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85:前半戦の大勝負!

 前半戦最後の競技【学年別対抗リレー】。参加人数は1学年に6人(男子3人:女子3人)によって構成され、1~5人目までは半周。アンカーは1周半を走らなくてはいけない。競技配点も高く、1着で30点・2着20点・3着10点から、以下は5点づつに振り分けられる。

 当然配点が高いので、学年ごとに脚力に自信のある”精鋭”が揃っている。


 ちなみに2年の紫団のメンバーは、女子では”斉藤さん(剣道部)・長安さん(陸上部)・湊(帰宅部)の3名。男子は沖邑(水泳部)・長谷部(陸上部)と俺(帰宅部)の3名である。


 この場合、陸上部・サッカー部・野球部の3部活の割合が多いクラスが有利だろうが、かつては帰宅部のみの橙団が1着でゴールしたという記録も残っているので、どの団も侮れない。

 またリレー競技の場合、速さで均衡している状態であれば”バトントス”がもっとも重要だろう……。


 そして前半戦の最後の競技ということで―――


「”紫雷”に恥じない走りを見せろよぉっ!!!!」

「”朱雀”の橙団の意地を見せてやれぇっ!!!!」

「”青龍”も勝ちに行くぜぇっ!!!!」

「”白狐”のように駆け抜けろぉっ!!!!」

「”赤帝(古代神話の皇帝)”の威厳を見せてやれぇっ!!!!」

「”猛虎(黄団)”の速さを期待してるぜぇっ!!!!」

「”翡翠鳥(緑団)”のように輝けよぉっ!!!!」


 各団に掲げられた”団看板”をバックに、応援にも熱が入っている。

 そうそう、俺らの団看板には最初”紫龍”が描かれていたが、早くも2枚目の”サンダーバード”に変わっている。

 ※”サンダーバード”とは北米の神話に登場する巨大な鳥であり、伝承では大きな羽を羽ばたかせることで雷鳴を生み、目・または翼やくちばしから紫色の稲妻を発すると言われている。もっぱらの食事は鹿などだが、ときには大海原へ鯨を捕りにいくこともあるという。ちなみに日本にも生息している”雷鳥”はキジ科の鳥類であり、英名は”ターミガン”または”グラウス”で、看板に描かれている”サンダーバード”とはまったくの別物である。

 まぁそんな強大なイメージが強いことから、うちの看板係も”サンダーバード”を描いたのだろうが、俺の父の時代の”サンダーバード”といえば、某テレビ番組だろうと思う。


 まぁ意味のないことをつらつらと説明しているうちに、早くも1年生の部がスタート。各団共に足の速い精鋭が一進一退の攻防。若干リード(先頭)しているのが黄団だが……あ!バトン落とした!!

 ……これがあるからリレーは怖い……あっという間に黄団は最下位である……っと!今度は紫団(女の子)がこけた!!選手もトップを走る緑団は4人目にバトンが渡り、残すはあと2人……って遅っ!!まさかの失速である!なぜにこの選手(男)が選ばれたのかはわからんが、2位(青団)・3位(白団)との差は一気に縮まってゆく。他の団も負けじと猛追するが、紫団の最下位は免れない可能性大。

 ここで逆転に成功した青団が一気にトップに躍り出る!そして5人目にバトンが渡……ってちょっと渡すタイミングがずれた!その間に2位の橙団が……って橙団!?いつの間にか2位まで浮上してる!あぁっ!トップだった緑団が4位まで後退してるし、白団も3位のままだ!赤団は一定のスピードで下位(5位)をキープしているが、黄団はまさに”猛虎の如き”速さで赤団との距離を詰めている。紫団も最下位ではあるが、まだ諦めていないとばかりに猛追!


