専用武器と魔王城
遅くなって申し訳ありません!
次のお話も考え途中なので、すこし時間がかかります…。
「で?ディウスラ・マシナリーはどうだったのかしら?」
赤い髪揺れる。
手には真っ赤な液体が注がれたワイングラスを持っている
「バカみたいな能力だったよ。あんなんチートだよ、ロスト複数同時操作とか…」
赤い髪の女性はワイングラスに口をつけ、喉を何度か鳴らし飲み干した。
「ロストなんて、使う人いたんだね。ロストなんかよりアマノムラクモノツルギとかの方がよっぽど需要あるし便利なのにね」
そういいながら、何処からか出した剣で空中を切る。
メカニックの憧れ、メカニック最強装備として作られたロストシリーズは確かにチートと言って差し支えない性能を有している。
だが、どのキャラでも装備可能で、破格の性能を誇るアマノムラクモノツルギの方が市場価格は高く、人気がある。
「アマノ欲しかったけど、魔王装備の下位互換なんだよね?たしか」
「魔王装備と比べたら、全部のアイテムゴミになっちゃうから比べないの!」
魔王装備の剣ーープライドーー
攻撃時、確率で一定時間相手のレベルを10下げる。
攻撃時、確率でスキル8以上のスキルを発動できなくする。
こちらのレベルが相手のレベルより50高い場合、確率で即死攻撃。
クリティカル率90%
どれを取ってもチートの性能だが、魔王討伐でしか取れないので、実際はエルヴィン専用装備となっている。
アマノムラクモノツルギはこの装備を弱めた性能をしている。
それでも、十分破格の性能ではある。
「さっきからそれ、何飲んでるの?」
「これ?竜血らしいよ?なんか、私用の竜血樽が大量にあってさ。すっごくいい匂いがしたから飲んでみたら想像以上に美味しくて…」
「竜血って…よく飲めるね」
回復薬としての竜血は凄まじい効果を宿している。
製造不可な天然のもので、ドラゴン系モンスター討伐のドロップ品だ。
しかし、その効果は秘薬の比じゃない。
HPとMP全回復と、死亡時蘇生がつく。
ゲームであれば味などを気にせず使用すればいいのだが、現実となった今はとても飲む気など起きない。
そもそも、エルヴィンは蘇生無効なため、飲む意味などない。
しかし、美味しそうにそれを飲まれていると気になる。
「ちょっとだけもらってもいい?」
そういうと、何処にいたのか不明だがアリッサがワイングラスを持って寄ってくる。
匂いは鉄、これを飲むとなると抵抗がある。
しかし、気になったものを飲まずにはいられない。
ゆっくりとグラスに口をつけ飲む。
ーー想像した通りの通りの血の味がした。
「なんか、力がみなぎるっていうか、癒されるような雰囲気はあるけど…とても…」
「え、エルヴィンちゃんも無理なの?」
レーベルは目を開き驚きの表情を浮かべた。
「うん…というか、も?」
私の発言に驚いたのか、レーベルは目を逸らしながら口を開く。
「いやー、なんか皆同じこというからさ…もしかして私、竜血姫とリンクしてるから味覚まで竜血姫なのかなぁ…はは」
エルヴィンは深いため息をついた。
「私で試さないでよ…まったく…」
ーー竜血姫にとって、の竜血は回復ではない。
このゲームには空腹システムが存在している。
各キャラクターごとに食べられる物が決まっており、それを取らないと空腹ゲージが0になると戦闘ができなくなる。
竜血姫は竜血にて空腹ゲージを回復させることができ、尚且つヴァンパイア職専用のブラッドゲージを上げることができる。
このブラッドゲージはMAXの状態で攻撃力を1.5倍にすることができ、逆に0だと0.7倍の攻撃力になってしまう。
また、ヴァンパイア職はこのブラッドゲージを消費してスキルを発動するので、血液系アイテムを大量に所持していないとまともな戦闘すら行なえない。
