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お見合い相手は腹黒執事

いよいよお見合いが始まりました。サブタイトルの腹黒執事ですが…まだ本領発揮するほど黒さを見せてないので、ちょっとこの時点では偽り有りかも。


ロイヤルRホテル。緋天の間。

この古い歴史あるホテルでは、毎日数多くの催し物が開かれている。

その中の六階にある緋天の間は、代々壬生家の冠婚葬祭等の大事な場面で使われてきた。

中は本格的な日本間が広がっていて、金屏風の向こうは更に豪奢な檜の間に繋がっている。

また、結婚披露宴等、内装を洋風にしたい場合は下に緋色の絨毯が敷かれてより豪奢になる。


その奥の檜の間に壬生光三郎と執事の昴、そして今回の見合い相手である令扇寺峯子れいせんじみねことその両親が向かい合わせで座していた。


「それで、昴さまは普段どんなご本をお読みになるのですか?」

「はい、ヘッセを少々……」

「まぁ、素敵……。高貴な雰囲気のある昴さまに相応しい愛読書ですわ」


……とまぁ、見合いが始まった途端、先に部屋に入った昴を見合い相手と勘違いした峯子は、両親が顔を引きつらせているのにも気付かず、昴にべったりとくっついているのだ。

これは何かがおかしい。

光三郎はすっかりいい雰囲気に見合いが進んでいる二人を見て半眼になった。

しかし見合いは昴ではなく、光三郎と峯子のはずだった。

それが今の光景は何なのだろう。

目の前には憧れの眼差しでうっとりと昴を見つめる峯子と、それに表情一つ変えずに対応している昴がいる。

はっきりいって正面に座る光三郎には全く興味がないように見える。というか視界にすら入れてない。

それもそのはずだ。

誰が見合いの場に女物の着物を着てやって来る男がいるというのだ。

光三郎がこの場に入って来た瞬間、彼女の両親が硬直したように顔が強ばったのを光三郎は見逃さなかった。


………全く。誰の見合いだっての。昴さんも昴さんだ。早く誤解を解いてくれりゃいいものを……。あー、俺、ここにいる意味あるのか?


二人を見守るしかする事のない光三郎は退屈そうに頬杖をついて、料理の皿の上にあったホタテの貝紐を見事な蝶結びにする事に没頭し始めた。

それを横目で見た昴はコホンと軽く咳払いをした。

「あー、峯子さん。我があるじともう少し歓談されては如何ですかな」

「えっ、どなたですか?」

さもそのような人、どこにいるの?とでも言いたげな顔をして峯子はキョロキョロと辺りを見渡す。

その度に高く結い上げた髪の上に差された紅い簪がシャラシャラと涼やかな音を奏でる。

「…………………」

「コーザ。ほら、何をやっているのですか。さぁ、お嬢さんをエスコートして差し上げたらどうです」

昴が光三郎の脇腹をつつく。

「別にいいですよー。俺なんてどうせ昴さんの前では刺身のつまのような存在だしー。どうせ俺なんて女装するしか取り柄がないしー、定職にも就いてないしー、彼女も出来た試しがないしー……あぁ、言ってて悲しくなってきた。帰る……。さらば将来有望な若人たちよ」

光三郎は畳みにのの字を書いて、ひとしきり自虐すると、急に立ち上がりその場を去ろうとする。

「あっ、お待ちになって下さい。壬生さまっ」

それを止めようと立ち上がったのは峯子の母親だった。

「ほら峯子っ、何とか言いなさい。貴方相当失礼な態度を取っていたのよ」

母親は鬼のような形相で娘を叱りつける。

「あー、大丈夫ですよ。令扇寺さん。私の方も態度が悪かったですから」

光三郎は母親に笑みを向けた。それでやや母親も毒気を抜かれたようにおとなしくなる。

「峯子、さぁ」

「お母さん……」

再度母親に促され、峯子は言葉に詰まりながらも光三郎の方へ歩いていく。

見上げるとかなりの迫力だ。

女装して一見女性のように見えるが、よく見るとやはり男性なのだと痛感する。

「あ……あの、あのっ」

峯子は口元を小さく握った拳で隠しながらしどろもどろになっていた。


……そんなに俺が怖いかね。


光三郎は大きな手を峯子の頭に伸ばした。

「ひっ……」

咄嗟に峯子の息をのむ気配が伝わる。

しかし光三郎の手は峯子の頭部で涼やかな音を奏でる簪に触れただけだった。


シャラララと繊細な音が響く。


その音に顔を上げると、光三郎は峯子が一瞬見とれるくらい艶やかな笑みを浮かべた。

「大変美しい音ですね。それでけでも今日ここで貴方と出会えて良かった」

するとたちまち峯子の頬が桜色に染まった。

「行くぞ。昴さん」

「良いのですか?また大旦那さまに叱られますよ」

昴は光三郎のショールを持って立ち上がる。

その背に弱々しい声がかかった。

「あのっ……、先ほどは大変失礼しました。私、あの……緊張していて。だから今からでも……」

峯子は美しい着物が乱れるのも構わず走り寄った。

その声に光三郎はゆっくりと振り返った。そして自然な動作で隣の昴の肩に腕を回した。

「あー、済みません。俺、昴さんなしじゃ生きられないリアルBLなんですよ。ね、昴さん?」

「はいいいいっ?コ……コーザっ?」

昴は突然何を言いだすのかという目で睨んできた。だがそれを完全に無視する。

峯子もその両親も唖然としていた。

「さ、行くか」

「本当にあれでいいのですか?また妙な噂をたてられますよ。それに私まで巻き込まないで下さい」

「いいじゃん。どうせヘンテコな噂なら色々たってるし、慣れてる。あれだろ、俺たちがただれた関係で、結ばれない恋に身を焦がしてるってヤツ」

「なっ………。はぁ、心外もいいところですね。誰ですか、そんな不毛な噂を広めたやからは。訴えますよ」

「おいおい。昴さん。言っておくけど俺じゃないよ」

「……………」

昴はうんざりとした表情で光三郎にショールを羽織らせた。

「車を回してきます。貴方はここで待っていて下さい」

「あいよー。了解」



まだまだプロローグな感じですが、宜しくお願いします。

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