 ……が、健闘も虚しく最下位でフィニッシュ。結果、1年生の部は1着に橙団・2着に青団の順で白団・緑団・黄団(最後に逆転に成功)・赤団となった。


「先輩ぃ、すみません!っく…うぅ……」

「しゃ~ないしゃ~ない!それよりも怪我は大丈夫か?」

「わ、私は大丈夫ですけど…っく、で、でも私…私のせい……っうぅ…ビリになっ……」


 こけて怪我した足が痛いのか、それとも自分のせいで最下位になったことが悔しくて泣いているのか……その理由も定かじゃないが、わざわざ俺ら2年・3年の場所までやって来て謝るということは、よほどこの後輩(女の子)は紫団のために勝ちたい一心で頑張ってきたんじゃないのだろうか……。

 そんな後輩にかけてやれるのは、俺以外の同輩・先輩が口にする「気にするな!」って言葉だけ。けど、そんな言葉に加味(嘘)をする(言う)ことによって―――


「まぁ気にするなって!それよりもまずは足の怪我を手当てしてもらってきな。ビリになったのが悔しいのなら、俺らが仇を討ってやるから心配すんな!!なっ?だから泣くな!この次に出る競技で頑張ればいいんだし……な?」

「…っく…は、はいっ!……私、頑張ります!!ありがとうございました!!」


 気休めの嘘でも、救えるモノだってあるんじゃないかと思う。正直な話、リレーのような”走る競技”で頭を使うのは皆無。1着になれるかどうかなんて、そんなの誰にもわからない……。

 だからといって口に出した言葉を簡単に引っ込めるつもりもない。

 だから―――


「みんな……悪いっ!俺が勝手に口にした言葉を押し付ける形になっちまった!!……けど、俺は紫団のためにも、わざわざ謝りに来た女の子のためにも勝ちたいって思ってる。だから―――」

「相澤、勝ちたいのは誰だって一緒だ!だから押し付けられたつもりもないし、勝てるかどうかなんてわかんねぇけど、俺は全力で走るぜ!!」

「そうだよ相澤!頭上げなよ。紫団応援副団長に頭なんか下げられちゃ、私らが困るって!」

「大体、俺らの目標は”優勝”なんだぜ?こんなところで負けるつもりなんてねーし!!」

「そうそう!あの子一人のためだけじゃなく、紫団全員のために!!」


 ……ははっ、みんなは頭を下げた俺に「何を当たり前なことをいってるんだ?」とばかりに笑ってくれた。団結心はどの団よりも固く、その目標は皆が同じ……。

 目指すは”優勝”の二文字、誰だって負けるつもりは毛頭無い!!


「紫団の優勝のために……”勝つ”ぞ!!」

『オォォッ!!!!』


 



 文字通りの”一致団結”。その目標のために、俺らは自分に与えられた力の限りで走った!走って、走って、バトンを次の走者(湊)に渡す。軽やかな走りである。走るというよりも滑るような速さだ。けど、どの団も足に自信のある精鋭揃い。距離だって一歩か二歩の差くらいしかない……それでも、みんなの足に妥協はない。俺→湊→沖邑→斉藤→長谷部……そしてアンカーの長安さんへとバトンは繋がれた。

 「長安、頼むぜ!」と長谷部がバトンを渡す際に長安さんへと言葉を掛けた。それに対し長安さんは、バトンを受け取る直前、走り出しながらも黙って頷く……。

 現在僅差で2位、この長安さんで紫団2年チームの着順が決まる……みんなの願いはただ一つ……


”勝つ!!”


 託されたバトンを手に、アンカーの長安さんは何を思っていたのだろう……もう、俺たちに出来るのは”祈る”ことだけだ。

 僅差ながらも縮まらない差、近づくゴール……結果を見る前に目を閉じてしまったのは、負ける姿を想像してしまったからか、それとも、一生懸命に走ったから、着順なんてどうでもいいと思ってしまったからだろうか――――


『オオォォォッッ!!!!』


 再び目を開けたとき、大きな歓声……息を切らす最終走者アンカー……そして―――


 ―――応援団スタンド席へと”ガッツポーズ”をした、長安さんの笑顔が俺の目に映っていた。

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