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いざ、戦場へ。

ロイヤルRホテル。

大正末期に建てられたこの施設は、関東大震災の難を免れ、更には激しい戦火をも潜り抜け、その後も数々の天災にも耐えてきた老舗中の老舗のホテルだ。


壬生家はそのホテルと密接な関係を築いている為、ここ一番といった重要な話し合いの場には必ずこのホテルが使われる。

そのホテルの前に黒塗りの高級車が停まった。

直ぐ様ボーイが駆け寄り、重厚な車の扉に手を掛ける。


先に降りたのはシックなスーツを纏った細身の男性、昴だ。

彼は洗練された身のこなしでボーイに軽く会釈をすると、介助は不要とばかりに素早く後部のドアに手を掛けて中の主人に向けて純白の手袋に包まれた手を差し出す。

少しの間を置いて、その手に淡いクリーム色の手袋に包まれた手が重ねられる。


その降り立った人物を見た瞬間、脇に控えいていたボーイや他の利用客たちが息を飲む気配がした。


「う…美しい!」

「なんて美しい貴婦人なんだ」

「素敵……」


羨望の視線が注がれる中、光三郎はドレスの裾を軽く持ち上げて周囲に会釈をした。

「さぁ、行きますよ。コーザ」

「はいはい……」

頭部を飾る封縛符というリボン型の呪符のおかげで今の彼はどこから見てもたおやかな女性に見える。

例え女性の平均を遙かに超えた長身であっても、肩に厚みがあって筋肉質なシルエットになってしまうドレス姿であってもだ。

それでも秀麗な美貌は変わる事はなく、長い睫毛を彩る青い瞳や通った鼻筋に淡い桜色の唇は愛らしく、肩に広がる蜂蜜色の巻髪はシンプルなドレスを彩るショールのようだ。


二人はその羨望の視線の中、ホテルの中へ進んでいった。

内部は重厚なクラシックが掛かる洒落た雰囲気の内装で、子供の頃から出入りしていた光三郎にとっては珍しいものではなかったが、執事である昴はそう何度も来た事はない。


「えーと、緋天の間は……と」


その慣れない様子で見取り図を取り出した昴に、光三郎は素早く彼の袖を引いた。

「緋天の間は六階だよ。あのエレベータで行くんだ」

「ああ。そうでしたか。さすがはコーザですね」

「何がさすがなんだか……」

まだ憂鬱そうな顔で光三郎は肩を竦めた。

これからまた見合いだと思うと気が重くなる一方だ。


「では参りましょう」

主人に危険がないよう、昴は光三郎の前を歩く。

このいつもの主人の前方を歩く習慣が、この後災いとなるとは二人はまだ気付いていなかった。

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