第6話 告白
大学3年の季節は秋。
今から約半年前。
同じサークルの俊雄が私に告白してくれた。
紅葉が赤く色付く大学の中庭で、俊雄は紅葉みたいに真っ赤な顔で、
「秋。付き合おうよ。」
そう言った。
同じサークルで、いつもつるんでいた仲間からの告白に私はとても戸惑った。
「考えさせて。」
俊雄は、やっぱりそう言うと思ったよと笑って、
「今オレのことたいして好きじゃなくてもいいからさ。
つきあってほしいんだ。」
少しの間のあと。
「オレは秋のこと好きだから。」
真摯な言葉がうれしかった。
彼からの着信がなり、私と彼は落ち合った。
近くにある公園に訪れると、すっかり春の陽気になっていて心地よかった。
桜はすでに散っていて、少しだけ青い葉っぱが生えていた。
芽生えの季節なんだななんて、どうでもいいことを考える。
彼は私の少し後ろで、気持ちよさそうに春の風を浴びていた。
「結婚前の人にこんなこと言うなんて、バカかなと思うんだけどさ。」
出し抜けに私は言った。
「・・・これはケリなんだ。
私もちゃんと自分の未来を見たいから。」
彼はだまってうなづく。
スウと深呼吸。
気持ちいい空気が肺に充満する。
ふーと吐き出す。
吐き出すと同時に言葉はすんなりと口から出た。
「あんたのこと、好きだったんだ。」
あれ?私、過去形で話してる。
「だった」と今、過去形で言った。
自分の言葉に自分が驚く。
素直に出る言葉は、端から端まで素直なんだ。
どうして今まで気付かなかったかな。
ああそうか。
混同してただけ。
過去の気持ちだったんだ。
この瞬間、私は実感した。
気付くのが遅れたけど、私の中で今、恋する気持ちを育てているのはただ一人、別の人に対してなんだ。
「過去形の気持ち、だけどね。」
私は彼に笑顔を向けてそう言っていた。
彼への気持ちはちゃんと過去形だった。
そう確信して、うれしいような悲しいような不思議な感情が胸に沸き起こった。
それは、涙となって、瞳を潤わせる。
「ありがと。」
はっと彼を見ると、彼は泣きそうな顔で、笑ってた。
「秋ちゃんはオレにとって、すっごく大事な存在。
ケータイ壊れて連絡取れなくなった時もちょー悲しかったんだよ。」
こんなこと言われて、泣かないわけ無い。
たまっていた涙がぼろぼろと落ちる。
これは過去の私の涙。
彼に恋して、彼を思い続けたあの頃の私の涙だ。
「カノジョに対する好きとは違うけど、オレ、秋ちゃんのこと大好きだよ。」
ああ。浄化されてゆく。
ほら、聞いた?
彼に恋してたあの頃の私に問いかける。
自分の気持ちを素直に伝えて、その答えが返ってくる。
たとえ答えがNOでも、伝えることがが大事だったんだ。
私は染み入るように心に浸透する彼の言葉を反芻する。
よかった。
伝えることが出来て。
後悔して泣いていた私が、心の中でにっこり微笑む。
「私も、カレシに対する好きとは違うけど、あんたの事、今でも大好きだよ。」
恋愛としてではなく、友達として。
気持ちは形を変えて、好きという心を紡ぐ。
「これからも、友達!」
私がニイと歯を出して笑顔を作ると、彼も真似して笑った。
「おう!マブダチ!」
爽やかすぎるかな。
でも、これが私たちには合ってる気がしたんだ。
ありがとう。
好きという気持ちを教えてくれて。
悲しいことも、つらいことも、楽しいことも、うれしいことも。
彼がいたから味わえたたくさんの思い出。
そのすべてを。
胸に抱いて。
新たなる恋へ、歩き出そう。
俊雄のケータイに電話をかける。
不機嫌そうな俊雄の声が、ケータイから聞こえてきた。
「5月にね、友達の結婚式があるの。
その二次会、俊雄も一緒に来てくれる?」
俊雄の声はいっそう不機嫌さを増す。
「なんで、俺が全く知らないやつの結婚式の二次会に行かなきゃいけないんだよ?」
「紹介したいから。私のカレシですって。」
俊雄は黙ってしまった。
私も何も言うことが出来ず、お互い無言の時間が流れる。
「・・・もしもし?」
その空気に耐え切れず、言葉を発すると、俊雄のため息が聞こえてきた。
「考えとくよ。」
電話はぷつんと切れてしまった。