初めましてのさようなら
二次創作に作ったはずがいつのまにかオリジナルになって、二次創作要素が消えてしまったもの
「俺、彼女ができたんだ」
そう言われた瞬間は何も言葉が出なかった。何も考えられなかった。
居酒屋の喧騒が嘘みたいに消えて、自分が知らない所へと沈んでいく感じがした。
それでもわずかに残っている思考を働かせて精一杯声を出した。
「お、おめでとう!よかったな!」
割と大きめに発せられた自分の声で一気に今の場所まで引き戻された。
いつかは解消されなければいけない俺たちの曖昧な関係。そんなのはわかっていたし、なんとなく今日呼び出された理由もわかっていたけれど、いざ言われるとやっぱり辛い。
でも、祝わなければいけない。だってこの関係は体だけで、勿論親友で腐れ縁というのもあるけれど決して恋愛感情を持ち込んではいけないから。
本当は、そんな自分勝手なこと許せるわけ無いだろ!勝手に俺を抱いておいて、変な関係にしておいて、飽きたら勝手に他のやつのとこれへ行くなんて!ふざけんなよ!俺はもうお前に本気になっちゃったんだよ、付き合うなんて言うなよ。
そう叫んでしまいたい。けれど、それはしてはいけない。相手を困らせるなんてしたくないから。
「じゃあ、もう終わりにしようぜ!こんな、ほら、な?不純なの、彼女さんに悪いから。」
向こうから終わりの言葉なんか聞きたくない、そんな一心で口走ってしまった。相手の目を見ずに、あたふたとしながら言う俺の中には自己嫌悪しかない。
自分勝手なのは俺じゃないか。勝手に好きになったのはこっちなのに、上手に嘘一つつけないなんて。
「あぁ、そうだな。今まで振り回してごめんな。」
今更優しい言葉なんて要らない、ごめんなんてどんだけ俺を酷く抱いたって全く言わないのに、どうしてこんな時だけ言うんだ。これ以上ここにいたら泣いてしまいそうで、俺は勢いよく席を立った。
「俺会計してくから、先に帰ってていいよ。これはお祝いだからな、幸せになれよ!」
鞄をひっつかんでレジへ向かった。会計を済ませようとお金を出し、お釣りを貰って店を出ようとすると、店員さんに何かありましたか?大丈夫ですか?と心配された。
大丈夫ですよ、と返しながら、そんなに酷い顔をしていたんだろうかと思って苦笑した。
「……情けねぇな」
小さく呟きながら駅までの道を歩いて行った。外は少しだけ涼しくて、秋の訪れを感るような温度だ。肌寒いこの温度がより一層今の状況を切なく感じさせる。
大通りから狭い脇道に入って、一人になった瞬間今までせきとめていたストッパーが外れて涙が溢れ出てきた。俺だって付き合いたかった。好きだって思いを伝えたかったのに。
どうしても同性というものが邪魔をして伝えられなかった。本当は…本当は
「す、きなのに…」
言ってしまってから、どれだけ自分があいつを好きなのかを再認識させられて余計に涙が溢れてきた。このぐずぐずの状態のまま電車に乗るのは嫌で、歩いて遠回りして帰ることにした。
一駅分ほどずっと泣きながら歩いていたが、なんとなく、もうこのままうじうじしてても仕方がないような気がした。完全になんか忘れられなくても、少しずつ忘れていこう。それが俺にとってもいいことなんじゃないかと思った。
前向きに、いこう。これからもあいつと会う機会がたくさんあるのだから、その時に今までの事は無かったものとして笑顔でまたバカできたら、それが一番じゃないかと。
一時間程歩いてやっと最寄り駅に着いた。凄く長い時間がかかったが、その間に少しだけ心を落ち着かせることができた。
道路を見てタクシー乗り場を探す、今日は疲れてるしちょっとくらい贅沢してもいいだろう。タクシー乗り場を見つけて乗り込み、行き先を告げると俺は睡魔に襲われた。久しぶりにたくさん泣いたからなと思い、俺は目を閉じた。