そんなアイテムであるーー
「そういえばエルヴィンさんはこっちに来てから試し切りとかしました?」
「え?してないですけど…」
「よかったら試し切りしません?自分が動くのと動かすのとで全然違うわけですし…」
それを聞いた私は胸がワクワクした。
ゲーム世界でカッコよく戦ってたエルヴィンそのものの戦闘ができるんじゃないかと胸を弾ませた。
「したいです!試し切り!!行きましょう!!」
「わかりました!ワープポータル出しますね!」
パチンっ
レーベルがゆっくりと目を閉じ、地面を見ると青い光の柱が立った。
ワープポータルは場所と場所を繋ぐ魔法で、使用者が行ったことのある場所であれば何処でも転移可能である。
ワープポータルに足を踏み入れ飛ばされた先は魔王城の外周の草原だった。
魔王城周辺は常に時間設定が夜になっているため、見晴らしはいいものの、魔王城の近くだということをこれでもかと主張していた。
周りを見渡すと、すぐにアクティブモンスターがこちらに気がついたのか近寄ってくる。
見た目は血塗られた鎧というあまりにも禍々しいモンスターだ。
「ブラッドナイトアーマー…まぁ、試し切りにはいいのかな?」
そう言い、ワープポータルから出て来たレーベルに目をやる。
「まぁ、1撃ってことはないと思うよ」
それを聞き、一つの武器を思い浮かべながら右手を前に出す。
武器手からまるで産み落とされるように地面に落ちた。
ドスリ…重たい音がした。
しかし、持ち手の部分はこちらにあるのですぐに持ち上げられる。
この武器こそが彼女の1番のお気に入りの武器魔王専用の両刃斧ーーグリードーーである。
見るからに重いそれを片手で軽く持ち上げ、そして地面に向けてすごい勢いで振り下ろした。
瞬間、彼女はその反動で飛び上がり、空中で3回転しながらブラッドナイトアーマーの頭から叩き割る。
空撃と回転斬と兜割のスキルを同時に使っただけのことだが、空撃は片手剣、回転斬は両手剣、兜割は斧のスキルであるため本来は両立はほぼしない。
彼女がすべてのスキルを使えるからこそできる合わせ技である。
それを受けたブラッドナイトアーマーは光の粒子となって飛んで行った。
「流石ですね、動きが軽くて惚れ惚れします」
レーベルはニコリと微笑んだ。
「私も試し切りさせてもらいますわ」
そういうと背中から大きな蝙蝠の羽のようなものが生える。
そして、空高く飛び上がると巻いてある髪をくるくると指でいじりながら、遠くに見える別のブラッドナイトアーマーを見つけると同時に髪を弾く。
すると、レーベルの周りに真っ赤な剣が浮かんでいた。
彼女はそれを掴むと、無造作にブラッドナイトアーマーに向けて投げた。
「レーベルさん、ナイスシュート!」
その声を聞くともう一本剣が出て来て、また投げつけた。
この、真っ赤な剣はヴァンパイア専用の技、ブラッドソードである。
装備として使うことはもちろんのこと、このように投げつけて遠距離攻撃としても使えるからヴァンパイアの基本スキルである。
2本目の剣が刺さると、ブラッドナイトアーマーは光の粒子となってしまった。
「弱すぎ…」
レーベルはボソリと呟いた。
それからしばらく色々なスキルを試し、魔王城へ戻った私はベッドに倒れこんだ。
しかし、本当にあっけなさすぎた。
興奮のあまり本気を出しすぎたというのもあるが、まさかここまでとは思っていなかった。
だが、レーベルの攻撃で2発必要だった事を考えれば、よほどの高レベルでない限りここでのレベリングは死活問題ということになる。
恐れている魔王城攻め込みの心配はまだ大丈夫そうである。
そんな事を考え、眠りについたーー。