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僕の傍には…  作者: 天真ぽん
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日溜まりの彼

 大樹の幹にもたれ、二人で座る。

彼はニコニコしながら僕を見ている。


 ジーンズに白のロンT。

シンプルなのにカッコいい。

顔も少女漫画に出てくるようなイケメン。

そんな人が僕の隣にいて微笑んでいる。


 とても不思議な人だ。


 初めて会ったはずなのに、なんだかずっと前から知っているような気がする。

彼が微笑むと、なんだかとっても暖かくて幸せな気持ちになる。

傍にいるだけで安心する。


 …なんでだろう?


彼「……」


僕「…あ、あの……えっと、その……」


 何を話せばいいんだろう…


 普段から人と喋りなれていないから、何を喋ったら良いのか分からない。

上手く言葉が出てこないもどかしさ。


 ほんと、嫌になる。


 すらすら言葉が出てくる人が羨ましい。


 風が枝葉を揺らす音だけが、やたらと大きく聞こえた。


 『大丈夫』


僕「え?」


 突然、頭の中に入り込んできた声。

聞こえたというより、突然、頭の中に響いてきた。

周りを見回しても、ここには僕と彼しかいない。


 今、彼が喋った…のかな?


 彼の方を見ると、相変わらず、僕の隣で微笑んでいる。

不思議に思いながらも、「大丈夫」と言う言葉に背中を押されるように、思ったことが素直に口から出た。


僕「…居心地のいい場所ですね、ここ。なんだか心が安らぐ気がします」


 ここに来て、さっきまでの憂鬱な気持ちが嘘だったかのように心が落ち着いていた。


僕「ずっと、こんな気持ちでいられたらいいのに…」


 少しだけ切なくなって、僕は俯いた。


僕「…なんで、上手くできなかったんだろう…」


 気持ちが言葉になって続いていく。


僕「高校に入るまでは、毎日が普通に楽しかったんです…」


 勉強も運動も出来る方じゃなかったけど、学校に行くのが楽しかった。

休み時間に友達と喋ったり、学校が終われば友達と一緒に遊びに行ったりした。

同じような日々の繰り返しだったけど、充実した毎日を送っていた。


僕「でも、友達とは高校が別々になってしまって…」


 新しい場所や環境に一人で飛び込むのが怖かった。

不安で不安で仕方がなかった。

一日、また一日と高校生活の始まりが近づく日々に、心が重く沈んでいった。


僕「…あっ、でも、ちゃんと頑張らなきゃって思ってたんです…ちゃんと頑張ろうって……」


 最初が肝心だから。

自分から声をかけて友達を作ろうって。

新しい自分になったつもりでいこうって。

自分に必死に言い聞かせてた。


僕「…でも、ダメでした」


 人を見るだけで緊張して、声をかけることすらできなかった。

最初っから躓いてしまった。


 だから…


 あの二人が喋りかけてくれた時、凄く嬉しかったんだ。


 ──入学式の日。

 教室にポツンと一人でいた僕に、彼らは話しかけてきてくれた。


 「おはよ!俺、(つかさ)。こっち貴斗(たかと)

 「名前は?どこの中学?俺ら二人、同じ中学なんだ」

 「ヨロシクな!」


 正直、ホッとした。

喋りかけてもらえた。

友達ができると思った。


 なのに…


僕「…あんな風に思われてたなんて、知らなかった…。同じ学校なんだから同じ通学路なのは普通だし、いつも後ろにいるとか、そんなのたまたま偶然でっ──」


 …いや、違う。


 偶然なんかじゃない。


 気づかれてないと思ってた。


 僕は期待してたんだ。


 彼らの近くにいれば、また喋りかけてもらえると。


僕「…ホント、最低ですよね。悪いのは自分なのに…。こんなだから…ダメなんだ…」


 目の奥が熱くなって、涙が溜まっていく。


 喋りかけてくれた彼らの優しさに甘えて、次の一歩を踏み出せなかった。

喋りかけてもらえた。

たったそれだけで友達になれた気でいた。

勘違いも甚だしい。

待ってるだけじゃ友達になんかなれない。

分かってたはずなのに…

自分の弱さを認めたくなくて、惨めな自分から目を背けたくて……


 僕は逃げたんだ。

 僕自身から、逃げ出したんだ。


 涙が頬をつたう。

心に溜まっていたものが、一気に溢れ出した気がした。


 否定も肯定もせず、彼はずっと僕の話を聞いてくれた。


僕「す、すみませんっ、こんな話。しかも泣いちゃって」


 手で涙を拭った。

風が頬を撫でていく。

涙の跡を消していくように。 

羞恥心や憂鬱な気持ちは無くなって、心が軽くて清々しい気持ちだった。


 『もう大丈夫』


僕「え?」


 また頭の中に響いてきた声に、思わず彼の方を見た。


 彼は木漏れ日を見上げていた。

そっと目を閉じ風を感じる横顔は、とても穏やかだった。


 もう大丈夫。


 その一言が優しく僕の心を包み込んでくれる。

もう大丈夫、僕は一人じゃない。

隣にいる彼の存在が、とても優しく暖かいものに感じられた。

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