第七話(奴が遣ってきた)
wani come running
奴が来た
空想中に突如テツヤから呼び出される。
「おいケイ」
「…ん」
「おい。そろそろ帰ろう」
「…ああ、そうだな。痛っ」
「どうした」
どうやら脚が痛いらしい。さっき転けた箇所が悪化している様だ。捻挫か骨折かどちらかは分からない。しかし一大事には至っていない様だ。
「ああ帰ろう。帰ったら治療するか」
彼等は帰る支度を始めた。
◇
奴だ…
奴がやって来たんだ
刻々と歩みを寄せながら。
少しずつ歩みを寄せながら。
吐息は消して荒くなかった。ただ微かな産声を複式呼吸で。隙を伺いながら。血を求めながら。緑色の煉瓦を身に纏い、木漏れ日の 光に紛れながら樹木の紆余曲折を経て、尚且つ直線的に進むのではなく蛇の様にうねりを上げながら…。膨大なる緑と一心同体を余儀無くされ、帰って其れが好都合であるかの様に…。
意思を持つのかそのワニは。機を待っているのか。
何故ケイタは脚に怪我を負ってしまったのだろう。そんな脚で大丈夫なのか。そんな脚で樹に登れるのだろうか。そんな脚で逃げ切れるのだろうか。そんな脚で全力疾走する事が出来るのか。
それは分からない彼等に聞かなければ分からない。分かるはずがない。
もし仮に石を投げたとする。しかしワニはそれらには反応を示さないだろう。何故なら瞳に映る彼等をキャッチしてしまってるから。標的は定まっているのだ。しかし直ぐには行かない。狂暴なあの性格なのに何故だ。答えは簡単。何故なら逃げられる。ついさっき覚えてしまっている。二度目は通用しない。確実に見据えると伺える。
世界は天変地異が起こっている 。普段ある一定の地域でしか見ないこのワニ。平穏な森に姿を現した。どうやって現れたか。ワニは自らの意思でやってきた。酷く荒んだ地域から緑が豊かなこの森へ住み着いた。
だから世界は危機に迫っている。森羅万象が崩れさろうとしていた。何れこの様な怪物はゴマンと現れるだろう。
どうなるんだ…




