89:“あの人”再来!
サブタイトル通りです。かつて1度だけ登場したことのあるキャラが、本当に久しぶりに登場します。ユキは語りです。
【全学年合同ダンス】終了後は、【部活対抗リレー】や各学年による【組み体操】や【マスゲーム】という得点に関係の無い競技が展開された。中でも男子全員参加の【組み体操】では、3年生最後の華である“5段タワー”という大技を成功させ、関係者・保護者・先生など、学校に来ている人たちから多くの拍手や暖かい声援が贈られた。俺ら2年は最大で5段の“ピラミッド”を成功させたが、やはり3年生の偉業ともいえる“タワー”には到底かなわない。けど、みんなで何かをやり遂げた達成感というものは、やはり何ものにも代えがたい産物だった。
そして現在、個人競技で力自慢の“花形競技”ともいえる【俵上げ】が行われている。これは30キロある俵を、誰が最後まで持ち上げ続けることが出来るかという“耐久戦”である。ちなみに女子の部もあり、女子用の俵は20キロある。
まぁこういう力を要する競技に参加するのは、やはりそういう類の部活動生(相撲部とか柔道部とか)が多く、生半可な気持ちで参加した奴らは早々に脱落。我が紫団からは1年に柔道部の高山、2年からは相撲部であり応援団の“旗持ち”である大峰、3年からは同じく相撲部の島木先輩が出場。1年の高山はやはり未経験の競技で要領が掴めずに早々に敗退。島木先輩は健闘も虚しく5位となった。
そして2年の大峰……コイツはさすがだ。伊達に相撲部副将に座してはいない……並みいる強敵(と思われる)がことごとく敗退していく中、未だ顔色一つ変えずに俵を持ち上げ続けている。
「大峰、いいぞ!頑張れぇっ!!」
参加人数15人中13人が脱落し、残すは大峰(紫団)と青団の3年の一騎打ちとなる。ここで紫団から声援が入ると、大峰は紫団応援席の方へと顔を向け、ニコッと笑みを浮かべた。
“気は優しくて力持ち”そのものの大峰は、まさに頼れる同級生だ。そんな相手に一歩も退かない青団の3年生もなかなかのものだが、いかんせん体型が違う。大峰は相撲取りでよく表現される“あんこ型”で、どっしりと構えている。それに対し青団の3年生も、身長が高くて体格こそ良いが、大峰のようなどっしり型ではではない……というより―――
「……あ……!」
なんとな~く見覚えのある顔だな、なんて思っていて、今更になって気付いた……。あの人“番長”じゃねえか!!(09:喧嘩ですか?いいえ、決闘です より参照)
「兄さん、頑張ってくださいっす!!」
「おうよ!任せとけっ!!」
おぉ、番長に子分(?)からの応援が入ると、ニッと歯を見せて応えている。さすが番長、まだまだ余裕そうだ!青団の女子からも「源九郎先輩、頑張って~!!」とか「大道くん、ファイトォ~!!」なんて黄色い声援が……つか、大道源九郎って、まんま番長っぽい名前だな!!
そういや最近(というより俺が怪我して以来)、“果たし状”が来なくなってたな……とんとご無沙汰だったし番長と会う機会が無かったから、ずいぶんと久しぶりに見た気がする。というより、5ヶ月経っても番長の風貌が全然変わってないような―――
そうこうしているうちに、両者とも顔色が少しづつ険しくなってきている。まぁ当然か……なんせ俵は30キロあるし、それを長時間も持ち上げ続けなければいけないのだから。
そして―――
「む、無念だ……」
ついに番長が高々と抱え上げていた俵を地面に落とした!結果、大峰(紫団)が番長に勝ち1位を獲得。これにより早々に敗退していた黄団との差を広げることに成功だ!!やったぜ大峰、さすがは頼れる“気は優しくて力持ち”だ!!
ガッツポーズする大峰に対し、満身創痍で地面にバタンと倒れた番長……もとい大道先輩。大峰は大道先輩に近づいて上体を起こすと、二、三言、なにか会話をやり取りし、互いにがっちりと握手を交わしていた。うぅむ、これが男の友情ってやつだ。女子にはわからんだろうが……
見事、力自慢の花形競技ともいえる【俵上げ】で堂々たる1位に輝いた大峰が帰ってきた。みんな「やったな!」「さすが!」「頼れるぜ!」「かっこよかったよ!」なんて称えるもんだから、大峰は恥ずかしそうに「ありがとう」と小さく呟いた。
そしてその巨体を休ませようと応援席の空いているスペースに腰を下ろした大峰に、俺はつい先ほど番長と何を話したのか、興味本位で訊ねてみた。
「いやぁ勝ったんだけど……どうしても腑に落ちなかったかったんだ。僕が大道先輩に勝ったってことが……」
大峰いわく、大道先輩がわざと負けたんじゃないかと思ったらしい。なんせ、両者厳しい状態ではあったが、大道先輩が急に俵を落としたことが、そう思わせていたらしい。そんなわけで、わざわざ「わざと負けたんですか?」と言いにいったんだとか。
「そしたらさ「いや、わざと負けるようなことは絶対にしない!何事も一生懸命がモットーだからな!!」って。じゃあなんで急に俵を落としたのかって聞いてみたら―――」
「みたら?」
「「みんなの気持ちに応えようと思って大声を出し続けたら、スタミナが切れた」んだって」
……それ、単なるバカじゃねえか!!!!