れ、一晩泣き明かした私は、不細工な顔のまま登校した。

これぐらいで学校を休むなと母にどやされ、重い身体を引きずって歩いていた。


「何だ、やけに元気がねぇな」


背後から肩を叩かれた。私は振り向き、その声が円先生だと分かると小さく挨拶をして向き直った。

先生はぎょっとした顔で私を見てくる。


「どうした、その顔」

「ちょっとスマホが壊れまして⋯⋯」

「いや、お前このまま清水の舞台から飛び降りそうだぞ。失恋したみたいな顔だし」

「似たようなものですよ‼これまで積み上げてきた龍人くんとの関係性が⋯⋯データ引き継ぎしなかったばっかりに⋯⋯」


思い出すだけで涙が零れ落ちそうになる。鼻の奥がツンと痛くなるのを、私はマスクで隠した。

先生は、今度はヘラヘラと笑う。


「携帯壊しただけだろー? しかもゲームが出来なくなったぐらいでお前」

「先生だって!「おきのどくですがぼうけんのしょはきえてしまいました」って画面に心臓止まらせた世代でしょ!」

「残念だな、俺はファイファン派だ」

「気持ちは分かるでしょって話ですよう!もういいですう」


目尻に滲む液体が、目の周りをひりひりと痛めつける。

ああこれは目が土偶になってるな。やっぱり学校に来たくなかった。

家から持ってきた保冷剤を目に当てて廊下を歩いていると、正面からくせ毛がたくましい猫背の男子生徒が歩いてきた。



「⋯⋯おい、」


先輩は私の顔を見るなり驚いた顔をした。

その顔まで龍人くんにそっくりだった。

彼の存在は昨夜の惨劇を思い出すトリガーになってしまい、私は失礼だとは分かっていながら小さく頭を下げて先輩をスルーした。



教室にたどり着くと、山梨さんが話しかけてきた。


「黒ちゃんおはよ⋯⋯どうしたの⁉」

「山梨しゃん⋯⋯聞いてください⋯⋯」


ひっくひっくと言葉を詰まらせながら、私は山梨さんに事のあらましを説明した。

主に殺スマホ事件の所を。

実はスチプリ仲間である山梨さんは、私の悲しみに大いに共感してくれた。


「あ〜それはもう、なんて言っていいか⋯⋯」

「ううう、少ないお小遣いで課金してたのに⋯⋯限定イベのデータも吹っ飛んだ⋯⋯ミニゲームで貯めに貯めたポイントもゼロ⋯⋯もうすぐハロウィンイベントも迫ってるのに‼」

