導かれし出会い
──(おい、アイツ、また後ろにいるぞ)
(うわ~、マジかよ)
彼らの声が頭から離れない。
まだ心臓がバクバクうるさい。
何であんなこと言われなきゃいけないの!?
僕が何かしたって言うの!?
苛立つ気持ちと羞恥心。
頭の中で繰り返される声と自分の気持ちから、逃げるように歩き続けた。
闇が心も身体も飲み込んでいく。
穏やかな朝の風景も、小鳥のさえずりも、何もかもが消えていった。
何もかもイヤだっ!
大嫌いだっ!
全部無くなればいいっ!
心の中で叫べば叫ぶほど、グチャグチャになっていく。
苦しくなっていく。
アイツらのせいだっ!
消えろっ!消えろっ!消えろっ!
学校なんか無くなればいいんだっ!
学校なんかっ──
…ん?…学校?
「ああっ!」
思わず声が出た。
我に返ったときには、周りの景色はすっかり変わってしまっていた。
「え?あれ?え??」
いつもの通学路を歩いていたはずだったのに、見慣れた景色はそこにはなかった。
目の前に広がる風景…
優しい光に包まれた新緑の美しい丘。
少し先には、一本の大樹が見える。
頬を撫でる穏やかな風が心地いい。
引き寄せられるように、大樹の傍まで歩みを進めれば、枝葉の隙間から木漏れ日が射し、キラキラと輝いている。
その堂々とした姿と美しさに、心を奪われた。
力強い生命力。
全てを包み込むような優しさ。
身体の中に、不思議な力が湧いてくるような感覚を覚えた。
…あたたかい。
あれ?この感覚って──
今朝の不思議な感覚と繋がったとき、ふと、大樹の陰から人の気配を感じた。
誰かいるのかな?
ゆっくりと近づいて行くと、幹にもたれ掛かるようにして、男の人が立っていた。
木漏れ日の中に佇む彼の姿は、なんだかとても優しかった。
風が枝葉を揺らす。
振り向いた彼と目が合った。
僕に気がついた彼は、優しく微笑んでくれた。
『待ってた』
なぜだか、そんな風に彼が言ってくれているような気がした。




