08:編入ですか!?メイドさん
後半はちょい真面目です。
「おい!とびっきり美人な転校生が来るらしいぜっ!!」
教室に入って早々、大川健一という一人前に名前を持つバカが、意味不明な噂を男子連中に振り撒いていた。なんでも留学生らしき外国人の生徒が、職員室に入って行く所を目撃したらしい。
「なぁユキ!美人だぜっ!!女だったぜっ!!!!」
「その美人の留学生が、このクラスに来るとも限らんだろ。大体、同学年とも限らんし」
「ユキは夢が無いっ!あ〜あ、綾館先輩から激ラヴでモテモテな奴は言う事が違うなぁ〜!!」
ドフッ!!!!
「ぐわあぁっ!?!!!!」
「どうした?腹が痛いのか?」
「ユキが殴ったんだあぁぁあっっ!!!!!!」
ち、バレてたか。ま、いいや、バカだし。
「ひどくねっ!?俺の扱いひどぎやゃあぁぁあ!?!?」
「あ、なんか踏んだ」
「おはよう如月」
鳩尾に一撃を受け(というか俺が殴った)、床に突っ伏したバカだが、哀れ………我が隣席に陣取る如月から踏まれている。進行系で。
「ねぇ、この床ぐにゃぐにゃしない?」
「気のせいじゃね?」
「もはや物体扱い!?ってか痛い痛い痛いぃ!!!!!!」
「あ、なんだ大川だったの。床と一体化してたからわかんなかった」
「わかるわかる」
「わからないでぇ!!!!」
バカ弄りも飽きた。
「さてとバカはほっといて……」
「急に冷めた!?」
バカがうざったい。
「この学校に転入生が来るのは間違いないみたい。さっき奏が見たって!」
「ほぉ、湊が言ったのなら間違いないな」
「俺ってそんなに信用ない??」
「「ない」わ」
ちっくしょぉぉお!!!!って捨て台詞を吐きながら教室を出て行ったバカ。もう少しで先生来るのに………ま、いっか。
それにしても、湊から聞いたのか。湊の声って綺麗だもんなぁ………普段は黙ったままだけど。
「席着け〜」
ってけだるい感じで、担任が教室に入って来た。さて、今日も学校が始まる!って感じだな。
◇
英・数・体・情(情報処理)の4限を終え、昼休みである。転校生は、やはりこのクラスではなかったので、クラスの雰囲気にざわつきは無い。だが、妙に廊下の方が騒々しく、その喧騒が、徐々に近づいてきてるような………。
「あ、ユキ様発見!」
うおぃぃ!?!?まさかのメイドじゃねぇか!!!!つかユキ様言うな!教室内が凍りついてる!!
「どうだ!リリナの制服姿は!!悔しいが私以上に似合っているだろうマイダーリン(予約)!!」
「やっぱりアンタか!つかマイダーリン言うな!!」
教室の扉バーン!的な豪快な登場で、颯爽とこっちに来る先輩。あと(予約)ってなんだ!?
ざわつく教室の内、外なんてお構いなしに、メイド(制服Ver.)を引き連れた先輩は、学食に飯を食べに行ったクラスメイトの空いた席を、俺のグループに引っ付けて腰かける。メイドも同様に、だ。
「やはりメイドたる者、つねに主の傍にてお仕えするのが使命であり、こうして編入という形で、お嬢様のお世話を務めているのです」
「メイドなど侍従など、堅苦しい事など関係無いと言ってはいるのだが。第一、私とリリナは書類上、姉妹という関係だ。まして私はリリナを実の姉のように思っているのだが……」
「「「は?」」」
「こら、皐月。寝るな」
「むにゃ(寝言)……」
「………(もぐもぐ)」
俺・如月・大川は揃ってキョトン。結城は河南から軽く肩を揺すられてるが起きる気配が無く、湊は無言で弁当に集中。緊張感はあまりない。
「リリナは養子縁組をしているから、私の姉なのだ。だが、頑として侍従を辞めんのだ」
「人には分相応な立場というものがあります。私など、侍従を務めさせて戴くだけでも身に余る事。まして姉と呼ばれるなど……」
「いつもこうだ。ユキからも何か言ってくれないか?」
う〜〜〜ん……あんまし人のプライベートに口を挟むのはなぁ。
「ってことは、俺がリリナさんの彼氏になれば、先輩は………」
あ、バカがバカな事考えてる。
「リリナさん!俺のスウィートハニーになって下さいっ!!」
「全力でお断りします」
「バ〜〜カ♪」
「バカだな」
「身の程知らずってやつか……」
「うみゅ〜……」
「………(コクリ)」
「こんな義弟いらん!」
「ちっくしょおぉぉお!!!!!!」
グッバイ大川。やっぱりバカはバカだな。っと、それより先輩とメイドの話だったっけ。
「……まぁ、俺が先輩とリリナさんの事をとやかく言うつもりはないんですが、お互いに折り合いをつけたらどうですか?」
「「折り合い「ですか?」?」
「リリナさんは、自分の意思を貫いてるのは立派ですが、少しくらい先輩の言葉にも甘えたらどうでしょうか?先輩は一人娘みたいだし、自分の事を妹として見てほしいんでしょう」
ま、あくまで俺の考えではあるから、真意なんてわからないが。
「先輩も同じく、リリナさんの意思を第一に考えるべきですね。書類上では姉妹でも、いきなり妹として接してほしいというのは無理でしょうし、リリナさんが侍従として働いているのも、立場というより、案外好きだからかもしれませんし」
これもあくまで俺の思った事。そう感じたのは、俺ん家で朝食を作っていた(温めていただけだが)時や、その飯を食べた俺や妹の反応を見て、本当に、本当に嬉しそうな顔をしてたからだ。
「だからどちらも、その考えを尊重したうえで、どこかに折り合いをつけたらどうでしょうか?」
他者からの言葉っていうのは、当人達からみれば薄っぺらい言葉にしか聞こえないのかもしれない。もちろん、俺の言った言葉は二人の立場になったとして考えて口にしたんだし、他人のプライベートに口を挟む以上、生半可な気持ちで言ったつもりもない。
真意なんて定かじゃないし、知りうるのは、当人だけなんだから……。
「……たしかに」
「そうですね……」
でも……
「ユキの言う通りだ。リリナの気持ちを尊重する事が、今の私に出来る一番の事なのだな」
「私も、自分で勝手に作った《立場》という言葉に、少し囚われ過ぎていたのかもしれませんね。ユキ様の言葉は、とても心に染みました……」
薄っぺらな言葉でも、それで誰かが救われるのであれば、それもまた、良いものかもしれない。
「へぇ、相澤もたまにはいいこと言うじゃん」
「だな」
「………(コクリ)」
なんだよ、別にいいじゃねえか。
「やはり私の目に狂いはなかったな!それでこそ私の夫(2年後)だ!!」
「言葉が深いです。さすがはご主人様(今から)です!!」
ただねぇ……あんなにも真面目に考えて口にした言葉なのに、相手がこの二人っていうのがねぇ。2年後って……今からって………