終
咲樹は姉の夏華から純平に刺さっていたナイフを
受け取るとそのナイフで自分の掌を傷付けた。
「お願い! 戻ってきて!……」
咲樹はそう呟くと掌からポタリポタリと零れ落ちる
自分の血を純平の傷口へと注ぎ込んだ。
次の瞬間…… 咲樹の血と混ざった純平の身体は
見る見るとその傷を治していった。
暫くすると純平は
「あれ? 俺はどうしたんだ?……」
と言い、目を覚ました。
純平が気が付いたことに喜び、咲樹は
「良かった!……」
と純平に抱きついた。
純平は訳がわからなかったが暫くして、気を失う記憶が戻り、
慌てて、咲樹を自分から引き離すと
「大丈夫か? 怪我はないか?……」
咲樹の事を心配した。
咲樹は涙を流しながら
「うん!大丈夫! でも、先生が怪我を……
でも、もう大丈夫。私の血を与えたから……」
と純平に言った。
『怪我?…… 私の血?……』
純平には咲樹が言っている意味がわからなかった。
「よ、良かった……」
咲樹は再び、純平に抱きつくとそのまま、純平の胸の中で
意識を失った。
夏華は純平の胸の中でスヤスヤと眠る咲樹を見て、
「大丈夫よ! 気を失っただけだから……」
純平に言うと
「良かった!」
純平は咲樹が無事だとわかるとホッと胸を撫で下ろし、
咲樹のことを優しく抱きしめた。
夏華達は洋館内の椅子に座ると
「さて、どうしましょう?…… わたしらを
付け狙っていた者はもういないから
すぐにいなくならなくて済んだけど……
わたしらは人間ではないからね……」
独り言のように純平に言った。
「え? 人間じゃない? どういうこと?……」
純平は不思議そうな顔で夏華達のことを見詰めた。
「こういうことよ!」
利央はそう言うと顔だけを獣(狼)へと変えた。
「わぁ! ば、化け物……」
利央の姿を見て、純平は仰け反り、驚いた。
驚き、震えている純平の胸の中で気が付いた咲樹は
利央のことを怖い顔で睨みつけながら
「もう! やめてよ! 怖がっているじゃない」
と怒った。
「少しからかっただけじゃない」
利央はそう言うと再び、人間の顔に戻した。
咲樹は震えている純平のことを優しく抱きしめながら
「ごめんなさい。驚かせて…… 先生。」
と純平に言った。
やっと、事態が飲み込めた純平は優しく咲樹を自分から
引き離すと
「大丈夫だから…… 少しびっくりしただけだから……
なら、僕もあの力を?」
独り言のように夏華に言った。
「それは大丈夫? 私みたいな特別な力は
あなたにはないから…… でも、少しだけ人より怪我の直りが
早くなったかも?」
夏華は純平にそう言うと純平は
「何だ。それだけか……」
と呟くと咲樹のことをギュッと抱きしめた。
咲樹はびっくりした顔で純平のことを
見詰めながら
「え? 良いの?……」
純平に言うと純平は咲樹のことを
ギュッと抱きしめながら
「良いよ! 咲樹を失うくらいなら……」
咲樹に囁いた。
「……」
咲樹は純平の胸の中で大粒の涙を流した。
夏華は咲樹と純平の姿を見ながら
「……なら、決まりね!」
と言うと再び、洋館で暮らすことにした。
純平も咲樹に正式に交際を申し込み、
夏華らの同意の元に真希と付き合い始めた。
幸せの咲樹は純平との別れが来た。
純平の教育実習が終えたのだった。
「別れたくないよ!」
泣きじゃくる咲樹につられ、純平も泣きながら
「俺も咲樹と別れたくないよ」
咲樹と抱き合い、一晩、泣き明かした。
翌日、純平が咲樹の通う学校に最後の授業をしに向かうと
咲樹の通う学校の教頭先生が
「純平さん。康平先生が突然、怪我をなされたから
教育実習が終って、直ぐですみませんが……
暫く、康平先生に代わって、康平先生のクラスを
見て貰えませんか? 純平さんの学校には
私から言っておきますから……」
と純平に言ってきた。
『え?……』
純平は一瞬、驚いたが再び、咲樹と一緒にいられると思い、
「は、はい!」
純平は直ぐに教頭先生に返事をした。
そんな純平の嬉しそうな表情を学校の木の上で夏華と利央は
嬉しそうに見詰めていた。
それからも咲樹と純平は幸せに暮らした。
終わり




