表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ1

 雨足はさらに強くなる。

 (しろ)征門(せいもん)の屋根を叩く音は会話を掻き消す程に増した。

 すでに陽は落ちていた。黒塗りの空を仰げば、金の月が輝いている。そのはるか眼下。征門の下を忙しなく走る人間の足音。同時に聞こえてくるのは怒声。それもひとりではない。松明(たいまつ)の光を銀色に反射する鋼剣(かたな)を持ちあわせ、武装した兵がごまんといた。

 だが兵は、まるで物珍しいものを眺めるかのように、呆然と、屋根の上を見ている。鮮やかな(あか)で塗られた館の屋根を軽々と跳ぶ、“それ”を目で追っていた。

 それはまるで、狼。夜空の深い漆黒に溶け込み、月を背にして舞う。すばやい動きで屋根から屋根へ跳び回る。狼は、二本の足と二本の腕を振って走っていた。それは人間か。はたまた本当に、獣か。

 “弱きを助け、強きを挫く”。そんな民の味方。狼は王宮に忍び込んでは、悪事を働く。だが、ただの悪事ではなかった。金に困っている者には宝物庫から溢れた宝を。薬に困っている者には診薬庁(やくじょうしょ)から薬を。

 彼はその素顔を見られたことがない。漆黒の古覆(ぼろ)を身にまとい、やや短めと感じるいかにも扱いやすそうな鉄剣を腰に差し……狼の如く美しい(あお)の目を輝かせ、綺麗な長髪をなびかせ、夜の空に舞う。

 人々はこの狼を、敬意と、そして皮肉を込めてこう呼んでいた。――義賊、"銀狼(ギンロウ)"と。


 ――宜尉(むべい)六二三年、哉国吏州(さいこくりしゅう)首都渓庁(しゅとけいちょう)。ぽつりと染みのように現れた一匹の狼が歴史を変えた。

 "狼子時代(ろうしじだい)"、その始まりの物語である……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