汁粉缶とコーヒー缶
青鬼節炸裂な回。ですが次回からはもっと酷くなる模様。SF色が強くなり、急にファンタジー展開に突入していく予定です。
「ほら、飲むがいい。身体が温まる」
何とか危機を脱し、青鬼は担いでいた隆文を降ろしたのは、現場から離れた児童公園だった。
ポケットから携帯電話を取り出して確認すると、時刻は夜の二十一時をやや過ぎた頃で、公園には二人以外人気は無かった。
隆文は力無くよろよろとした歩みですぐそこにあったベンチに座った。
先程まで雪がちらついていた事もあって、ベンチは氷のように冷たかった。だが、今の疲れ切った状態では少しも気にならなかった。
そこに青鬼が缶飲料を投げて寄越した。
反射的に両手で受け取ると、缶は温かかった。青鬼が公園の入り口にある自動販売機で買ったものらしい。
「あー、どうも……って、汁粉かよ」
てっきりコーヒーの缶かと思っていたのだが、よく見ると缶にはお椀と田舎の光景が描かれ、大きく「おしるこ」と印字されていた。
チラリと隣に座った青鬼の方を見ると、彼はちゃっかりコーヒーを美味そうに飲んでいた。
おごられたのに、何だか激しい憤りを感じた。
「何で俺だけ汁粉なんだよ。自分はコーヒーのくせに」
「ああ。これかい?済まないね。君の好みが分からなかったので、万人受けする無難な飲み物を選ばせてもらったよ」
「あのな…、汁粉のどこが万人受けすんだよ。無難でもねー大冒険だっつの、普通逆だろ。コーヒーが無難だろうが」
すると青鬼は自分の手にしている缶コーヒーを見つめ、そして隆文の方を見た。
「君は僕と間接キスがしたいのか?よもや君は変態か……」
「もういいっ!」
プシュッっと勢いよくリングタブを起こすと、隆文は甘ったるい液体を喉に流し込んだ。
確かに身体は温まった。
「では落ち着いたところで自己紹介をしようではないか。青年A。僕は世界探偵、青鬼八京。B型の乙女座だ。年齢は永遠の十八歳なのさ」
「な…何から突っ込めばいいのやら。青年Aって俺の事だったのかよ。つか十八って絶対嘘だろう。ま…いいや。とにかく助けてくれてサンキュ。俺は真木隆文。年は二十五だ」
「ふむ。それで血液型と星座は?」
「はぁ?それ、俺も言うのかよ。そんな事聞いてどとうすんだよ……」
すると青鬼は闇夜でも輝く碧眼を大きく見開いてくってかかってきた。
「何っ、君は自己紹介する時に氏名、年齢、血液型、星座を訊ねないというのかい?」
唐突に始まった自己紹介だが、早くも隆文は頭を感じていた。
そして同時にこの青鬼という男はどこか常識を飛び越えた別次元の生物なのだと痛感する。
それでも彼が命の恩人であるという事実は変わらない。
ここはぐっと我慢して彼に付き合ってやる事にした。
「血液型はA型。星座は……知らねぇ。何だったかな」
いちいち自分の星座が何だったかなど気にした事はない。下手すれば干支でさえあやふやなくらい隆文は無頓着な人間だった。
そんな隆文に青鬼はふぅとため息を吐いた。
その些細な仕草でさえ隆文には癇に障る。
「じゃあ君、誕生日はいつだい」
「は?一月二十七日だけど」
「ならば君は水瓶座だ。そして来月ハッピーバースデーではないか」
「……そりゃありがと。つか誕生日聞いただけで星座即答出来るって、どんだけ乙女なんだよ」
「それは僕が乙女座だからなのだよ」
「………寒っ」
「ほぅ。寒いのか。ならばもう一缶、汁粉をいかがかね」
「違うっ!」
どうもこの男と話していると体力を消耗してしまう。
それよりも自分は結構人見知りな方だと思っていたのに、初対面の男にここまで自分の感情をさらけ出してしまった事の方が驚きだ。