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83-1:借り物競争・前編

 タイトル通りです。前話のあとがきに記したリリナさんは、まだ出ません。

 まだ体育祭も序盤であり、各団の得点にもばらつきは無い。そんな中で迎えた【借り物競争】に出場予定の俺には、一抹の”不安”というものが付きまとっている……。

 揚々と美雪さんのいる青団へと戻っていったリリナさんを見送った後、結城たちに丸投げした”相談”ごとの解決方法をさりげなく聞いたとき、結城から帰ってきた言葉は―――


「そんなの簡単にゃ!「”リリにゃん”はリリにゃんらしく、いつも通りで楽しめばいいから」って言っただけにゃ。下手に気構えたら、かえって楽しめなくなるから」


 ―――と。


 うん、まぁその通りだ。俺も結城たちと同じ立場で言葉を贈るとすれば、同じようなことを口にしていたはずである。

 ただ……ただ、だ。


 相手は”一般”に属する人物じゃない……”リリナさん”である。綾館家の専属の侍従メイド長であり、その才能は家事・身体能力・頭脳において、他を圧倒する。

 そんな人物に”いつも通り”という言葉を贈るべきなのか……?俺が不安に思っているのはその事だ。

 まして、最近じゃ性格も美雪さんに似てきている……それだけ、過去は自分の自我を押し殺してきたことにならないだろうか……


「ユッキーどうしたにゃ?早く入場門にいこうにゃ!」

「あ、あぁ……」


 河南に手を引かれ、なんとも小動物的な雰囲気すら漂う結城に促された俺は、未だ漠然とした不安を抱えたまま、選手入場門へと歩き出した。


「うおぃ!俺を置いて行くなぁ!!」

「相澤先輩、俺もいるっす~!!」

「あぁ、悪い。いくぞ門司!」

「はいっす!」

「俺は無視かよ!?」


 うるさい健一バカ!ただでさえ俺は今【注目の的】になっちまってるんだ、余計な大声出すんじゃねぇっ!!







 募る不安とは裏腹に、紫団はおろか隣の応援団席の赤団(の中の男のみ)のテンションも、異常なほどに高い……。

 その主たる原因は、先ほどリリナさんが話していたこと「借り物競争に参加しなくてはいけない」が関係している。なんせ「ぜってぇあのリリナさんと手を繋いでゴールするぜ!」だの「なんの!俺の俊足で虜にしてやるぜ!」だの「リリナたんはぁはぁ……」だのって、いつぞやに聞いた変態」まで混じってんじゃねぇか!?

 しかもそれだけじゃない。なんか、俺(とその一部)には見覚えのある”格好”をした”女の人”までが、なぜか関係者用のテントで準備スタンバイ中………獅子神さんだ。

 そんな獅子神さんの姿に「ねぇ、あの人って化粧品CMの……」だの「うわぁ、実物もめっちゃきれいじゃん!!」だの「え?あの格好って暴走族じゃ……!?」だのと口しているのは、殆どが女子や保護者である。

 そんな声が耳に届いたのか、リリナさんは男子の方へと顔を向けて”ニコッ”と微笑み、獅子神さんは照れくさそうに鼻っ柱をポリポリと掻いたあと、女子の方へと小さく手を振っていた。


「リリナさんのメイド服姿も可愛いよなぁ!!でも、獅子神さんの特攻服姿の凛々しさも捨てがたいし……うひょひょ!!」


 と、健一バカは変な妄想を始めたので、俺の隣に居る門司もじに「あんな風にはなるなよ」とさりげなく忠告。もちろん健一のように空気が読めないわけでもない門司は「あのポジティブな考え方だけは尊敬できるんすけどね」と、苦笑い。

 健一……後輩に見放されても、頑張れ……何を頑張ればよいのかアドバイスは出来ないけど。




→→




 そして【借り物競争】がスタート!まずは1年の男女からである。この場合、普通なら男女別に分けられる競技かもしれないが、今年から【男女混合】として正式に決まった。

 京都先輩いわく「借り物競争はただ走るだけじゃなくて、指定された”借り物”が重要だから、体力は関係ないんだよ!」とのこと。まぁ言いたいことはよくわかる。いくら脚力・体力に優れていようと、指定された【借り物】自体を上手く見つけださなけれな意味がない……要するに、【借り物】さえ上手くゲットできれば、足が遅かろうと充分にトップを狙えるのだ。


 そんな思惑を知ってか知らずか、一斉にスタートした1年生たち。門司は……うん?周りを気にしてか、先頭から遅れて現在5番手……既にトップの男は【借り物】の書かれた封筒を開けている。

 ……が、あれ?なんで固まってるんだ??その間に続々と後続が封筒を手にして……何人かが物・人の類を探し始めた。

 門司は……お、すでにアナウンス席のほうに足を向けている。


≪えぇっと、自分のカードは【会社を経営している・もしくは重役のポストに就いている人】っす!該当する方は放送席に来てくださいっす!!≫


 難易度ハードル高っ!!何それ?漠然としすぎじゃね!?!?しかもこれ「自分は会社を経営してるんだよ!」だの「自分は管理職に就いてます!」だのと、下手すりゃ自慢にもなりなねない内容だし、保護者も逆に出て行きづらい!

 しかし門司、放送を上手く活用したのは見事だ!先に封筒を手にしていた奴等も、ようやくその活用法に気付いたらしく、門司が使用したあと、奪い取るようにそれぞれの【借り物】をアナウンスを使って探している。

 それにしても、門司の指定した人物とやらは簡単には見つけ……あれ?目を擦ってグラウンドから放送席の方へと走っていく女性をよくよく見る……あぁ、そういやすっかり忘れてた……。


≪おおっと、紫団の門司くんの指定カードに該当する人物が現れた模様です!……えぇっと、門司くんの指定カードには【会社を経営している・もしくは重役の人】でしたが、では発表をお願いします!!≫


 発表するの!?


「【Clair化粧品】代表取締役社長の相澤奈々子です!息子の由希がお世話になってます!!」

≪おぉっと!2年二組、紫団応援副団長の相澤由希くんのお母さんはなんと!幅広い女性から支持を集める化粧品会社”Clair”の社長さんです!!もちろん条件クリアーですので、ゴールへとお願いしまーす!!!!≫


 くそぅ、このアナウンス俺に恨みでもあんのか!?本人は名調子だと思っているだろうが、名指しされた俺はたまったもんじゃない!

 こうして俺の傷心とは裏腹に、門司とお袋の活躍(?)によって1着となった紫団。その他続々とゴールしていく各団とは裏腹に、1番最初に封筒を手にし、未だ固まった生徒の手に残されていた指定カードには、この学校で禁忌きんきとも云われている【教頭先生のカツラ】と記されていたそうな……。

 

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