「も、もしかしたら運営に問い合わせればアカウント復元出来るかもしれないよ!新しいスマホ買ってもらったら一度問い合わせてみる?」

「本当ですか⁉ でもアカウント復元ってどうすれば⋯⋯」

「うーんとね。あ、前にお姉ちゃんがそういう目にあってた気がするから聞いてみる」

「あああありがとうございます‼山梨さんは救いの女神だぁぁ‼」

「あはは、大げさぁ。いやあ黒ちゃんほんとスチプリ好きだねぇ。オタクオタク〜」

「未野灯也カラーで小物を統一してる方に言われましても」

「これはファッションだから!」

「未野さんのアクキーじゃらじゃらぶら下げてるバッグも?」

「⋯⋯すみません、私もオタクです」

「うふふ、スチプリ好きな人とオタ友になれて嬉しいですよう」

「いやーん、黒ちゃんありがとー!」


山梨さんとの会話で少しだけ浮上した私は、何とかその日の放課後までを乗り切った。


「黒サン、部活ミーティングの連絡来てるー?」


放課後、帰宅しようとした私を長谷部君が呼び止めた。

山梨さんは私のことを黒ちゃんと呼び、長谷部君は黒サンと呼ぶ。

黒サンと呼ばれると何か親方のような気分だ。


「うぇ⁉ 実は私昨日スマホ壊れまして。連絡全然見てません」

「やっぱりか。既読一人分つかなかったからもしかしてと思ったんだ。やることあるから全員集合だって」

「分かりました!連絡ありがとうございます!」


危ないところだった。先輩と顔を合わせるのが辛くてサボろうかと思っていた。

普段地学部のに出入りしているのは私と先輩ぐらいなものだけど、ミーティングなら他の部員もいる。

多分気まずくはならないはず。

私は理科準備室に向かった。


「おう、全員集まったか。黒澤もいるな」

準備室に用意してある会議用長机とパイプ椅子に、それぞれが腰掛ける。

円先生が部員の五人を見渡した。


「せんせぇ今日の用事は何すか?俺、カラオケの約束あんのよ」

「文化祭の出し物だっつってんだろ。鰐淵にだけ負担かけてんじゃねえぞ」

「うーい」


長谷部君はあまり参加しない部員その一だ。いわゆる幽霊部員。


「⋯⋯僕もちょっと用事が」


長谷部君の隣に座っているのは私や長谷部君と同じ一年の伊勢君だ。彼は部活に顔を出さない部員その二だが、幽霊部員とは少し異なる。


「文化祭までは部に貢献しろ、伊勢。一応部員だろ」

「⋯⋯すみません」


伊勢君は石の採集が趣味なのだ。私には見分けがつかない石ころを集める為、毎日時間の許す限り市内を散策している。

円先生はフィールドワークと言っていた。


「む、先生。そう苛立つのは場の雰囲気を乱しかねませぬぞ」


円先生の肩を叩いたのは高野先輩だ。

何故か武士言葉を使っている。


「だぁってろ、その口調時々イラッとくんだよ」


高野先輩は副部長で、鰐淵先輩の友人でもある。


「おい、プリント全部行き渡ったか」


高野先輩の横からもしゃっとした頭が出てきた。

龍人くんもとい鰐淵先輩だ。

私は一瞬肩を強張らせたが、努めてにこやかに対応した。


「こっちまで来ました!大丈夫です」


私がそう言うと、何故か鰐淵先輩以外全員が私を注視した。


「え⋯⋯皆さんどうしました」

「黒澤女史、先程から気になっていたのですが、今日は綾平の近くを陣取らぬのですか」


高野先輩が首をかしげた。


「そうそう、黒サンいつもなら「推し尊い〜」とか言って部長の写真撮りまくってるじゃん」

「⋯⋯僕も気になってた」


私は思わず目のあたりを手で軽く覆った。


「実は昨夜大泣きしまして。目が腫れてるのが恥ずかしいんです」


本当は先輩の近くにいるとまだ涙が出そうプラス今朝の態度の申し訳なさと言う感情だったが、詳しく説明するのは面倒くさいので適当に濁しておいた。

先輩を除いた皆は合点した顔をした。


「なるほど、これが乙女心というものですな」

「⋯⋯でも、そんなに目は変わってないと思う⋯⋯」

「伊勢は普段から人の顔見てねぇだけじゃん?」

「黒澤の事は放っておけ、それより文化祭だよ」


円先生は頭を振って話を元に戻した。




「前にも言ったが、出し物は波摩丘陵の立体地図作成だ。これは鰐淵発案だが、異論はねぇな?」

「ありませんぞ」

「何でもいいっす」

「はーい」

「今配ったプリントは、地図に必要な材料や作業の分担な。材料は百円均一で揃えられるのにしたから、このあと誰か買い出し行ってくれ。んで、作業は⋯⋯」

「エンちゃん先生、一番簡単なのどれっすか?」


地学に造詣が深くない仲間、つまり恥部仲間である長谷部君が口を挟んだ。


「長谷部おまえ⋯⋯簡単なあ、じゃあ資料のコピーやごみ捨て?」

「雑用係かよ」

「黒澤の係にしようと思ってたがなあ」


先生がため息をつく。私は憤った。


「先生、それはそれで酷いです‼」

「黒澤はパシリ上等なんだろ?」

「それは先輩限定ですー!何が悲しくて先生のパシリしなくちゃいけないんですか」

「お前も大概だな!俺は地学部名乗れねぇレベルの奴に地図制作関わらせたくないのー」

「生徒の可能性を排除してなにが教師ですか!それをやる気にさせて下さいよこの地学オタ!」

「オタクがオタク罵るな!あとここにいる奴ら大体地学オタなんだよ」

「長谷部君はどうなんですか」

「俺に被弾かい⁉」

「あいつはまだやる気ある馬鹿だから!」

「エンちゃん何もフォロー出来てないっすよ」


「おい⋯⋯」


私と先生が言い合っていると、背後になにやら黒いモヤでも背負っていそうな先輩が低い声を上げた。


「遊ぶだけなら他所でやれ、話が進まねぇ。作業の分担で揉めるなら俺が決める。俺と長谷部は等高線の書き写し、高野と黒澤は厚紙の裁断、伊勢は接着。これでいいか?細かい所は各自話し合え」


一同は先生を含めて大きく返事をした。

怒った先輩は怖いのだ。まあそこもいいと思う。






「俺、先輩と作業だよー怖ぇ超怖ぇ」

「えーいいじゃないですか。羨ましすぎますよ」


地学部の雑用係こと私と長谷部君は、先輩命令で買い出しに出ている。


「えーとー、厚紙とボンドと刷毛と、絵の具とー。こんなもんですか?」

「え? 他に何かあんの?」

「立体地図って言うからには、ミニチュアな街並みとか森とか川とか作ると思ったんです」

「えー、そこまで来るとジオラマとか模型じゃね?」

「そうした方が見る人楽しいんじゃないかなーって。ほら、「あー、ここらへんに学校あるんだー」みたいなのがあると楽しいじゃないですか」

「確かに面白そうだな、一回グループチャットで聞いてみれば?⋯⋯あ、今スマホないのか。俺話してみるな」


長谷部君はすぐにスマホを取り出した。

しばらくするとヒュポッと返事が届いた。


「お、大体賛成だって」

「やった!」

「ただエンちゃんは、「作り込み過ぎると時間足りねぇから主要な建物な」って」

「文化祭まで一ヶ月ないですもんねえ。そこはそうか」

「あと、買い足すなら紙粘土だって。他の材料はエンちゃんの私物持ってくるって言ってる⋯⋯こりゃ普段からやってんなぁエンちゃん。道理で一番乗り気」

地学部の活動や立体地図の作成に関してはかなりフィーリングで書いています。

筆者の地学知識は某タモリさんがぶらぶ(以下略)

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