第1話 再会
片思いで終わった恋はどうしてこうも心に残るのだろう。
彼の照れた顔や、私をからかった時に見せるちょっと意地悪な笑顔。
いつもいつも2人でじゃれあって、笑ってた。
いい思い出。
つきあっていたら見えたはずの彼の悪い部分も浮かれた片思いの中では気付くことも無かった。
だからこそ、彼は私の心の中で、まるで王子様のように未だ輝いて見えるのだ。
けれど、実らなかった恋は後悔として、心の片隅でうずいてる。
たった一言の「好き」
それが言えなくて、わだかまったままの私の心。
あの時に戻りたい。
そしてたった一言、伝えたい。
「好き」
私の名前は大塚秋。大学4年。
彼氏はいるけど、未だに高校の頃の片思いをひきずってる。
高1の頃始めたファミレスのバイトを1年頑張った頃、
彼がアルバイトとして入ってきた。
私高2。彼は高1だった。
年下の彼は甘え上手で、私にとてもなついてた。
原チャの免許を取った私によく、甘えた声で「送ってよ。」とせがんでたっけ。
私もつい、彼を送ってあげたりして。
甘やかしてた。
周りも認めるほどの仲のよさだったから、
私は心の中で期待してた。
つきあえるんじゃないかって。
だけど、彼はバイト始めて半年後、私に笑顔でこう言った。
「オレ、秋ちゃんより先に恋人できちゃった!」
就職活動の帰り、つかれた足をひきずって、駅に降りる。
大学4年春。少しずつ内定をもらう友人が増えていく中、
私は進まない就職活動にうんざりしていた。
黒いスーツもうざったいし、足に合わない靴も嫌になる。
春のパステルカラーをまとって行きかう女の人たちがうらめしい。
「・・・気分転換に服でも見てこうかな・・・」
ふと、そんな考えが浮かび、駅ビルを振り返る。
春らしいピンクのワンピを着たマネキンがガラス越しに私を呼んでる気がする。
お金は無いけど、たまにはいいか。
私は久々の買い物に少し浮かれながら駅ビルへと歩を進めた。
すっかり春色に染まった駅ビル内。
この駅ビルに来るのは2,3年ぶり。
すっかり変わった駅ビル内をぶらぶら歩き、物色する。
やっぱり春はパステルカラーだよね。
そんなことを考えつつ、
目に留まった淡いグリーンのトップスを手に取った時だった。
「それ、人気あるんですよ。」
男の店員の声に顔を上げると、
私は思わず「あ!」と声をあげてしまった。
店員は一瞬困惑の表情を浮かべたが、
私の顔を指差し、あの頃と変わらないちょっとはにかんだ笑顔で大声をあげた。
「秋ちゃん!!」
そう、彼だったのだ。
本格的に就職活動に入る前にはやめたけれど、
私はファミレスのバイトを大学3年の秋まで続けた。
彼は高校卒業と同時にバイトを辞め、その後1年は連絡を取っていた。
つまり、私が大学2年、去年の3月まで。
その間、彼は高1のときに付き合った彼女と付き合ったり別れたりを繰り返し、
そのたびに私は一喜一憂。
別れたと聞くと、「告白をしよう!」と決意し、
勇気が出ないまま、うじうじしている内に、
彼は彼女とよりを戻していた。
そんなことの繰り返しにうんざりして、
彼との連絡を半年絶った。
けれど、やっぱりあきらめられなくて、彼のケータイに電話したら。
知らない男の人がでた。
彼はケータイを変えていて、それを私に教えてくれなかったのだ。
「友情さえも終わったか・・・」
ある意味で、完全にあきらめるいい機会だった。
だから、その頃私に告白してくれた人とつきあうことにした。
ひきずる気持ちを抑えて。
「秋ちゃん、変わってないね〜。」
「あんたはおしゃれになったね。」
「だって、洋服屋の店員だもん。」
そう言ってにっかり笑う。
変わらない無邪気な笑顔。
そういえば、都内の洋服屋の店員になったって言ってたっけ。
場所とか聞いたけど、
「まだ新米で恥ずかしいから内緒!」って言って教えてくんなかった。
「なんでスーツ?」
「就職活動だよ。もうくたくた!」
「大変だね〜。なんならうちで働く?!」
「接客業はもういいよ〜」
「確かに!秋ちゃん笑顔が怖かったもん!」
「なんだと?!」
昔通りの会話。
変わってない。
それだけのことに涙がでそうになる。
「あ。あきちゃん、ケー番とメアド教えてよ。」
「・・・前から変わってないんですけど。」
彼は決まり悪そうに笑った。
「ケータイ壊しちゃってさ、オレ、ファミレスの時の仲間の全部わかんなくなっちゃったんだよね。」
そんな理由だったのかよ!!
思わず突っ込みそうになるのをぐっと抑える。
嫌われたとか、彼女が私の存在にキレたとか、色々悩んだのに!
「相変わらずアホなんだから。」
持っていたメモ用紙にケータイの番号とメアドを書き込み、手渡す。
「ありがと!バイト仲間で遊ぶ時は呼んでよ!」
「うん。」
そういえば、バイト仲間ともしばらく会ってない。
これを機会に久々に集まるのもいいかもしれない。
そんなことより。
ああ、でも私だって彼氏がいる。
だけど、やっぱり気になる。
「彼女とは・・・どうなの?」
精一杯の勇気。
聞いたところでどうするってわけでもないけど・・・
つきあっていても別れているにしても。
でも気になってしまうのはやっぱりひきずっているからなのか。
私ってなんてあきらめが悪いんだろう。
「ああ。うん。」
なんだろう。この反応。
今まで見たことが無い。
うつむいて、頭をかいてる。
「何?結婚とか?」
冗談で聞いたら。
彼は「秋ちゃんエスパー?!」
と顔を真っ赤にした。
え?まじ?
頭の中が真っ白になる。
「しかもあとちょっとしたら子供産まれるんだ。」
彼はもうゆでだこのよう。
私は真っ青だ。
気付いたら家にいた。
いつの間に買ったのか、淡いグリーンのトップスが入った袋が転がってる。
ケータイが鳴る。
画面を見ると、彼からのメールだった。
「5月に式あげるから2次会来てね!」
もうなんだか頭が回らない。
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