第8話 結婚
高校2年生、春。
恋をした。
無邪気で、明るくて、能天気で、バカな彼に、恋をした。
一緒にいると楽しくって、永久にこのままならいいのにって思った。
高校2年生、初冬。
好きになった彼に恋人ができた。
失恋。
終わりを迎えたはずなのに、感情は消えなかった。
そばにいたくて、友達でいる道を選んだ。
大学2年、早春。
彼との連絡が途絶える。
終わり。
恋と、友情の、終わり。
大学3年、秋。
俊雄の告白。
戸惑いと、決断。
俊雄への気持ちは、はっきり言って恋ではなかった。
あきらめるための、布石。
大学4年、春。
彼との再会。
よみがえる思い出と恋心。
俊雄との不和。
私の気持ちは、方向性を見失い、さまよう。
そして、見つけた、ほんとの気持ち。
やっと、見つけた。
彼の結婚式の二次会の日。
駅で待ち合わせた俊雄と落ち合う。
俊雄はとても不満そうな顔のままだった。
「来てくれてありがと。来ないと思ってた。」
そう言うと、俊雄は私の顔も見ずに、ぽつりと「約束だから。」とだけ言った。
ほんの少し前までは、けんかしてもこんな気まずい空気になることはなかった。
これが、終わりそうになっているカップルの雰囲気ってやつなのだろうか。
これが最後かもしれないのに、ほとんど会話も出来ないまま、会場のレストランに着いた。
「あきちゃ〜ん!」
受付を済まして、レストランに入ってきた私と俊雄にすぐ気付いて、彼が走ってやってきた。
俊雄の顔が一瞬ゆがむ。
そういえば、男友達の結婚式とは言ってなかった。
「こんばんは〜!来てくれてうれしいよ!」
すでに二次会は始まっていたので、彼はすでに酔っ払っていた。
「おめでとう。」
「ありがとう。」
幸せな笑顔ってこういう笑顔の事をいうんだねって言いたくなるくらい、彼は幸せそうだ。
「あきちゃんの、カレシ?」
隣にいたひきつり笑顔の俊雄に、彼が問いかける。
「はじめまして。俊雄です。」
「はじめまして!あ、オレの奥さん連れてくるね〜。」
彼は意気揚々と店の奥に消えていく。
少しして、幸せそうに笑う彼とカノジョが歩いてきた。
似合わないタキシードの彼と、ふんわりオレンジのシフォンのドレスの似合うカノジョ。
2人ともニコニコ笑顔で、私と俊雄にあいさつする。
「秋ちゃん、かっちょいいカレシ作ったね〜。」
「ね!美男美女!お似合い!」
私と俊雄をべたほめするから、私と俊雄の間に流れてた気まずい空気が薄らいで、私と俊雄は目を見合わせて、笑ってしまった。
「じゃ、2人とも、今夜楽しんでってください!」
しばらくの会話の後、彼は、カノジョを連れて、他の友達のところへ行ってしまった。
「友達って男だったんだ。」
俊雄が私を軽くにらんで、そう言った。
「うん。」
隠し事はしたくない。
うそも方便とも言うけれど、話しておきたかった。
「昔、好きだった子。」
俊雄の口があんぐりひらいた。
「でも、昔だよ。」
「そっか。」
「うん。」
何も追求してこないのは、もう私のことなんて、どうでもいいのかな?
会場中に漂う幸せを祝う、幸せな雰囲気。
なのに、私と俊雄には、そんな雰囲気が全く似合ってない。
仲間と楽しそうに酒をあおる彼と、それを止めようと彼のビールを奪おうとするカノジョが見えた。
本当に幸せそう。
彼の笑顔が嬉しいけど、なぜだか、せつない。