93:最終競技【応援団演舞】の前で……
体育祭編に入って引っ張りすぎになってますね……すみません、もうちょい引っ張らせてください。
「最後まで接戦だなぁ……」
と、健一の言う通り、【応援団演舞・マスゲーム】を残して青団が総合で256点と暫定トップながら、逆転を狙う形となっている紫団が2点差、そして未だ虎視眈々と優勝を狙っている黄団が4点差で3位と、まさに“三つ巴”。
とはいえ……だ。4位緑団がトップとの差32点、5位の白団が48点差で、こちらもまだまだ“優勝”を狙える位置に着いている。
というのも、最終競技【応援団演舞・マスゲーム】の配点は50点と全体を通して1番高く、しかも総取り。だから4位、5位にも優勝の可能性は充分にあるので、早い話が“三つ巴”じゃなくて“五つ巴”なのだ。まぁ“五つ巴”という言葉があるかどうかは知らんが……。
そして現在、各応援団“団長”が、競技の順番を決めるための“くじ引き”に出ているため、俺たち紫団の応援団員は、ステージの裏に出来た空間に暗幕を張り、その中で待機しているのだが、その理由は、まだ自分達、応援団の“格好”を人目に晒さないようにするためである。
「……おまたせ」
「おう、どうだった?」
応援団長“河南秋斗”がくじ引きを終えて帰ってきた……んだが、妙に浮かない顔というか表情が暗いんだが……
「俺は今日ほど“くじ運”が悪いと思ったことは無い……」
「も、もしかして初っ端かにゃ!?」
「い、いや……トリだ……“大トリ”になった……」
“大トリ”ってのはつまり―――
「一ちゃん(一番)最後ってことじゃんかっ!!」
「マジか!?まじか河南??」
お化粧バッチリで真っ赤な簪が黒髪によく似合っている如月、未だ顔面ミイラ状態の健一が驚愕の声を上げる。……ってか健一は息苦しくないんだろうか?
「責任重大だにゃ!」
「……緊張……する…」
まぁ体育祭最後の競技を締めくくるのが俺たち紫団の“応援演舞”ってわけだから、結城や湊のように、緊張しないってわけじゃない……
「本当にすまん……!!」
と、平謝りの河南。だけど、誰も責めるような奴なんていない。それどころか―――
「いいんじゃねぇか?かえって闘志が涌いてくる!」
「僕も相澤くんと同じだね」
「最後の締めくくりで、なおかつ逆転優勝!……な~んてドラマを巻き起こせるチャンスじゃんか!」
俺、大峰(相撲・男)、斉藤さん(剣道・女子)は、闘志メラメラ状態で、やる気も充分である。
「そう言ってもらえると、こっちも助かる……」
「あんま浮かねえ顔すんなって!応援団長様がそんなんじゃ、優勝なんか狙えねぇよ!!」
河南に掛ける言葉は、けして気休めなんかじゃない。俺たちは本気で優勝を狙うために頑張ってきたのだ……それなのに応援団長がシケた面してちゃ、全体の士気も下がってしまう。ここまで来たんだ……“正々堂々・勇猛果敢”な青団には引けをとらず、“頭脳プレー・策略家”な黄団とも互角に渡りあえていること事態が不思議なくらいだけど、それでも俺たちはここまで頑張ってきた……。
なら、最後まで―――
「堂々としてろよ!俺たちは負けない……絶対に負けない!そうだろ!!」
大きな目標を掲げ、自分たちを信じるしかないんだから。
「……そうだな。悪い、俺としたことが」
「気にすんなって!」
「どちらかといえば、相澤のほうが応援団長みたいだにゃ!」
「ホント、いっちょ前にカッコつけちゃって!」
「まったく、由希はおいしいとこばっか持っていくんだよなぁ!」
「……(こくり)」
「いやいや、それでこそユキだ!そんなユキだからこそ、私は惚れているのだ!!」
やいのやいのと言いながら、場は一気に和やかなムードに変わる。適度な緊張感も漂っちゃいるけど、それが逆に心地よい……。さりげない美雪さんの告白も、かつてはあれだけ耳障りに聞こえていたけど、今はそう思わなくなったし、何より嬉し……嬉……うれ……あ?……あれ~?今、美雪さんの声が明らかに聞こえたよな~~?でもここは青団応援席裏で、なおかつ暗幕まで張ってあるから美雪さんが居るわけ……居る……わ……け―――
「あ、綾館先輩にゃ!」
「あれ、どうしたんですか?こんな狭いところまで来て」
「うむ、ユキの彼女たるもの、彼氏を温かく送り出すのが務めではないかと思ってな!」
な、な、な―――
「な、なんで青団の美雪さんがしれっと紫団に紛れこんでるんですかっ!!」
「む?いかんか?」
「い、いかんもなにも、青団でしょ?!ここは敵地ですよ!ってかさり気に後ろの刺繍を覗き込もうとしないでっ!!」
「ユキはけちだな!少しくらい良いじゃないか!」
「ダメったらダメです!!」
あ、あぶねぇ!ついつい何時ものペースに乗せられるところだった……それにしても神出鬼没なところはホントに変わんねぇ……って、結城も如月も普通にもてなしてんじゃねえよ!!