第7話 明暗
どうすればいいのか・・・
真剣に悩んだ。
俊雄に告白されたその日の夜、私は夕飯も食べずに悩んでた。
好きな人がいる。
忘れられない人がいる。
でも、いい加減、別の人を好きになりたい。
連絡の取れない彼を思い続けてたら、いつまでたっても私は一人のままだ。
俊雄のことは友達として好きだった。
明るくってノリのいい少し兄貴分な感じの俊雄は、一緒にいて楽しかったし、
居心地が良かった。
付き合ってから好きになるパターンの方が多いんだよ。現実は。
誰かがそう言っていたっけ。
一歩踏み込んでみよう。
それが彼を忘れるためだとしても。
次の日、私は俊雄を中庭に呼んだ。
「返事?」
俊雄が不安そうに私の顔をのぞきこむ。
私は、どんな表情をすればいいのかわからなくて、そっぽを向いて、言った。
「・・・よろしくお願いします。」
それが私と俊雄の始まりだった。
真由と二人で、構内を歩いていると、廊下の向こうから俊雄が来るのが見えた。
「俊雄。」
呼びかけると、俊雄はむっつりとした顔でちらりと私を見ただけで、トイレに入ってしまった。
「なに?けんかしてるの?」
真由が怪訝そうに言う。
「けんかしてるっていうか・・・私が俊雄のこと避けてたのがばれて、俊雄が怒ってる。」
「で?前好きだったやつとはどうなったの?」
やっぱり真由はストレートに聞いてくる。
「告白した。」
「はあ?!」
真由の目がこぼれんばかりに見開く。
「・・・だって、言わないでいるの、きつかったんだもん。」
「それで?!」
「すっきりした。」
真由の目がとってもすわってて怖い。
「なんでそうなるわけ?」
もっともな意見だ。
「・・・ずっと、ためこんでた気持ちを吐いたら、自分の気持ちが見えたんだよ。
私が今一番大切な人が誰か。」
ちょっとクサイセリフを言ってしまったなと、ごまかすように笑うと、真由も笑ってくれた。
「でも、俊雄は怒ってるんでしょ?
どうするの?」
私はあいまいに首を振る。
どうすればいいのだろう。
このままの状態を続けていれば、私たちの関係は終わりを迎えてしまうかもしれない。
それだけは嫌だ。
「話をしてみるよ。」
真由が私の肩をたたいて、「頑張れ。」と応援してくれた。
言葉足らずな私が、ちゃんと俊雄と話せるだろうか。
不安はあるけれど、しっかりしなければ。
やっと自分の気持ちを正直に告白できるようになったのだから。
ケータイに電話をかけ、講義の終わった俊雄を呼び出す。
そこは中庭。
秋には紅葉、春には桜が咲く、眺めにいい場所だ。
桜はほとんど散って、葉桜になっていた。
ついこの間までは咲いていたのに、月日がたつのはとても早い。
「秋。」
やっぱり不機嫌なままの俊雄がのろのろとやってきた。
「オレ、次の時間も講義あるんだ。
話しあるなら早くして。」
この言い草に少しカチンとくるが、ここでキレたら元も子もない。
「ええと・・・」
決意を固めて彼に告白したあの日。
あんなにすんなり出た言葉が今日はなかなか出てこない。
俊雄が怒っているのがわかって、私は早くけりをつけたいとあの日、彼に告白することを決意した。
彼への気持ちを終わりにするために。
そして、今日。
私は、何を言えば、俊雄が許してくれるのか、全くわからないでいた。
「結婚式の二次会、どうする?」
なぜかそんなことを聞いていた。
「・・・行かねえよ。」
「そう・・・。」
私の目に涙がたまってくる。
こんな冷たい俊雄は初めてだ。
泣きそうになっているのがわかったのか、俊雄は少しだけ慌てていた。
ポケットにつっこんでいた手をだしたりひっこめたり。
動揺してる時の俊雄の癖だ。
「いつ?」
言葉が少し優しくなった。
「来週の水曜。」
彼は販売の仕事をしているため、式は平日だった。
「・・・講義、無い日だな。」
「うん。」
俊雄は最近ついてばかりいるため息をまたついて、
「行くよ。」
と言ってくれた。
「・・・ごめんね。
振り回してばっかりだね。」
とても、やるせない気持ちになっていた。
もう別れるのかもしれない。
彼の結婚式のその日が、私と俊雄の最後の日になるような気がした。
彼の幸せの日が私の不幸せの日になるかもなんて、なんて皮肉。
でも、最後になるかもしれないから、どうしても、俊雄と行きたかった。
「じゃあ、来週ね。」
葉桜を仰ぎ見て、中庭を出て行く。
ここ最近の出来事が走馬灯のように流れて、私はぎゅっと目をつぶった。